2011年に読んだ本 ベスト11(小説編) 5位〜1位まで


しばらく中断していましたが・・・。
本当はノンフィクションやマンガなども
1月中に書いておきたかったのですよ。
もう3月かぁー!
あ、2011年に刊行、ではなく「読んだ」本です。



第5位
高野和明「ジェノサイド」


ジェノサイド

ジェノサイド


圧倒的なリーダビリティ!
薬学科のひ弱な大学院生、
アメリカの特殊部隊4人がアフリカへ向かう視点の切り替わり。
テーマは新人類誕生という大きなものだが、
新薬で難病を救うというテーマもあり、
感情移入しながらハリウッド映画のようなスリル&サスペンスを楽しんだ!
最後は学問へのリスペクトもあり
(理系の人は特に胸にこみ上げるものがあるのでは?)
単なるエンターテイメントに終わらないものとなっているのも◎!





第4位
伊藤計劃虐殺器官


虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)


後進国で頻発する民族虐殺の背後には
謎の米国人ジョン・ポールの存在があった。
米情報軍のクラヴィス大尉は
インド、アフリカの殺戮の地にその影を追うが…
34歳の若さで亡くなった著者による近未来SF
(Amazonより)



虐殺器官」、傑作との前評判に違わず凄い作品。
著者の幅広く深い知識もそうだが、
良心、悪意、その元となる感情もフラットに並べるシニカルな視点が、
著者から挑まれたような知的興奮を起こす。
ギミックも効果的で、
最後までそのテンションが落ちること無く、謎の解明も腑に落ちる。


著者自身が闘病の中、書かれた作品のためか、
傑作「ハーモニー」と同じく、全体に死の匂いが満ちている。
それゆえ生も、そして死も
他の多くの作家とは異なった描き方をしていると感じる。
それにしても、多くの人が言い、
これからも言い続けるのだろうけど、
亡くなるのが早すぎたぞ伊藤計劃


そして新・芥川賞作家:円城塔氏が
伊藤計劃氏の未完の遺作『屍者の帝国』を
引き継ぐ意向を発表。
http://www.webdoku.jp/newshz/ohmori/2012/01/18/101407.html
円城さん、期待してますよ!






第3位
中島京子「小さいおうち」

小さいおうち

小さいおうち


昭和5年から19年までの中産階級の家で
女中として奉公したタキと若い奥さまの交友を描く。
暗く、悲惨なだけと思っていた昭和戦中時が、
タキの視点からだと
笑いも喜びもある生活だったことに新鮮さを感じる。
膨大な資料を読み込んだ上での生き生きとした描写が秀逸。
ことさら深刻に登場人物や出来事を書かず、
割合ほのぼのとした会話の中から、
それぞれの人物が浮かび上がってくる事に
作者の技量を感じました。
さらに「ほのぼの」だけかと思っていたこの作品が、
ミステリー的に良い意味で裏切られる最終章で、
一層読後感を深いものへと。良作!


中島京子さんの作品は「花桃実桃」も読みました。
文章のリズムが良いんだけど、
特に会話文で「耳が良い作家なんだなあ」と思わせます。
微妙な空気、音の違いをしっかり捉えて、言葉にできる才能。
それは「小さいおうち」でも充分に発揮されていました。
作家の高野秀行氏が
「未来の国民的作家ナカキョー」と評すだけはあるかも?!






第2位
山田太一空也上人がいた」


空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)

空也上人がいた (朝日新聞出版特別書き下ろし作品)


特養ホームで老婆を死なせてしまった
27歳青年がケアマネージャー独身46歳女性の勧めにより
81歳の独居老人の世話をすることに。
山田太一の19年ぶりの書き下ろし力作小説。



空也上人がいた」、
書評家の北上次郎氏が強く勧めていたので読んでみたが、
150ページを少し越すだけの1時間ほどで読める作品なのに、
その後味は非常に大きなものを残します。
3人の心の交差が、空也上人像へ結びつき、
「泣かせ」では決して無いのに
最後の数ページで生きることの肯定にじんわり涙が浮かび。
空也上人像と対峙したときの心の動きが大きなポイントとなる作品。
彫刻ではないが、人の姿の無生物に対峙し、
心に大きなものを残すという点では
井上靖散文詩木乃伊」を思い出しました。
高田三郎氏の手で男声合唱曲にもなっている詩。
ネットを回っていたら高田氏のこんな言葉を見つけ。


『凍結せる錯誤』は『生きている錯誤』に対して眉を上げるであろうか。


眉を上げるのではなく、錯誤を犯した人間の傍らに寄り添い、
歩いていく空也上人。
この本を読んでから京都の空也上人像を観に行きました。
自分は主人公の青年ほどその像から感じるものはなかったのですが、
造形の素晴らしさと、空也上人という人物の評伝から
この像を創り上げた康勝にも興味を抱きました。
空也上人がいた」そして空也上人像、
どちらも観る価値のある作品です。


(…ただ空也上人像を置いてある寺なんだけど、
 像の横でヘンなビデオを流すわお守り?を販売するわ
 これだけの作品を公開する意味をわかってんのか?!
 と怒りたくなるほどの無神経さ。
 素晴らしい作品の前では、まず自分の心を沈黙させたいよね…)






第1位
今村夏子「こちらあみ子」


こちらあみ子

こちらあみ子


私の詳しい感想はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20110917/1316216829


凄い作品だから読んでみて!と言うしかない作品なんだけど
今、あえて付け加えるとしたら
私たちは世界を「こういうものだ」と決めてしまって、
「わかっているもの」として生きていますけど、
あみ子は世界を、
そして自分自身を「こういうものだ」と決めつけて見ていない。
(そして作者の描き方も)
それゆえにあみ子の視点から
世界が本当にナマの衝撃でぶつかってくるんじゃないかなあ。
・・・いやまあ、読んでみて!