死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う


死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う


 ある調査によると日本人の80%以上が死刑について賛成だという。
 私もその一人なのだが、
凶悪犯罪が起きるたびにネットではすぐ
 「犯人を吊るせ!」…との意見が多く見られる。


 その発言に、どこか違和感を覚えるものの
その理由を自分の心ながら説明することは出来なかった。
 そんなわけでこの本を読んでみた。


 まず私が知らなかった知識を与えてくれる本。
 本書によれば2007年10月2日現在、
死刑を廃止している国は90ヶ国。
 戦争時や、廃止はしていないが
過去10年以上死刑執行していない国を含めると133ヶ国。
 そして死刑を実施している国は64ヶ国。
 アメリカ(州によって実施と廃止の違いがある)を除いて
死刑実施の国はほとんどが中東と日本を含むアジア、
さらにアフリカの一部だという。
 これだけでは「だからどうした」とも言える。
 死刑廃止が世界的趨勢だとしてもそれがどうした、と。


 しかし、死刑廃止をした国の凶悪な犯罪率が上昇したという事実が
『無い』、というデータには注目すべきだろう。
 死刑の理由である「犯罪の抑止力と成り得る」が否定されてしまうからだ。


 さらに「日本では凶悪犯罪は増加していない」。
 詳しいデータはこちらのリンクを参照。
 http://homepage2.nifty.com/ukiuki/kyobo.html


 この辺は森氏も「マスコミに責任がある」としている。
 他国と比べて、凶悪犯罪を前面に取り上げ過ぎていると。
 (私は他の国のマスコミを知らないので
  何とも言えないけれど・・・どうなんだろう?)
 そのため印象として「危険な世の中になった」という世論が作られると。



 森氏はこの本の中で様々な人に会う。
 死刑をテーマにした作品を描く漫画家、
死刑囚、元刑務官、弁護士、政治家、被害者遺族、存置派、廃止派・・・。
 会うほとんどの人が死刑を廃止にするにせよ存続させるにせよ
どこかに迷い、ゆらぎがある。


  冤罪というものがある限り
 (そして現在の日本の法制度ではそれが起こりやすくなっている)
その最悪の結果として死刑が実行されるのは許されないことだ。
 しかし、そうは言っても被害者家族の感情を考えると
犯人の死刑を望む人も多いだろう。


 
 その「死刑を廃止するなら被害者の親族のことを考えろ!」という意見もあるが
本の最初に「被害者の親族だが死刑に反対」という人が出てくる。
 確かにそういう人に対面した場合、
死刑賛成派の自分はその人に対し何を言えるか?



 読後に、自分は死刑存続派か廃止派か、と自問自答すれば
やはり存続を支持する、と答えることになるが、
それでも凶悪な犯人だからといって、「人を殺す」ことを容認しても良いのか。
 (「死刑」という名称ではなく「殺人刑」とするべき、という主張は頷ける)



 マスコミの報道偏向ももちろん
(「反省の色なし」などの報道は多くされるが、その反対は滅多にされない)
「殺人事件の犯人」は自分たちとは違う「非・人間的」な存在なのだという主張を
助長している気もする。
 「殺人犯は“人”では無い」…それによって死刑への心理的負担を軽減するのだと。


 その辺は死刑囚とも個人的に知り合いである森氏の意見が胸に迫る。
 (・・・しかし同時に、被害者への共感が少ないことも疑問に思うのだが)


 最初に戻り。
 ネットでは凶悪犯罪が起きるとすぐに
 「犯人を吊るせ!」という言論が目立つが、
そういう人たちにこそ読んで欲しい本。
 死刑について単純な結論などはなく、
ひとつひとつの事例に当たり
考え続けなければいけないということ。



 そういう意味でこの本は、実に有益な“ゆらぎ”を与えてくれた。