迫川尚子「食の職 小さなお店ベルクの発想」


食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)

食の職 小さなお店ベルクの発想 (P‐Vine BOOKs)


新宿にある個性的なビア&カフェの店ベルク副店長:迫川さんの本。
ベルクに商品を卸すコーヒー、ソーセージ、パンの3職人との談話が興味深い1冊。




「食の職」、私が職人の話が好きというものもあるが、
天才的な職人の凄さが伝わる本。
ソーセージ職人の河野仲友氏の、
普通に考えれば1キロの豚バラから、
かさが減って800グラムのベーコンが出来るのだが
大手メーカーの植物性たんぱく質でかさを増やした
(4キロの豚バラからなんと増えて5.2キロのベーコンが出来る!)
質の悪い安物を大勢が買うことによって、
製造元の生産量が少なくなり、
本物のベーコンの値段がより高くなる、という話などは反省。


ドイツ人は
「わたしたちは安物を買うほど金持ちじゃない」って言ってるって本当?(笑)
「安物買いの銭失い」みたいだけど、
1回しか使えない安物とか、そんな無駄なものに使うお金はない、と。
ドイツ人、やるなあ。


あ。ドイツ人持ち上げたのに落とすのはなんだけど
ドイツでなぜ純粋令(地域によって原材料や製法を規定した法令)があるかというと
ドイツは食文化が加工食に頼る文化なため、
黙っていると食品になんでも入れてしまうことになり
良心に寄るだけでは危険だからだ、というのは「へー」。
(比較して日本は刺身などの「非・加工食文化」が伝統だということですかね)



そしてパン職人高橋康弘氏。


ジャマイカで食べられているパンを作り直して美味しくする。
(元々のジャマイカパンは周りで「美味しくない」と不評)

「おれは不味いパン食べても不味いでおわっちゃいけないんだよ。
 だって、それがジャマイカで市民権を得てるわけだから。
 どこが活かせるか、どこがいいのか。それを考えないと。
 不味いで終わっちゃだめだよ。
 で、取り入れたんです。
 新しい世界が広がるんだよね。

 だから人からおもしろい依頼があったら断らないよ」

「ただ、つくるだけじゃ、おもしろくないんだよ。
つくるだけじゃなくて、その過程で人と出会ったりとかがあるから。
それで、その先で喜んでもらえるなら最高だよね。
それがなによりも財産ですよ」


職人としての姿勢、世界を広げる視点に「うーん!」と感心。
この高橋さんの「パン屋として世界を見る」というのも
「なるほど!」と思ったけど、それは本書で。



副店長迫川さんの「舌で色や形が見える特技」も凄い。
数字や音の共感覚は知っていたが、味覚の例は初めて知った。
ビールの味が変わったことに気づき指摘するが、
メーカーの営業さんは否定するばかり。
めげずに徹底追求したところ、
工場が移転して機械が新しくなったことが判明、という驚くべきエピソードも。


素材もそうだけど、原価、狭い厨房で作る工夫、それらの要素を考えた上で
「本当に美味しい」ものを提供するベルクの姿勢に感心。


「作りおきをしない」というポリシー、そして
”商品提供の際の「どうぞ」というあの誇らしげな気持ちを失いたくないのです”
と語る迫川さんの言葉にベルクすべての商品の魅力は成り立っている。


今週末、9ヶ月ぶりにベルクへ行けるのが嬉しくてたまらない!
まずエーデルピルスとポークアスピックを頼んで続けさまヴァイスブルストを食べ、次の飲み物はギネスを頼みマイスターベーコンドッグと十種野菜のシーザーサラダと…