2008年読んだ本 ベスト16(3位〜1位)

第3位
「滝山コミューン1974」 原武史

滝山コミューン一九七四

滝山コミューン一九七四

 1974年、東京都東久留米市のマンモス団地近くの小学校で
実行されていた教育、それはソビエトに範をとった
民主主義の名に基づく、
「全生研教育」という集団主義教育活動だった。
 班活動の競争によって出来上がるおちこぼれの“ボロ班”、
連帯責任や自己批判の圧力、他者への追求という名の批判。
 生徒会選挙への行過ぎた立候補者演説、
卒業式での呼びかけなど。


 この本に書かれていた教育は舞台から遠く離れた
札幌での私の小学校時代とかなり似ているもので驚いた。
 さすがにここまで全体主義への傾向による抑圧は
無かったように思うが、
革新政党が躍進する比較的大都市では、
当時このような教育がなされていた可能性が高い。


 早熟な少年の目から見た、この小学校の姿は
ひとことで言えば「薄気味悪い」。
 「みんな」「ひとつ」の名の下に、
個性や個人の主張はたやすく潰される。
 「サスペンス小説のよう」
 「侵略SFのよう」という感想も目にしたが
普通の児童が全体主義に染まっていき、
そして1クラスだけの活動が学校全体にまで広がっていくのは
ホラーの趣まである。


 文中

 私は当時の七小が、
文部省の指導を仰ぐべき公立学校でありながら、
国家権力を排除して児童を主人公とする
民主的な学園を作ろうとした試みそのものを、
決して全否定するものではない。
それどころか、 この稀有といってよい体験から
少なからぬ影響を受けていることを、いまの私はよく自覚している。
 しかし、ここで問題にしたいのは、自らの教育行為そのものが、
実はその理想に反して、近代天皇制やナチス・ドイツにも通じる
権威主義をはらんでいることに対して何ら自覚をもたないまま、
「民主主義」の名のもとに、「異質的なものの排除ないし絶滅」が
なぜ公然とおこなわれたのかである。
それはナチス政権下の公法学者となった
カール・シュミットと同じように、
民主主義に対するきわめて一面的な理解に
根ざしていたといえないだろうか。

 ・・・と著者は書いている。


 集団に、ある目標を達成させようとするとき、
少人数の班編成、その班による競争、
連帯責任と他への監視、批判、というのは
とても効率が良いように思う。


 だが、その“効率の良さ”から、
零れたもの、つまり「異質的なものの排除ないし絶滅」を
丹念に描いたノンフィクションでもある。


 この教育には「合唱」も効果的に使われ、
主人公も反発を感じながら、合唱による一体感に
喜びを感じる、という箇所がある。


 一見、民主主義と呼ばれるもの、
集団の活動や教育が人に何をもたらす可能性、
そして危険性があるのか。
 では今の時代に理想の教育、民主主義とは何か、
そんなことを読後も自問自答する刺激的な本でした。


 ただ、私の父は退職した小学校教諭で
この教育の実践者でもあるので本書を読んでもらい
感想を聞いたのだが
この教育を実践した本書の教諭が
「全生研教育」を極めて浅く認識して実行した、という
印象を持ったようだ。
それは本書の教諭の若さ、未熟な経験に基づくものでもあるのだろう。
(それなのに学校全体に広がる影響力を持ったのは疑問だが)


 あと著者は全生研の教育を批判しているが、
代わりの理想とする教育は具体的に明らかにせず、
批判に終始しているのが殆ど、という点を追記しておきます。
 塾がこの作者の安住の地になるのですが
受験技術を鍛える塾では学校の代わりに成り得ないのは自明。
 そして塾へ通う児童があまり多くなかった時代に
疎外感を味わう理由を、
その教育制度だけに大きく負わせるのはどうか。
 さらに、著者と圧力に苦しむ班長だけを大きく取り上げ、
多くの班員、児童のその後は取り上げない。
 その多くの児童は
 「充実した良い小学校時代だったよ」という感想が出る可能性も
あるように思います。
 著者の「全生研教育」への対応も、
小学校時代の体験による考察がほとんどで
その理想とする立場からの客観的な視点に乏しいとも言えます。
(まあ、あれだけの恐怖体験をしてしまったら
 そのような状態になるのは共感できますが)


 「全生研教育」そのものを悪としないことを
念頭に置いて読むべき必要はありますが、
本書から広がっていく問いと考察は得難いものでした。
 教育に関心がある方は、是非。







第2位
とらドラ!」 竹宮ゆゆこ


とらドラ!1 (電撃文庫)

とらドラ!1 (電撃文庫)


・・・お前、いくつだよ・・・。
そんなツッコミもどこからか聞こえますが
ハイ!無視して紹介します!!
「読むこと」がこんなに楽しく思えて
そのジャンルへの先入観をカンタンに壊してくれたことへ感謝!


