第30回宝塚国際室内合唱コンクール感想 その5




近現代部門感想の続きです。

 


銅賞受賞団体

 


Ensemble Mikanier(和歌山・20名・混声)
阪本健悟先生の指揮で。


「Mikanier」という団名は
伊東恵司さんの「葡萄の樹」にいた阪本さんが
和歌山で合唱団を作ることを伊東さんへ相談したら

「和歌山だから・・・『蜜柑の樹』でいいんじゃない?」

と言われ(笑)、さすがにそのままでは、ということで
「みかんと木を合わせた日本語とフランス語の造語」だそう。
初めて聴く団体です。


最初の相澤直人先生作曲
「立原道造の詩による3つの心象」より
「この闇のなかで」

まず立原道造の詩をポップに現代的に作曲されたこの曲に驚く。
その曲を借り物ではなく自分たちの曲として
とてもノリ良く若さ弾ける演奏をされたことに拍手!
若い団員さんが多い印象だったのだけど、
若さを良い方向へ導ける団体って意外と少ないんだよね。

Mikanierさんは次の日の無差別級グランプリ大会でも
とても良い演奏をされたので詳しい感想はその時に。
(いつになるんだ…)



女声合唱団 ALITO(岐阜・17名・女声)
平田誠先生の指揮で。

私と同年代かそれより下の世代と思われる女声合唱団。
音楽教育に携わるメンバーの団体だとか。

声楽的に練られた発声で
西村朗「青色廃園」から「君に」「宮殿」を演奏。
良い声に隠されて細かい感情表現や語感と歌との結びつきに
やや疑問符が湧かないでも無かったのですが、
練習の積み上げによる説得力は素晴らしいものがありました。
あと、中・高のコンクールでよく聞いた(見た)「宮殿」が
この年代で演奏され別の味わいがあったことと、
ロングスカートなのでどのパートで足踏みされているか
わかりにくいのが新鮮でした(笑)。


 

 


銀賞受賞団体


豊田市少年少女合唱団ユース
(愛知・20名・女声)

永ひろこ先生の指揮で。


豊田市立の公式合唱団であるこの団体。
母体は約120名からなる合唱団だそうで、
ユースと言えども
多くの団員から選抜されたメンバーなのだろうな…と予想。

この団体、前回の感想で書いた選曲について
私の理想と言えるもので唸りました。
3曲ともコチャールの作品で統一。
1曲目が「Tél(冬)」で明るく輝くように始まり、
2曲目の「Szerelem emléke (愛の想い出)」は静かな曲想。
3曲目の「Ó, havas erdő némasága (ああ、雪の森の静寂)」は
その静けさを引き継ぐように、しかし和声は複雑さを増し、
1、2曲目のひとつの曲想とは違う
ソリストを交えた暗から明へ移るドラマティックなもの。
さらに2曲目、3曲目は三つの女声合唱作品 (Harom Noikar)の
それぞれ1曲目、3曲目なのだけど、
単純に3曲全部演奏としなかったのがセンスだと思います。

演奏は素直な、しかし良く磨き上げられた声で
音符のひとつひとつが丁寧に演奏されていました。






銀賞のもう1団体は
Russian Singers(ロシア・12名・男声)


ガタイの良い若い男声12名の合唱。
指揮者は「ロシアのおやじ~!」って印象(笑)。

演歌風バーバーショップ?な
ロシアのフォークソングから始まるノリノリの演奏。
手拍子が欲しいくらい!
続けてビーブルの「Ave Maria」を。
こういう真面目な曲だと長旅の疲れからか
喉が上がっているような発声で精彩に乏しく。
声部バランス、テンポとも疑問が。
最後の有名曲リムスキー=コルサコフ「熊蜂の飛行」は
熊蜂を追う視線移動とオチ(言葉通り…)が楽しく、
レパートリーにしたい!と思った人も多かったのでは。
客席壁側にいた宝塚本科生のお嬢様方にもウケていました(笑)。

コンクール選曲の難しさを感じましたが
エンターテイメント的なパフォーマンスに
大変優れていた団体でしたね。

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金賞受賞団体



愛知高等学校(愛知・20名・女声)
指揮は吉田稔先生。

シェーファーの「Snowforms」から。
ヴォカリーズの変化だけで最初から最後まで
聴く者の耳を全く逸らさせない集中度!
そして豊田市少年少女合唱団ユースも演奏した
コチャールの「Ó, havas erdő némasága」。
音楽の緩急を心得た流れの良さ、
場面転換の鮮やかさ。
「Snowforms」でも感じた空気が凝縮するような集中度など
さすがの演奏でした。

実は出演順が愛知高校→豊田市ユースの並びで。

どちらも「Ó, havas erdő némasága」が最終曲。
少年少女合唱団、その延長としてのユースなら
あまりケレン味を付けない演奏の狙いも充分理解できるんだけど
並べて聴いてしまうと
やはり豊田ユースの印象が薄くなってしまいますね。


ただ、昨年全日本合唱コンクールの全国大会福山での
愛知高校の演奏を聴いたら、
自由曲はやはり集中度の高さと
音楽上のメリハリが素晴らしかったのですが、
邦人作曲家の課題曲でサラリと流す魅力の音楽が
ややゴツゴツとした印象に聞こえてしまって…。
向き不向きがあるんだなあ、などと感じたのを憶えています。

あ。愛知高校、団で背が一番低いソリストがとーっても良かった!
なんだかんだ言って私も1位を選ぶとしたら
愛知高校という結果になるでしょう。

 

 

 

総合順位は

3位 アコール《EST》(ロマン派部門)

2位 The Singers Vocal Ensemble(ルネバロ部門)

1位 愛知高等学校(近現代部門)

 

これで愛知高の総合1位は3回目ですね!

