宝塚国際室内合唱コンクール感想 その4


<近・現代部門>の続き。
入賞団体の感想をいくつか。
(感想を書かない団体があるのをお許し下さい)



<銅賞>
Guinness Singers(大阪・男声20名)
「ムウヲオアヱエユイユエアオウム」(A.Hillborg)


この演奏は凄かったです。
全部門、全団体を聴いて審査発表前に、
個人的に総合順位を付けたら
「1位:愛知高、2位:安積合唱協会、
 そして3位はGuinness Singersだなあ」と
思ったくらいに。
結果、Guinness Singersはこの部門銅賞で
「アレッ」と(笑)。


曲の始まりからいきなりの緊張感。
テキストはなく分かりやすい旋律というものもなく、
母音の響き、音響の変化だけで聴かせる曲なのですが
「人の声」という範囲から越えて、
オーケストラのチューニング、
パイプオルガン、管楽器、
そして笙のような響きまで聴こえてきます。


さらに驚くのはそんな音響変化だけでは
聴く側はすぐ飽きてしまいそうなものですが、
響きの精妙な変化と人の声とは思えない創造性、集中度、
張り詰めた緊張感でもって耳がステージから離れません。


この曲をここまで聴かせることが出来る
伊東さんの創造性の高さと、
聴く側の心理を分析した上で
集中力を持続させる音楽作りに感嘆しました。
また、その伊東さんの要求に応えた団員さんの歌唱力にも。


もちろんこの選曲を
「こんなの音楽じゃねえ!」
…という意見は絶対あると思うし、
それはそれで納得かなあとも思いますが。
・・・でもね、Guinness Singersがいわゆる
「コンクール向け」の曲を演奏したら、
容易く総合1位になっちゃうのは賭けにもならないことです。
(そういう意味では、かつて「なにコラ」が
全日本コンクール最後の年に「カオヤイの歌う猿たち」という
これまた音響現象だけ、のような曲を演奏したのも
なんだか頷けます)


いわゆる「自分たちに向いている曲」から離れ、
自分たちの力を広げる、試す意味での選曲だと
私は推測します。
その姿勢は凄いと思うし、「カッコイイ!」ですよね。





<金賞>
愛知高等学校(愛知:女声20名)



いやあ、この団体は本当に素晴らしかった。
総合1位を受賞したんですが
このコンクール27年の歴史で
高校生が総合1位なのは初のことだとか。


20人の女の子の細めの体から予想される声を
遥かに超える力強い、輝く明るい発声。
「Lafa-Lafa」(Javier Busto)はリズムが弾み、
生命力をビンビン感じさせる。
2曲目の「Éjszaka(夜)」(József Karai)は圧巻。
サウンドへのセンス、効果音の技術が非常に優れていて、
さらに動きを伴った演出が楽曲を活かす抜群の説得力でした。
シアターピース部門でいろいろと疑問を感じていたので、
「演出を、そして歌を加えることで
歌と演出が相互作用で魅力を増す」というのは
まさにコレだよ!という印象。


加えて、一瞬たりとも聴く側の興味を逸らさず、
惹きつける音楽の凄い構成力とドラマ性。
指揮の吉田稔先生は見た目まだ30代っぽくお若いようだけど、
どのような経歴なんでしょう。
これからが非常に楽しみな指揮者です。




さて、前回の感想の
「センスを磨こうとすれば、
一体どんな方法が有効なんでしょう」という自分の問いに
思い出した指揮者の方がいらっしゃいました。
高校の先生で、卒業生で構成の合唱団も指揮される
私より年配の方。
発声、音程は非常に優れているけれども
その表現に関しては「・・・・」というのが正直なところだったのですが
最近、その方が指揮する団体の演奏を聴くと
ずいぶん表現も深くなり、センスあるものになっていたのです。
(…どうにも、上から目線で申し訳ありません。
 ただ、この感想は私だけではなく、
複数の知人も同様の感想を持ったのですよ)


既に評価もあり、言わば「出来上がった」その方に
どんな変化があったのか。
また、どんな学びがあったのか。


是非ともお訊きしたいところなのですが、
全くその方と面識もなく、問い自体が失礼極まりないので
(「ずいぶんセンスが良くなりましたけど
何があったんですか?」
とか、その場でグーで殴られても文句は言えないレベル・・・)
その謎を解くことはできないのでしょうが、
そういうことも起こりうる、ということ。


コンクールというのは極論を言えば「技術だけを磨く」ために
出場するような印象が私にはあるのですが、
音程や発声を高い水準まで引き上げた指揮者の方が
さらに上位の団体の高い音楽性に触発されて、
音楽そのものを考え、磨くきっかけになることもあるのかな、と
思う数少ない一例でした。


ああ、それにしてもセンスを磨くのはどうすればいいんだろう…。



(おそらく4日後以降に、つづきます。すいません…)