目つきは悪いが普通の子、高須竜児は、
ちっちゃいのに凶暴獰猛、“手乗りタイガー”と
恐れられる逢坂大河と出会う。
そして彼女の知ってはいけない秘密を知ってしまい―。
それが竜虎相食む恋と戦いの幕開けだった!
(amazonから)


1巻だけ読んですぐ4巻まで買いに行って
あっという間に読んで続きを見たい!と願うも
既に書店は閉まっていて続き読みたさに
転げ回ったのも懐かしき思い出・・・。


いや、最新刊が9巻まで出てるんだけど
途中の巻で我に返ったんですよ。
「これは俺がラノベというものに慣れていないため
 目新しさで夢中になってるのでは?」
そんで、この作者のデビュー作
わたしたちの田村くん」も読んでみた。
・・・ああ、良かった。
この作者は明らかに「とらドラ!」で格段に巧くなっている。
自分がハマるのはラノベだから、ではなくて
この作者の優れた技量のためなんだ。


鋭く早いギャグの応酬と罵倒(…えーっと)、
魅力的なキャラクター設定、
伏線の張り方とその回収。
なによりデビュー作と違うのは
主人公=作者の内面世界の延長上を
舞台にしたものとは明らかに違って
とらドラ!」では自分とは違う他者、
広い世界との通じ方への視点がちゃんと入っていること。


最新の数巻は、
最初のテイストとは違うものになっているのはちょっと残念だけど
(キャラクター設定もどんどん裏返しになっていくしね)
それでも手にした途端、
読む目を離さない力を持ち続けているのは確か。


いわゆる「大人の読書人」へ広く勧められるか?
再読する価値はあるか?
…などと訊かれると口ごもるしかないけれど
すっげえ面白かった!楽しかった!!
という自分の事実は誤魔化せなかったのですよ。
そんなわけで「とらドラ!」を年間2位に付けます!!
あー、第10巻はまだー?!







第1位
「アラビアの夜の種族」 古川日出男

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈1〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈2〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)

アラビアの夜の種族〈3〉 (角川文庫)

聖遷暦1213年。偽りの平穏に満ちたエジプト。
迫り来るナポレオン艦隊、侵掠の凶兆に、
迎え撃つ支配階級奴隷アイユーブの秘策はただひとつ、
極上の献上品。
それは読む者を破滅に導き、歴史を覆す書物、『災厄の書』―。
アイユーブの術計は周到に準備される。
権力者を眩惑し滅ぼす奔放な空想。
物語は夜、密かにカイロの片隅で譚り書き綴られる。
(「BOOK」データベースより)


凄かった。凄かった。凄かった!
未読の読書好きは今すぐ本屋へ走って入手すべし!


・・・これで終わってしまうのもなんなんで。
物語の外に物語、さらにその外に物語・・・と
2重、3重もの構造になっている凄さ。
しかも内に封じているはずの物語が
“壁”の物語をぶち壊すほどの力を持っているのも凄い。
いや、その壁はそもそも外にあったのか?


読後そのあまりの読書体験に呆然としながら、
北村薫氏の


「人が物語を愛するのは
 自分の人生がひとつなことに対する
 ささやかな抗議なのかもしれません」


…という言葉を思い出してしまいました。
ネットで本書を検索すると
ネタばらしをしている所が上位に引っかかるので検索禁止!
amazonのレビューも読んじゃダメ!


文庫本なら全3巻揃えて、休みの前日に読むべし!




というわけで2008年読んだ本、ベスト16でございました。
読む本を選ぶのは「本の雑誌」を頼りにしていますが
(みんな、買って休刊の危機を救おう!)
今年はそれ以外にも
優れたブックレビューのブログを頼りにさせてもらいました。


特に「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」さんには
とーってもお世話になりました。(スゴ本=凄い本)
ベストにこちらのブログで勧められていた本が
いくつ入ってるか数えるのも面倒なくらい。
私が既読でスゴ本だと思っている「夜と霧」
「わたしを離さないで」にもしっかりとした感想がある。


そんな方が「とらドラ!はスゴ本」と強くお勧めしているのですよ。
そりゃ読まなきゃ!って思いますよね。


ブログ主のDainさんは読書によって
自分の先入観や固定観念が壊されて
世界が広がるのを何より楽しく思うような人。
何かを否定して賢さを誇ったりすることや
悲観的に物事を見るのではなく、
“良くなること”へ具体的な方法を探そうとしている人に見受けられます。


その膨大な読書量と優れた観察眼と文章力、
何よりその姿勢に最大級の敬意を表すと共に
最大級の感謝を捧げます!
(あと勝手にリンク集へ加えてしまいました…)




みなさん、読書って楽しいですよ!