昨年読んで良かったノンフィクションなどベスト10 最終回

 


今回は第3位から第1位まで。

 



第3位
角野史比古「たたかうソムリエ 世界最優秀ソムリエコンクール」

 

たたかうソムリエ - 世界最優秀ソムリエコンクール

たたかうソムリエ - 世界最優秀ソムリエコンクール

 

 

3年に1回開催される世界最優秀ソムリエコンクール。
各国の代表が競う2010年第13大会を記した
白熱のノンフィクション。


人間離れした嗅覚と推理力で
ワインの銘柄と年代を当てる
ブラインドティスティングは凄いの一言。
しかしその能力でやや劣っていても、
試験会場を自分のレストランへ招いたように錯覚させる
素晴らしいサーヴィスをするソムリエなどもいて。
「サーヴィス」の意味、意義とは? ということも考えさせる。


世界一の栄冠を掴もうとするソムリエたちの真摯な姿に興奮と感動!
日本人も2人参加したがその結果は…
それは本書をお読みください(笑)。

 

 

 



第2位
岡壇「生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある」

 

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

 

 

著者は和歌山県立医科大学保健看護学部講師で、
自殺予防因子の研究で博士号を修得した研究者。
全国で最も自殺率が低い10市町村で
8位の徳島県海部町へフィールドワークをした記録。
(ちなみに残りの9町村はすべて島)
非常に示唆に富む有益な本。

現地調査で著者は5つの自殺予防因子を見つける。
長くなるがその5つを記そう。

1.いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
→ 多様性重視。よそ者へ排他的では無いこと。
  同調圧力が少ないこと。

2.人物本位主義をつらぬく 
→ 何かのリーダーを決める際、年長者だから選ぶ、などが無い。
  他にも祭りなどのイベントを支える「朋輩組」では
  年長者から年少者へのシゴキ、いじめは一切ない。

3.どうせ自分なんて、と考えない 
→ 主体的に社会に関わり、
  自身への有能感(自己効力感)が高い。

4.「病」は市に出せ 
→ 困ったことがあったらすぐ開示し、
  その開示への抵抗感が少ない。
  周りもその悩みを
  柔らかく受け止める空気で満ちている。 

5.ゆるやかにつながる 
→ 他人へ粘着質な「監視」ではなく「関心」だけ。
  基本は放任主義で淡白なコミュニケーション。

5の「ゆるやかにつながる」では
「ゆるやか」がポイント。
なぜなら同じ徳島に自殺多発地域があり、
その町では強い絆で助け合いの気持ちが強いが、
それゆえ「悩みを開示できない」。
つまり
「悩みを打ち明けると相手は無理にでも助けようとする」 
だから生半可な気持ちでは悩みを打ち明けられない、と。


・・・いかがだろうか。
自殺予防因子だけではなく、
あらゆるコミュニティなど、
健康的で活発な集団作りにも生かせると思わないだろうか。


日本の自殺希少地域の多くは
「傾斜の弱い平坦な土地で、
 コミュニティが密集しており、
 気候の温暖な海沿いの地域」に属し、
自殺多発地域は
「険しい山間部の過疎状態にあるコミュニティで、
 年間を通して気温が低く、
 冬季には雪が積もる地域」に多い、
というデータも興味深い。
地理的条件の多大な影響。


そんなこと言っても周囲の気質は簡単に変わらないし、
容易く違う土地へ引っ越せるわけはない。
しかし著者はこうまとめる。
通説を捨て、思考停止を止め、
「幸せであろう」というこだわりを捨てよう、と。
取り入れられる自殺予防因子の「いいとこ取り」をしよう、と。


あと「4.病は市に出せ」で、
「市」をツイッターやフェイスブックとすると、
こりゃもう圧倒的に女性の方が市へ出す割合が多いのでは。
日々の不調や仕事の不満。
私から見ると羨ましいくらいためらいなく吐き出し、
スッキリされているように思う。

男性と女性では、男性の方が何倍も自殺率が高いが、
そういう性質もあるのかなあ、などと。
(しかし日本では『男らしさ』への強制力が弱まった現代が
 より男性が自殺する傾向があり、不思議) 

まあなかなかに難しいものですが、
悩みを軽く吐き出し、心を軽くしたいものです。
この本を読んで自殺リスクを減らそう!

 

 

 



第1位
ダニエル・L・エヴェレット
ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観 

 

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

 

 


アマゾン奥地の少数民族ピダハンの驚異的な文化と言語世界。
言語学者でありキリスト教の伝道師である著者は、
ピダハンと暮らしていくうちに信教を捨ててしまう…。

右左、色、数の概念がない言語。
自分の見たもの(そして実際見たことのある人の言葉)しか信じないため、
著者が「イエスはこう仰った」と布教するも
「お前はイエスに会ったのか?
 会ったことがない?
 じゃあ何故会ったことのない人間の言葉を信じるんだ?」

と返される(笑)。

過去の後悔も未来への不安もないピダハンは始終笑顔で幸せだ。
前述の実証主義からも影響を受け、著者は家族と別れ、
キリスト教をも捨ててしまう。
この辺、最後にさらっと書いていたけどもっと詳しく知りたかったなあ。

人間の幸福とは情報の制限によるのでは? 
幸福の国ブータンの本を読んだ時に考えたが、
この本でも同じようなことを思った。
そして優れた言語学者、つまり実証を重要視する学者である著者が
キリスト教の実証性を疑う姿に「え? いまさら?!」と驚いた本。

言語学を論じる部分ではとっつきにくい部分もあるのだけど。
ピダハン世界では精霊が身近にいる世界。
イエスのありがたい教えを著者がピダハンたちへ語った夜が明けると、
ピダハンが駆けつけ
「大変だ! 昨日の晩、イエスが現れて女を襲った!」
…真面目に訴える箇所で爆笑しました(笑)。

 

 

今年も面白い本を読みたいものです。

気が向いたら「昨年読んで良かった料理マンガ」なんてのも書きたいな。