1府3県旅行記 その4

 

 

15分の休憩後、
「今伝えたい言葉、歌~邦人作曲家の名曲を集めて~」と題された
邦人合唱曲のステージだ。

 

 


このステージではアナウンサー経験もあるサガテレビ理事の
池田昭則氏が詩をそれぞれ朗読してから演奏する形式。
合唱作品の音楽の運びとリズムの違いなど、
朗読への違和感も他の人の感想からは聞こえたが、
詩のイメージを演奏前に共有し、
演奏中は音楽へ集中する目的としては優れている形式かもしれない。

濱手美貴子さんのピアノで佐藤信詩、林光作曲「ねがい」から。

全員暗譜、さらに日本語の曲ということで
楽曲とMODOKI団員との距離がより近く感じられる。
ささやかな願いのはずが
生きるための切実な願いとなっていく詩に同調するように
音楽のドラマティックな移り変わりが見事。


高田敏子詩、三善晃作曲「嫁ぐ娘に」から
最終曲の「かどで」
娘への深い愛情がこもった旋律。
和音の変化を大事にする作品の魅力を伝える演奏。


女声合唱の新川和江詩、木下牧子作曲「わたしは風」より
「歌」は初めての子を持った母の優しさと強さを。
男声合唱の八木重吉詩、松下耕作曲「秋の瞳」より
「はらへたまってゆく かなしみ」では
混声合唱団のトップテナーは
存在感ある旋律をなかなか歌えないものだが
さすがにMODOKIのテナーは違う。
男声ならではの哀愁も感じさせる良演奏。


ふたたび濱手さんのピアノが入り
佐藤賢太郎詩・作曲の「前へ」
今ここへはいない人への温かい言葉と旋律が
そのまま生きている自分たちへのメッセージとなり、
客席へ広く深く染みていくようだった。


このステージ最後は
谷川俊太郎詩、三善晃作曲
「生きる -ピアノのための無窮連祷による-」。 
生きていることそのものを並べた
名詩に作曲されたこの曲では
それぞれの言葉を大事にしながらも
流れと構成を大事にする演奏。
それゆえ強い説得力があった。
「いま」生きてMODOKIの演奏を聴いている実感と共に。


どの曲もどの曲もMODOKIの「歌う意志と理由」を感じさせる選曲。
それは日本語の作品を求める聴く側の心と
深く通じ合ったステージでもあったと思う。



15分の休憩後、委嘱初演
無伴奏混声合唱組曲「心よ」のステージ。
八木重吉の詩に作曲されたこの作品。
作曲者の北川昇先生によれば
指揮者の山本さんからは「好きに書いていいから」と
注文を付けられず全くのおまかせだったそう。

いつもの黒上下の衣装とは違う
女声は白ブラウスにスカート、男声はスーツのMODOKI。
こんなところにもこの委嘱初演への意気込みを感じたり。

八木重吉の詩、9編に作曲された6曲。
第1曲目「黎明」
夜明けを思わせる荘厳な響きから(おや…)と思った。
MODOKIの気合が入った演奏は当然だが、
どこかその音楽に懐かしい印象があったのだ。
自分がかなり前に聴き、慣れ親しんだ
清水脩の男声合唱曲を思わせるような。
演奏後に同じく聴かれていた雨森文也先生とお話すると
雨森先生は多田武彦を思い出されたとか。
それは北川先生が
男声のなにわコラリアーズ団員ということもあるだろうし、
八木重吉の詩がそういう音像を求めているからかもしれない。
古き良き男声合唱曲のエッセンスが
北川先生の手によって現代的な香りをまとい
混声合唱曲として今新たに生まれたような印象。


もちろんそんな懐かしさだけではなく
2曲目の「白き響」では林檎をかじる「さく」という擬音が
面白く効果的な使われ方をしたり。
3曲目「哀しみの 火矢(ひや)」では
カノンを思わせる音楽がひとつの旋律に集約する変遷。
その強い旋律で歌い切る格好良さ!
4曲目「つかれたる心」ではヴォカリーズから
ひそやかにそしてゆったりと
美しく切ないメロディが立ち昇ってくる様に魅了されたりも。
5曲目「彫られた空-しづけさ-劔を持つ者」では
3編の詩が交差し、激しい内面の戦いを表すような
全体に緊張感が充溢する曲。

組曲の「心よ」という題が示すように
黎明や林檎や空、炎。
風景や自然の間にゆらぎ、あこがれ、うちひしがれ、
迷いとまどう心の複雑さを聴きながら思う。

そして最終曲「心よ」では
前曲とはまるで異なる明るく優しい旋律が
女声・男声それぞれユニゾンで歌われ
最初はシンプルに思えたその旋律が
脈々と熱と力を加え広がっていく。

さあ それならば ゆくがいい
「役立たぬもの」にあくがれて はてしなく
まぼろしを 追ふて かぎりなく
こころときめいて かけりゆけよ


新しい世界を追い求める心、
そして存在の全面的な肯定、応援の歌と聴こえた最終曲。
…圧倒された!


最終曲はなんと2週間前に出来上がったのだとか。
それを全く感じさせず密度高く色濃く
それぞれの曲を演奏したMODOKI。
また敬虔なキリスト教徒である八木重吉の
一見やさしく語数少なく見えるが
言葉ひとつひとつに凝縮された想いの詩を受けられた北川先生が
「近年、自分自身があまり書いてこなかった音だ。
 自分の心の奥深くから何かが呼び起こされるような気がした」
とプログラムの文章に書かれていたように
今までの作風とは少し違う、
北川先生の新しい面が表れていたように感じた。

新しく意欲的な作品を
熱と気持ちが素晴らしくこもった
完成度の高い演奏で初演されたことを喜びたい。


なおこの無伴奏混声合唱組曲「心よ」は
大阪で行われるコーラスめっせ2014の
4月19日「あたらしくうまれた曲のコンサート」で
再演されるそうだ。
演奏はもちろんMODOKI!
http://chorusmesse.web.fc2.com/contents2014.html



(続きます)