「アリアンナの嘆き」 ロベルタ・マメリ


素晴らしい演奏会へ行ってしまいました。
2月12日、広島県民文化センター PM6:45〜
イタリア出身、ソプラノの新星:ロベルタ・マメリ(Roberta Mameli)さんを迎えた
同じくソプラノ波多野睦美さんと
リュートつのだたかしさんの演奏会。




17世紀のイタリア歌曲:最初の4曲で
「ああ、もう、代金3500円元取った!」と思い。
前半が終わって休憩時に
同じく来てたぜんぱくさん、M@あるさんへ
「…いや、もう、帰っていいぐらい」と言ったらぜんぱくさんに


「え? 帰るの??」と聞かれてすかさず
「帰るわけないでしょお!」と答えたオレっておかしいですか。


まず登場からして、8頭身とまではいかないけど
7頭身半ぐらい、黒ドレスでモデル体型のロベルタ・マメリさんが
イタリア歌曲の「Vorrei baciarti,Filli」
(口づけしたいのだが、ああ、フィッリ :S.ディンディア)を一声出すと。
うわ、うわわ、その声の輝き、透明感があるのに深みがあって、どこまでも伸びて。
さらに無理を感じさせない、そしてその弱音のコントロール。
旋律のなめらかさ、さりげなく、しかし確かに音楽に乗る言葉の数々、
またその言葉のニュアンスの繊細なこと!


最初の2曲はそんな風な
荒々しいイメージのイタリア声楽家、という予想が裏切られ
繊細にして説得力ある歌唱に感動していたところ
4曲目の「Usurpator tiranno」では、
(他の男が暴君のように :G.F.サンチェス)
時折挟む、フォルテッシモの熱さ!
高音域でまわりの全てを昇華させてしまうような力強さ!


波多野さんの歌唱ももちろん良かったんですが
うーむ、やっぱり、「ニホンジン」という口腔内の印象による響きや
ネイティヴが歌うイタリア語と“学んだ”イタリア語では
ちょっと違うようなー。


それでもマメリさんは若さも関係しているとはいえ
やや陽性で突き抜けたような表現は強烈だけど
心を引っ掻き、傷を残す、というものでは無く。
波多野さんは、長年の相棒:リュートのつのださんが伴奏とは違い
「協奏」している印象の説得力があり、
そしてその表現もフレーズの収まりとともに
聴く者の心へ深く沈んでいくような、
何かを考えさせてしまうような、
そんな哲学的で深い表現によって心に残るものがありました。


休憩後のマメリさんによる「アリアンナの嘆き」(C.モンテヴェルディ)も
暗い会場の中、スポットライトを浴び、
黒いヴェールを抱きしめるようにして始まった、
孤独に、切々と歌い上げるその舞台は、
まるでイタリア映画の1シーンを思わせるような美しいものでしたが
2年前に波多野さんがやった同曲と比べると
単純な声の美しさや伸びやかさはマメリさんの方に軍配が上がるとしても
自分を捨てた相手への憎しみと思慕がどんどん絡み、膨れ、
自らを狂気の淵へ追い込んでしまうような波多野さんの方が印象深かったなあ、と。
それも経験や年齢の違いなのかもしれませんが。


もしもアリアンナを捨てたテーゼオが再会したとして、
マメリさんなら張り手一発の後泣きながら抱きつくけど
波多野さんならにっこり笑いながらナイフで刺す
・・・そんな感じ。



まあそれでも、やはり、マメリさんの演奏は本当に素晴らしかったです。
数年後に日本に来たときは
3500円なんて値段で聴けないんじゃないかしらん。
(注:5月に「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」で来日するとの情報アリ。
ただしアンサンブル・グループの一員としてとか。
「ラ・ヴェネシアーナ」かな?)


