2008年読んだ本 ベスト16


・・・なんと中途半端な数だ。
や。このブログや他所で書いた本の肯定的な感想を数えると
30以上になったんで、これでも絞ったんだけど・・・。
(昨年はベスト11挙げた後に、
 補足で6作品書いたんでした…)


今回は16位から9位までを。


第16位
「百瀬、こっちを向いて。」 中田永一


百瀬、こっちを向いて。

百瀬、こっちを向いて。


恋愛小説の短編集。
中田永一という作家は初めて目にするが
某有名作家の別名義らしい。
登場人物が小学生から大学生ほどの若い年代ばかり。
しかも恋愛モノ、というおっさんにはキツイ本ながら
ハマった!面白かった!!


書評家の北上次郎氏は「ベタな設定が魅きつける」
みたいなことを書いていましたが
うん、設定自体は確かに「なにこの20年前のマンガ」とか思います。
しかし、その舞台を登場人物の生き生きとした描き方で魅力あるものに。


気に入ったのでアンソロジー「I LOVE YOU」に入っている
表題作も読んでみたけど。
なるほど、単行本では文がけっこう削られてるんですね。
でも個人的には削った分、読み手の想像を残す単行本の方が好き。


読みやすく、そんなに本に親しんでいない若い人にもオススメできます。
うーん、百瀬。魅力的だ・・・こっちを向いて、って言いたくなるわ。





第15位
「料理人」 ハリー・クレッシング


料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)

料理人 (ハヤカワ文庫 NV 11)


私の過去の感想はこちらで。


本の雑誌HPの読書相談室西上心太氏が勧めていた本。
30年以上前の本で筋自体は単純なものの
状況によって登場人物の振る舞いが変化していく
その精妙な描き方は今でも記憶に残っています。
ブラックユーモア?長編では語り継がれるべき名作でしょう。


・・・それにしても読書相談室
更新が終わってしまったのは悲しいなあ。





第14位
「やし酒飲み」 エイモス・チェツオーラ (土屋哲 訳)


アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)

アフリカの日々/やし酒飲み (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-8)


 こーれーはー面白かった!
 1952年にナイジェリアから飛び出してきた奇妙不思議な冒険譚。

 
 解説(管啓次郎氏)から引こう。

 そもそも「やし酒」って何だろうと訝り(中略)
このだらしない酒飲み小僧のために甘やかしの父親が
「専属のやし酒造り」を雇うことに呆れ、ついでたちまちのうちに、
そんな驚きは津波を前にしたスプーン一杯の水でしかないことを、
読者はいやというほど思い知らされることになる。

 おお、どんな話なんだ?!って思うでしょ、さらに引きます。

 何しろこの世界では、人と神と幽霊や妖怪のあいだに区別がない。
生者と死者のあいだにも区別がない。
かたちや運動を支配する法則が通用しない。因果関係もテキトーだ。
事件につぐ事件がひっきりなしに起こり、
白と黒だけでできているページに、パチパチとカラフルな光が飛ぶ。
ついたとえたくなるのはわれらが水木しげる先生のマンガだが、
文字という抽象度の高い存在だけで作られているこちらのほうが、
読者の想像力にとっては自由度も高い。頭が、野放しになる。
それで目を丸くし、口をあんぐりと開け、獣も驚くような笑い声を
ときどき立てながら、読み進めることになる。


 6年間しか教育を受けていない著者の不思議な英語を
「〜だ」「〜です」と文末を統一せずに訳した、リズムある土屋氏の名訳。
 世界には私が知らないだけで、
その筋では超有名な作品がたくさんあるんだなあ、と思い知らされた傑作でした。

