大分市民合唱団ウイステリア・コール第61回演奏会感想 最終回


最終ステージはこちらも生誕100年ということで
高田三郎先生が作曲された、名曲水のいのち全5曲を
飯倉貞子先生の指揮、ピアノは後藤秀樹さんで。


その演奏は作曲者自演のような
言葉ひとつひとつにこだわり著しく緊張感に満ちるような演奏ではないが、
飯倉先生が指揮された音楽は
歌い手の意志をそのまま水の流れのように自然と導き、
結果、曲そのものの姿が顕になった好ステージだった。


各曲の風貌の違い、
またその曲の中で変化する明暗と緩急。
日本人の琴線に触れる旋律が随所で存在感を主張し
雨や水たまり、川、そして海と
自分たちの周りに普遍的にある「水」というものを
高い精神性で歌い上げたこの曲。
作曲から約50年経ってもなお私たちを惹きつける理由を
この日の演奏から教えてもらった。



アンコールは ERIC WHITACRE(ウィテカー)の
「The Seal lullaby(アザラシの子守唄)」
演奏会を優しく終わりへ誘う演奏。


…と思ったら先ほどの「手のひらを太陽に」をふたたび
飯倉先生指揮で客席も一体となった大合唱!


団員さんの退場はステージから通路へ降り、
花束から抜いた花を一輪ずつお客さんへ渡すという演出。
(…これってハンガリーのプロムジカ女声合唱団の演出?!)



全体の感想を厳しく言えば
繊細なピアニッシモと迫力あるフォルテッシモは優れている。
しかしその中間音量での表現力が今ひとつ。
そういう箇所になると途端に演奏も
テンションが落ちたようになるのが残念だった。
それは各パートの純度、パート間のバランス、
音の重なりとして響きへの厳しい考察など
地道で長い練習期間が必要なものかもしれない。
また男声が旋律始めの音を外すことが多いのも気になった。


ただ、前述のように3月の傘寿記念演奏会という
練習不足の理由があるのかも。
テナーは5人と少なく、その人数で本当によくやっているなあ…
と感心するほどでもあった。




この日の演奏会を振り返ると
第1ステージは伴奏ではなく「協演」として
ヴァイオリン、ピアノという楽器と合唱とのアンサンブルとしての魅力。
第2ステージは照明と朗読で楽曲の内容をわかりやすく。
第3ステージのポピュラーステージは
まさに「笑いと涙と感動、そして驚き」。
どれだけ合唱が、歌が感情へ訴えられるかという証明を。
「みんなで歌いましょう」では、聴くだけではなく歌うことの喜びを。
そして最後のステージは合唱の名曲中の名曲の価値を
真正面から伝えようとしていた。


「合唱の良さ」を聴く人へ伝えようと考えたら
「良い演奏」をするのが第一番だろう。
しかし、それだけで良いのだろうか?


ウイステリア演奏会では
あらゆる角度から考え、間口を広げ、
「合唱」という世界の扉へ本当に入りやすくしていた。
それは団名にある「市民合唱団」としての役割、
合唱団員の周囲にいる合唱に関わりのない人たちへの啓蒙もあるだろうし、
この日、客席にいた飯倉先生が指導する
アンジェルス児童合唱団の団員さんへの優しい教育のためでもあるだろう。
客席にいるアンジェルス児童合唱団員や中学生たちに
「合唱を続けていれば、こんなこともできるんだよ」という未来。


打ち上げで、まだ顔に幼さの残る青年を猿渡さんから紹介され
「彼はアンジェルスを卒団してウイステリアに入ったんだよ」と
聞かされた時の驚きと、納得の気持ちは忘れ難い。
そして紹介する猿渡さんの嬉しそうな、そして誇らしげな顔も。



日本の各地でさまざまな合唱を聴いてきて、
HPから数えてこのブログまで10数年合唱の感想を書いてきたのだけど
この日のウイステリア演奏会を振り返ると、
「自分は合唱の良さを、真摯に人へ伝えようとしていたのかな?
 いや、そもそも自分は合唱の良さ、
 歌うことの喜びを本当にわかっていたのかな?」
・・・そんな気持ちにさせられる演奏会でもありました。反省です。




長々と書いてきたけれど最後に
「花と光と風と天使のハーモニー、
 3月のコンサート〜飯倉貞子・傘寿記念」で
委嘱初演された佐藤賢太郎作詩・作曲の
児童・女声・混声合唱のための「ネコのおくりもの」の動画を紹介して
終わりにしましょう。
この演奏を観て、聴けば、私の拙文なんかよりもずっと
ウイステリアの演出力、合唱の間口を広げようとする姿勢が理解できるはず。


飯倉先生はネコ好きでご自宅でもネコを飼われているとか。
この動画を初めて観た時、「さん!にー!いち!」からの大合唱で
仕事と人生にいろいろと疲れていたためか、ボロッと涙が(笑)。
あの日この動画を観たのが、大分へ行く決め手となりました。



大切な人の生まれた日を祝うことは、
その人が生きているそのものを祝うこと。
「いちねんが また くるりん!とまわった」つぎの誕生日。
何度でも何年先でも言い続けたい。
私も大声で飯倉先生へ。



「オタンジョウビ おめでとう!」




http://www.wisemanproject.com/Text/NekonoOkurimono.html




(おわり)