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昨年読んで良かったノンフィクションなどベスト10 その2




今回は第7位から4位まで。

 

 





第7位
吉村昭「私の文学漂流」。

 

私の文学漂流 (ちくま文庫)

私の文学漂流 (ちくま文庫)

 

 


結核による死と隣り合わせの少年から青年期。
大学中退。同人誌活動。生活の貧窮から兄の会社への就職。
作家としての一人立ち。4度の芥川賞落選。
文壇に立てなかったことによる再びの困窮。再度の就職。
太宰治賞受賞や戦艦大和の評価・・・波乱万丈の半自伝記。

困難な生活の中、小説を書き続ける強い意志を持つ吉村氏に打たれる。
就職していた時期でも帰宅後すぐ机に向かい午前2時まで執筆し、
朝7時に起きる生活を吉村氏はずっと続けていたのだが、
再就職した兄の会社が多忙になり、
文学から離れてしまうという危機を感じた際の言葉。

「原稿用紙に字を刻みつけていないと小説を書く頭の働きは鈍り、
 その期間が長くなればなるほど、
 それは回復不能の状態になることを経験で知っていた。」 

そして吉村氏はこう続ける。

「泉は絶えず汲み上げていれば清らかな水が豊かに湧くが、
 汲むことがない折には、涸れる。」

3度目の芥川賞候補になり受賞の知らせを受けた吉村氏は
インタビューのため車に乗り、喜びながら文藝春秋へ向かう。
「車は青梅街道を走り、新宿の街に入った。
 見なれた街の夜景であったが、ネオンの色が驚くほどきらびやかで、
 都電も光の箱のように明るくみえる。」
「街が水族館の水槽に似ていて、受賞したのだ、と思うと、
 体が宙に浮き上がるような喜びを感じた。」 

…この受賞事件の顛末は淡々と書かれているが読みながら涙が滲む。
受賞は、間違いだったのだ。
それを知った時の吉村氏の言葉は誰を責めるでもなく。
「いろいろなことが、あるもんだね」 

吉村氏、立派だ! 
妻であり同じ作家である津村節子氏から見た吉村氏の本も読んでみよう。


 

 

 

 

 




第6位
西岡文彦「ピカソは本当に偉いのか?」

 

ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)

ピカソは本当に偉いのか? (新潮新書)

 

 

「ピカソの絵は本当に美しいのか?(どこが上手いのか?)」
「見る者にそう思わせる絵が、どうして偉大な芸術とされるのか?」
「仮に偉大な芸術としても、
 その絵にどうしてあれほどの高値がつくのか?」等の疑問に答える芸術論。

宗教改革から始まり、画商の存在、アカデミズムに対抗する前衛、
写真の発明への反写実主義、セザンヌの造形主義を経たキュビスム
…とピカソの絵の価値をわかりやすく解き明かし、
なるほど! と膝を打つ。

過去を否定する現代美術への流れにも納得。
現代芸術を理解するためには
感覚だけではなく知識が不可欠、なんだなあ。


 

 

 

 

 





第5位

 高野秀行「移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活」。

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活

移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活

 

 

タイ人、イラン人、フィリピン人、フランス人、中国人、ムスリム、
沖縄系ブラジル人、インド人、ロシア人、朝鮮族中国人、スーダン人。
日本に移り住みコミュニティを作る外国人を、
食文化をテーマにして紹介した楽しい比較文化ルポ。
講談社ノンフィクション賞を受賞した
「謎の独立国家ソマリランド」も面白かったが
自分はこっちの作品の方が好き。

食を通して感じる各国の文化のさまざまな違い、
それを合わせることで見える日本文化、と感心し、
驚きながら読み進められる本。
取材した在住外国人たちは
日本での生活の質が極めて高いことに満足し、
幸せそうなことに著者は驚き、
「日本人は幸せが苦手なのではないか」と考察する。

東日本大震災後の在住外国人の苦難も描くが、
南三陸町の家が津波に流された後、
ギャグを飛ばすフィリピン女性たちの明るさに吹き出しながらも救われる。 

(以下本文から)

フィリピン女性の明るさ。
それは「明るくしていなければかっこうわるい」という
彼女たちの矜持なのだろう。

 


明るくしていることが矜持! 確かに、カッコイイ。



 

 

 

 

 

 

 



第4位
水道橋博士「藝人春秋」。

 

藝人春秋

藝人春秋

 

 

北野武、松本人志、爆笑問題、稲川淳二などの有名芸人から無名の芸人。
他に草野仁の意外な素顔や、堀江貴文のような企業家や、
甲本ヒロトなどミュージシャンまで。
対象者に肉薄し分析し、「藝人」としての自分、
更には「藝」というものを問うドキュメンタリー。

これは傑作。
水道橋博士は著作「男の星座」も読んでいるが、
文章が上手いのはもちろん、藝人のエピソードの切り取り方、
配置が絶妙に上手い。
ダジャレをテンコ盛りにした、
時には対象者の語り口を真似たノリ良い文章に笑いながら、
語る藝人の凄まじさが顕になっていくスリリングな本。

古舘伊知郎さんの座右の銘が
「成長したいなら必殺技を捨てろ」というのも奥深かった。
その言葉で思い出すエピソードは、
あるベテラン実力棋士が突然若手に勝てなくなり、
何故だ? と思い切って若手に尋ねたら
「終盤で必勝パターンに持ち込みますよね?
 自分たちはその必勝パターンを研究したんです」と言われたという…。


甲本ヒロトのこの言葉も響いた。
「芸事とかクリエイティブな仕事に就くと、
 まず自分の好きな表現スタイルを模倣しようとするじゃん。
 その模倣のレベルのチャンネルを一つ変えるんだぁ。
 例えばギタリストがギターを持って
 『アイツの鳴らしたあの音を自分でも鳴らしたい』って
 思っちゃもうダメなんだよぉ。
 アイツがあの音を鳴らした時の”気持ち”をコピーするんだよ。衝動を。
 そうやっていくとオリジナルで一生現役でいられるんだぁ。
 音をコピーしたり再現したりだと形骸化するだけでさ。
 もし、その衝動がなくなった時は終わりなんだぁ」


そして本を読んだ多くの人が語られているが、
ラスト稲川淳二氏の
「怪談話を語り続ける理由」にはやはり圧倒された。
単なる泣かせではないその理由は、
稲川氏にとっては生きる理由の強いひとつなのだろう。
「マイナスがあればプラスがあってもいいはずだって。
 そうじゃないですか?」 うん、絶対、そうだ!







(第3位からに続きます)