 
 しかしこの「やし酒」・・・いったいどんな味なんだろう、ゴクリ。





第13位
「ザ・ロード」  コーマック・マッカーシー


ザ・ロード

ザ・ロード


 (おそらく)核戦争後のアメリカ。
 作物は育たず略奪と食人が横行する神の無い世界。
 救いの無い世界を父と幼い息子が南へ向かう。


 その内容からもっとドラマティックなものを予想していたのだが
寂寞とした風景と感情、無常観が支配し、純文学に近い印象。
 (暗闇の中で紙が薔薇のように燃える模写の美しさなども)


 希望が無い世界、希望が無い未来へ
自分の息子を残してしまうことの是非。
 これは読む人に子供がいるかどうかでかなり印象が変わる小説。
 「実際に子供がいる人にとっては恐怖小説」という感想もそうなのだろう。
 父である主人公はある事を行うのを迷いながら結末を迎えるが・・・。


 それはある種の“救い”なのだろうか? いや、しかし・・・
 などと読み終わった後、荒涼とした風景が心にずっと残る、そんな小説。





第12位
「フロスト気質」(上・下) R・D・ウィングフィールド


フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 上 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)

フロスト気質 下 (創元推理文庫 M ウ)


ミステリ年間ベストものではあちこちで上位になっている作品。
このシリーズ大好きです。
下品でルーズ、しかし仕事中毒なフロスト警部
上下でかなりの厚さがある作品なのだけど
それでも読み終わるのが悲しかった!


作者のR・D・ウィングフィールド氏が亡くなったため、
未翻訳のフロストシリーズはあと2作品だとか。
あああ、そう聞くと残りを早く読みたいような読みたくないような…。


この「フロスト気質」、そのダメさ加減が
読者の共感を得ていると思うのだけど
最後の最後で、そのダメさそのままで
「…フロスト警部、かっけーなあ!」
と痺れてしまう場面がありますよ。さすが。







第11位
「比較文化論の試み」 山本七平


比較文化論の試み (講談社学術文庫 48)

比較文化論の試み (講談社学術文庫 48)


とある住職さんがそのブログで勧めていた本。
「ひとりよがりで同情心のない日本人」
「無宗教だが他人が宗教を信じるのは認める日本人」
…「え?」という作者の主張が本文を読むと納得。
そしてその日本人の特性はどこに由来するのか?


自分の思っている「現代的で普遍的な考え」が
実は昔からの日本人の考えであった、という驚き。


その住職さんの本書へのお勧めの言葉。

自分の考えは絶対ではなく
ある時代ある地域の中でしか通用しない
極めて限定的なモノの考え方であると
気づかせてくれる必読・必携の一冊


読むべし! 私も読み返します!!






第10位
「叱り叱られ」 山口隆


叱り叱られ

叱り叱られ


 サンボマスターのヴォーカル&ギターの山口隆
山下達郎大瀧詠一、岡林信康、ムッシュかまやつ佐野元春奥田民生
錚々たるミュージシャンと対談した本。


 私の過去の感想はこちら


この本読んでから、各ミュージシャンのCDを聴いたり
ネットで探したり。
表現する人への凄みも感じさせ、
日本の音楽への興味が増してくる本。
第2弾もぜひ出して欲しい!






第9位
「赤めだか」 立川談春


赤めだか

赤めだか


みなさん、2日深夜のNHK
「新春蔵出し!まるごと立川談志」観ましたか?!
いやー凄かったですねえ。
理論と感情の両側面から再構築された
師匠の「芝浜」なんて素晴らしかった。


というわけで番組にも出演していた「談志原理主義」の
談春師匠の本です。
既に講談社エッセイ賞も受賞し
評価が高い本書ですがやっぱり良いものは紹介しないと!


高校を中退して、談志師匠の下へ弟子入りした談春師匠。
辛い修行時代、同じ前座との別れ、
芸の追及・・・落語に魅せられた者の涙と笑いが詰まっている名作。


個人的に師匠の談志が最初の稽古で


「落語を語るのに必要なのはリズムとメロディだ」


と言う場面があるのだけど。
この名言、落語だけじゃなく、文章でも、マンガでも同じだよね。
特にリズムの方。




(続きます)