THREE in Sapporo 感想 その1


2013年1月6日(日)


この日の札幌の最低気温は−5.4℃。
最高気温が−5℃。


寒さよりも凍った道路が怖い。
元・地元民のプライドで意地でも転ばなかったが
慣れない東京・フィリピン・シンガポールの方々は
さぞかし歩くのが恐ろしかったのでは。


昨年の8月以来の中島公園を通る。
キタラ近くの雪山で子供たちがソリ遊びをしていたり。





雪が積もるキタラ入り口。





本日の演奏会の案内。




「暑い国の熱い歌をあなたに」!
いいねえ〜。ぜひアツくしてください!!
…と寒さに震えながらホールの中へ。


キタラの中へ入ると左右はともかく正面席はかなり埋まっていて。


15時半の開演。
ステージに松下耕先生、
Jennifer Tham氏(シンガポール)
Jonathan Velasco氏 (フィリピン) と
3人の指揮者が並び、英語、そして日本語で
「歌え、世界の合唱団よ」
争いの地にも慈愛として降り注ぐような
歌うことの意味と理想を高らかに唱える。


最初のステージは
「Songs from the North」と題された
札幌の合唱団4団体のもの。


はじまりの団体は
札幌山の手高等学校合唱部
女声21名 男声16名
OB3名(女声2名、男声1名)が参加?
プログラムを読むと2008年の創部だそう。
最近コンクールでかなり活躍している合唱団のようだ。


1984年生まれの若い指揮者、
伊藤徳一さんの指揮で。


松下耕先生作曲「Missa Tertia」より「Agnus Dei」
おっ、高校生離れした深い声が響く!
緊張感に満ちた空気の中、
曲のさまざまな表情付けも良い。
女声も素晴らしいが、
特に男声が和音の中の役割を理解し
歌い方を変えている点に、この年代で!と驚く。
サウンドへの意識も優れ、
響きの中から旋律を浮き上がらせる技術も大したもの。


同じく松下先生「三原ヤッサ節」では
抑制が効き、良くコントロールされているが
掛け声やリズムの力感などは、
形を整えることを重要視し
民謡本来の持ち味をあまり生かせなかった印象。


いらんイチャモンをつければ、この伊藤さん、
中学校、高校の合唱だけを体験した指揮者にありがちな
「指揮者では無く、トレーナー」感が強い、んですよね。
音楽を重要視するのではなく、
ミスがまず無いよう、均質で整った演奏をまず目指す!ような。
「三原ヤッサ節」には特にそれが顕著でした。


年代も経歴も様々な一般合唱団を指揮するなど
さまざまな体験を経て、
より大きな「指揮者」になって欲しい!と
期待を込めてのイチャモンでした。ごめんなさい。


しかし初めて聴いたけど凄い合唱団、
若手指揮者がいるもんですね〜。


伊藤さんが以前指揮されていた
札幌西陵・札幌稲雲高等学校合同合唱団にしても
札幌山の手高等学校合唱団にしても
私が札幌の現役学生の頃は
合唱部どころかおそらく同好会も無かったのでは?
そんな状態からここまで部員を増やし、
ここまで水準高く演奏する団にまで育て上げた
伊藤さんの努力は並大抵のものでは無いはず。
そういう面でも、
この伊藤徳一さんという方の存在の凄さを感じます。




弥生奏幻舎"R"


女声7名男声6名。
それぞれ思い思いの衣装で
(女声は白の衣装という縛りがあった?)
ある人は客席に手を振りながら元気に入場!
久しぶりにRのステージに会うんだけど、うん、Rっぽい(笑)。


Segalariak 作曲:Josu Elberdinは
2010年トロサ国際合唱コンクールの課題曲だそう。
バスク地方の伝統的な牧草刈りがモチーフなためか
振り付けがダンスのような。
ただ…全員がそれぞれ違った自由な動きなので
結果演奏にも集中しづらい。


「掴みは大切!」とばかりに
最初から全開で動く気持ちは理解できるけど
ここは中心となる動き(踊る人)を決めて
周りはそれに合わせて動きを控えめにする等の
演出が必要だったんじゃなかったかなあ。



3曲目の
Salve Regina
作曲:César Alejandro Carrillo


各声部の発声の違いやバランスは気になるものの
指揮者の音楽の持って行き方、
フレーズの作り方、
テンションの切り替わりなどは実に優れているし巧み。
プーランクのような神秘性も感じられ「良い曲!」と思わせるし
指揮者のセンスの良さを感じさせられた演奏でした。



Rで一番良かったのは2曲目の
『Magic Songs(魔法の歌)』より 
5.Chant for the Spirit of Hunted Animals
作曲:R.Murray Schafer


男声は指揮者共にステージ前方で胡坐になり
女声は山台の一番高い所の上手下手、二手に分かれ。
男声の呪術的なリズム繰り返しに
高い空間の両端で
女声による動物の吠え声・鳴き声を呼び交わす音が共鳴し。
ステージの枠を破るその演奏は人数の少なさを飛び越え
演奏と音響で確固たる世界を作り
「魔法の歌」という題に非常にふさわしいもの。


こういう演出は
札幌の合唱界ではキワモノに思われがちと推察するけれど
後のシンガポール、フィリピンの団体の演奏・演出で
「おお!世界の合唱団もこうやって
 作品世界にふさわしい動きや演出も取り入れているんだな。
 Rの演出もキワモノではなく、音楽を見据えて、
 その世界を正しく伝えるための演出だったんだな!」…と
観客に思わせることができたのではないかな。
それってRにとっても札幌の観客にとってもシアワセなことですよね。


団としての個性、オリジナリティ、
人数の少なさを感じさせない演奏、演出や選曲、という面では
メインの3団体に引けを取らない、なかなかに刺激的な演奏でした。




ローズクォーツ アンサンブル (指揮:三澤真由美先生)
目の覚めるような真紅の肩出しドレス24人!


アポリネールの詩による四つの無伴奏小作品集『白鳥』より「贈物」
作曲:高嶋みどり
女声合唱とピアノのための『薔薇、見知らぬ国』より「出発」
作曲:松下 耕


良い発声を崩さまいという意識が強すぎるのか
和音の色彩、テキストによる発声・発語の変化もやや乏しく
私には少し単調に聞こえてしまったかな…。
しかし深みある発声と解放的な響きの良さ!
力強さが感じられ声楽的に非常に練られている印象。
弱音から強音までダイナミクスの振幅も見事な演奏でした。




札幌北高校合唱部 & THE GOUGE (指揮:平田稔夫先生)
64人くらい?


Dona nobis pacem
作曲:松下 耕
やや粗さはあるものの力強いリズムや勢いが感じられる演奏。


そして同じく松下先生の
混声合唱組曲『鳥のために』より「街の歌」


以前、全国大会でも聴いた演奏だがこれは素晴らしかった。
指揮者:平田先生のサウンドに対するセンス、
音の流れや旋律の中の力感がとても良く。


ユーゴスラビア紛争を題材にした組曲の最終曲。
〜しては「いけない」と
あらゆる行動を禁止する言葉のリフレインが胸を打つ。
言葉を歌う旋律と言葉にならないヴォカリーズの対比。




「誰にも歌を捧げてはいけない」



最後のテナーのヴォカリーズから
ソプラノのソロへ繋がる見事さ。
絶望でこれでもかとばかりに圧倒した中で
かすかに希望の音楽を匂わせるのが心憎いばかりだ。
この日の札幌合唱団の中で一番感銘を受けた演奏。




(つづきます)