高度に完成され、全く無理を感じさせないほど優れた歌唱が
観客をどれほど聴くことへ集中させることか。
たいてい音楽を聴いている間は、
私は頭のどこかで別のことを考えているものなのですが
この日の演奏会は純粋に、その演奏に呑まれ、
音楽と心がまったく一致し他のものが入らない時が何度もありました。


そして歌の細やかにして精緻な表情付けはもちろんのこと
ヴェールの扱いや、身振り、手振り、表情、など。
そういった「見た目」の演出がどれほど相乗効果を上げ、
世界を作り、そしてその世界へ引き込んでくれることか。


それはマメリさんの見た目の美しさ、
イタリア人としての容姿もありますが、
自己陶酔からや、浅く “歌につられて” 動いたものではない
その動きや表情は、実に学ぶ価値があるなあ、と。



波多野さん、マメリさんの、ユニゾン、呼吸を合わせる、
追いかける、追いつく、共に声を合わせふくらみ高めあう2重唱も
ほーっ、とため息が出るほど。
特に、曲名はわかりませんがアンコールの曲は
美しいリュートの前奏から心に鏡のような水面が現れ
それを音符によってかすかに揺らされるような・・・。
その旋律の美しさと哀切さに涙腺がゆるみました。
アンサンブルとは、単に引くものではなく
個々がしっかり確立していないと成り立たないものなのだなあ、とも。




15分の休憩を除くと正味1時間半ぐらいの演奏会でしたが
まったく物足りない気分にはなりませんでした。
アンコールの1曲も終わると
次を求めるような拍手をする気にはならず
「…うん、もう、いいや。
 この美しい想いを抱いて、今日は帰ろう」という気分に。


自分に自信が無い人こそ多弁になったり
余計なものを付け加えようとするのかもしれません。
そんなものはサーヴィスでもなんでもないのに。
(・・・この感想もそうだって?)


靴底が1センチほど浮いたような、ふわふわした気持ちで会場を出ました。
さて今、あの演奏を思い返しながら、ちょっとした悩みが。




「今年はこれ以上の演奏に出会えるのか?!」



ロベルタ・マメリさん、波多野睦美さん、つのだたかしさん、
そして運営に携わった
広島プロムジカアンティカ・コールアルスアンティカのみなさん、
本当にありがとうございました!


やっぱりプロ中のプロの演奏は凄い。
世界にはまだまだ自分を驚かせるものがたくさんあるんだなあ、と
しみじみと感じた次第。


最近体調を崩し、
引きこもって鬱状態だったのですが
この演奏会で見事に変わりました。


みんな、外へ出よう! 「何か」があるかもしれない!!




プログラム
[M]はマメリさん、[H]は波多野さん、[D]は2重唱



口づけしたいのだが、ああ、フィッリ[M]  S.ディンディア
君よ、折々の詩に[M] S.ディンディア
あたりにそよ風が吹き[M] A.ステッファニ
他の男が暴君のように[M] G.F.サンチェス
甘い苦しみは[H] C.モンテヴェルディ
ああ、最愛の人はどこに?[D] C.モンテヴェルディ


アマリッリ、麗しの君よ[M] G.カッチーニ
恋する男たちよ、教えてあげよう[M] B.フェッラーリ
聞いておくれ、恋人たち[H] B.ストロッツィ
心は燃えている[D] C.モンテヴェルディ
アリアンナの嘆き[M] C.モンテヴェルディ
《西風》はまた戻り[D] C.モンテヴェルディ


*動画サイトでロベルタ・マメリさんの歌唱が視聴できるようです。


ヘンデル「Laudate pueri Dominum」より
第6曲・Suscitans a terra
http://www.woopie.jp/video/watch/47be4a0519c6cab7
(↑の演奏はなかなかお勧めです。クリックをどうぞ!)


コール・アルス・アンティカ掲示板より(感謝!他にも動画紹介有り)
http://8727.teacup.com/antiqua/bbs


youtubeにもあったけど録音・音質のためか今ひとつ…


アリアンナの嘆き

アリアンナの嘆き