全国大会札幌食紀行 その3


腹も膨れたことで次なる店はバーへ。


札幌の、いや日本のバー好きで知らない人はいないと言う店。








「バー やまざき」
http://www.bar-yamazaki.com/


1958年開業。
そして1920年生まれの間違いなく現役最高齢のバーテンダー、
山崎達郎氏が腕をふるうバー。



私が学生時代から通っている店なので約20年の関わりがある。
…とは言っても札幌を離れてからは10年ほど訪れず。
ほぼ満員の店内を見渡すと山崎さん以外のチーフバーテンダー、
ほか働く3人はまったく知らない人ばかり。


山崎マスターは今日、出ていらっしゃるかなあ・・・いました!


さすがに耳も遠くなったので話をするときは
こちらもかなり大きな声を出さないと通じないけれど。
カクテルを作る手つきなどはどうしてどうして、
こんなことを言うのは失礼に感じられるほど、お達者です。




今年で90歳になられる方が作られたカクテル!



それにしてもこのバーは雰囲気がいいなあ。
バーにもピリっとした印象のところがあって、
それはそれで良いかもしれないけれど
「バー やまざき」は働く人が変わっても、
どの人にも柔らかな、自然な笑顔が備わっている。


「山崎マスターには厳しく叱られたことはないです」と
ここを巣立った方は口々に言っていたけど、
やはり山崎マスターのお人柄が店の雰囲気を作っているのだろう。



バーの空気に心もほどけて、
隣の男性に「岡山から来たんですよー」と声をかけてしまう。
「ほう、それは遠くから…」という反応を期待したら
「私は香川からです」との答えが。


・・・このバーはいったいどこにある店なんだ?


香川でバーを経営されているというその男性と
接客、もてなしについて色々話す。

話の切れ目を見計らったように山崎マスターが隣の男性へ
「似顔絵として切り絵を作ってもよろしいでしょうか?」


おおー、このバーの名物のひとつ、「似顔絵の切り絵」。
二枚作って一枚はお客に、一枚は店に保管。
2008年には四万二千枚を超えたという凄いものだ。


私、けっこう通ってるんだけど
今まで山崎マスターに切り絵をしてもらったことが無いんだよねー。
自分から「切り絵お願いします!」っていうのもなんだかだし。
・・・いいなあ・・・。




「バー やまざき」には名物が色々あり、
マスターのトランプ手品も名物だが
(これは以前自分もやってもらったことがあります)、
稀なのはコースターへ、指に付けたリキュールで似顔絵を描く、というもの。
私も他のお客さんで2回ほどしか見ていないし、
その時はいずれも女性でした(笑)。
画家を志していた山崎マスターらしい名物と言えるでしょう。



隣の人の切り絵も終わり、渡される。
めっちゃ喜んでる。いいなあ〜!


気を取り直して、山崎マスターに
「もてなしの心とはどういうものか」と尋ねてみる。


「そうですね・・・、まずお客様の言葉を否定しない、ということ」


ふむふむ。


「例えば女性と一緒にいらっしゃった男性のお客様が
 会話の中で何か間違ったことをおっしゃったとします。
 そこですぐに『それは間違っていますよ!』とは言わないこと。
 それではお客様に恥をかかせてしまいますからね。
 あとでお連れの女性が中座されたときに
 『先程のことですが…』とさりげなく言えばいいんです」


・・・ほ〜。



「あとは・・・お客様のご要望にできるだけ応える、ということでしょうか」


・・・・。


「例えば(と、私に対し)お客様の切り絵も以前作ったと思いますが」

あ、あの! 私、まだ切り絵を作ってもらったことがないんです!


「あ、そうでしたか! それではお切りしましょう」


やったー!



そして横を向く私。
鋏を持ち滑らかに紙を切っていく山崎マスター。
数分後・・・念願の、念願の切り絵が渡された。


長年の夢だったんだ、この切り絵。




記念に山崎マスターの本を買い求めると、
とても丁寧に包む、その凛とした姿勢。
以前チーフバーテンダーだった方の店を尋ねると、
少しも面倒な様子を見せず、名刺に店名と住所を書いて下さる。



生活の糧としての仕事というだけではないその姿に、
なにか心打たれるものを感じたのでした。




BARやまざき

BARやまざき



(つづきます)