(※しばおうさんのご指摘により修正しました) 

おめでとうございます!!







《コンクールよもやま話》


●宝塚本科生アトラクション

審査結果までの間はいつもの宝塚音楽学校本科生による演奏。
毎回思うんだけど、若さってまぶしいですねえ(笑)。
身長順に髪型も厳密に決められ、
過酷な練習と競争に耐えているはずなのに、
ステージでは輝く笑顔で観る人を喜ばせる…。
これから彼女たちは新しいことをいくつも生み出し、
観る人へ喜びを与えていくんだろうな・・・。
なんと言うか彼女たちの姿に「未来」を感じました。


そうそう、初めてこのアトラクションを観る高三さんは
「真面目に合唱するだけじゃなくってこんなに踊るんだ!」と
驚いていましたよ。
この宝塚本科生の演奏こそコンクールのメインかもしれません。
どんなに若くても至らなくてもひとたびステージに立ったら
自分の精一杯の力を出し切る! 
そんな無言の、しかし本気のメッセージが伝わるから。

指揮をされた本山先生に交歓会でお会いできたので
「つかぬことをお伺いしますが・・・
 今日のアトラクションでダンスの足音が
 例年より小さかったのですが何か理由が?」とお聞きしたところ

「ほう、良く聴かれていますね。
 振り付けの先生から注意されたんですよ」とのお答えが。
靴の裏に緩衝材か何か貼るようにしたのかと思ってた!





●ご勇退をお勧めいたします

昨年も軽く触れましたが、
今年はしっかりと書きます。
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2014/01/06/114505

率直に書きますと、
理事長の日下部吉彦氏に賞の発表をしていただくのは
今年度限りにしていただきたいのです。
団名を何度も間違える、団名は発表するが賞を言わない、
賞の発表順序があやふや、
そもそも進行を理解しているか疑わしい。

…などの失敗が多数で今年も正直見ていられませんでした。
一度や二度の言い間違い、噛んだりでしたら
人間ですからあり得るとは思いますがそんな水準ではありません。
グダグダを通り越し、「賞の発表という場」として
全く機能していないと私は感じました。

「あの弛緩した発表が緊張感ある審査結果を和ませるのでは?」
との意見も見ました。
しかし、それは日本の団体、内輪だけに通じる論理では?
海外の団体名や賞を日下部氏が間違えたら
(そしてその可能性はとても高い)
「和みますよね?」
そう海外の団体へ言えるかというと疑問です。


理事長だから賞の発表をしなければいけない。
そんな決まりは無いはずです。
現に次の日の無差別級グランプリ大会では
司会のフリーアナウンサーの方が結果発表をされて
実にスムーズに進行されていました。

総括のスピーチなどでは
日下部氏のお話は非常にしっかりしたものでした。
今回の無差別級グランプリ大会の企画なども
ユニークで独創性のあるものと思います。

合唱界、音楽界へ優れたご提言をされる日下部氏のご印象が
あの審査発表の場だけでイメージダウンしてしまうのは
非常にもったいないことですし、
まして賞の発表をされないだけで、
日下部氏の権威や今までの素晴らしい業績の数々が
損なわれるなどということもあり得ないはずです。


宝塚国際室内合唱コンクール関係者の方が
この文章をお読みになられていたら、
是非とも来年から審査発表は違う方にお任せするのを
ご検討されることを強く望みます。
何卒よろしくお願いいたします。




●さらに一観客のワガママを

今年は海外の2団体がキャンセル。
そして北海道・関東・四国・九州の団体の出場が1団体もない!
いや、予選を通過できなかったのかもしれませんが…。
そういう意味で昨年が良過ぎたのか、
今年はちょっと寂しい印象でした。
自分が地方の合唱団に所属していたら
毎年…は無理としてもこのコンクールへ
2年か3年に一度出場するように
仲間へ働きかけると思います。

審査員のご講評を対面で直接聴けるのは
素晴らしいことだと思いますし、
次の日もいれば上位団体の演奏が必ず聴ける。
さらに海外団体の演奏から日本の団体とは違う刺激や
学びになるものが多く得られるでしょう。
いずれも全日本合唱コンクールでは難しいことです。

普段の演奏活動の糧にできるのはもちろんですが、
音楽別に区分されているこのコンクールを経てから
音楽面では無差別級の全日本合唱コンクールへ参加するのも
大変勉強になるのでは。

まあ出場はともかくとして、
合唱をしていたら

一度は聴きに来るだけでも強くお勧めしますよ、
この宝塚国際室内合唱コンクールは!
その際チケットは早めに買っておきましょうね!!





(次回は無差別級グランプリ大会感想を)