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ルックスエテルナ教会コンサート ルネサンスの響き 感想

 

 

 

2015年5月16日 16時開演。 
宇都宮:松が峰教会で行われた
「ルックスエテルナ教会コンサート
 ルネサンスの響き」へ行って来ました。

宇都宮の名産である大谷石で作られたという
教会はとても立派で荘厳な印象。
(ロマネスク・リヴァイヴァル様式というのだそう)

松が峰教会 Matsugamine Catholic Church

 

 

 

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1階は既に人がいっぱいで2階席へ案内されます。

ルックスエテルナさんの団員数は20人。

(指揮者の内田等先生と

 Sop.5人 Alt.5人 Ten.5人 Bass.4人)
今回の演奏会でのオンステージは18人。

2部構成の演奏会。
最初はG.Dufay(ギヨーム・デュファイ)
『Missa "Ave regina coelorum" (ミサ"めでたし天の后")』


内田先生は礼をされると
団員の中に入り、そこから指揮をされ、第一声。

聖堂全体が隅々まで声で満たされます。
石造りの教会から期待はしていたのですが
これほどのものとは。

2階席まで優に響くその音は
眼前のものとして包まれる印象。
言葉が過ぎるかもしれませんが
演奏を聞くだけの受け身の行為ではなく、
ルックスエテルナさんと一緒に参加している、
自主的な体験とまで感じられるほどです。


2年前、千葉の全国大会でもルックスエテルナさんに
聴かせていただいたデュファイ。
内田先生が「現代音楽に通じる要素がある」と仰られたように
ミニマルミュージック、ダンスミュージックのようにも思える軽やかさ。
フレーズもメリスマ、細やかな音符を駆使するものですが、
ルックスエテルナさんの歌は平坦に流すのではなく、
わずかに立ち止まり、前傾姿勢、あるいは飛び跳ねるような
歌に運動性を感じさせるもの。

特に変拍子の複雑なリズムの旋律が絡み合う、
例えばソプラノとテノールの2重唱では、

単にリズムを合わせるのではなく、

お互いに歌と呼吸を見計らい、
ステップを踏み、指をつまんだかと思うとターン!
まるでフレーズがダンスを見せているような

生き生きとした躍動がありました。

各フレーズの出だし、「Kyrie」の「Ky」、
「Sanctus」の「Sa」などからして、
どれだけニュアンスの違い、ヴァリエーションがあるのかと感嘆。
それも音楽の表情によって最適なものを選ばれています。

「Laudamus te」という言葉の「La」が各パートで次々に歌われていくと
残響の中で鐘が打ち鳴らされているようなイメージを持ったり。
ホモフォニックな「Amen」は声ではなく、
パイプオルガンのように聴こえるなど、
この響きの良い教会で演奏されることの利点も実感しました。

最後の「Agnus Dei」では長い音符でも
音楽が進んでいる、前進しているとの印象があり、
それは宗教曲としての祈りの感情として
とてもふさわしい演奏。

ダンスと書きましたが
現代にも通じる要素を多分に含むデュファイのこの曲。
宗教曲として神を敬いながらも、
主体である人間の血は脈々と打ち、
顔はほのかに上気し、足はステップを踏む。
そう、この曲のルックスエテルナさんの演奏は
神様とダンスしているような、そんな演奏だったのです。


ここで10分の休憩。

 

 

 

 

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GPL.da Palestrina(ピエル・ルイジ・ダ・パレストリーナ)
『Missa "Papae Marcelli"(教皇マルチェルスのミサ)』


この曲は大変な名曲、

そして私がルネサンス作品に初めて触れた曲であり、
大好きな作品でもあります。


最初の「Kyrie」からどれほど純粋を目指すのかと思わせる
一心な祈りの音楽が響き。

「Gloria」は徐々に高まっていくテンション。
その音楽に合わせた表現の微妙な変化に納得。
後半の「in gloria」からの熱いたたみかけから
私の目がずっと潤んで…。

「Credo」は長いフレーズでも要所要所の力感を失わず。
旋律最初の子音の揃え方、イメージで
毎回新しく旋律が甦り、生まれ変わるような。
後半の「Amen」は音の塊が心にぶつけられたような
衝撃と感動がありました。

「Sanctus」では各パートで歌われる「Sanctus」という言葉が
暗闇の中で輝く灯りのように響きます。

そして最後の「Agnus Dei」。
ほとんどの団員さんが楽譜を閉じ、横に抱え、
最後の力を振り絞るように、
しかしこの瞬間を存分に味わい尽くすように歌います。
その歌、音楽の持続と、熱。

最初のデュファイが神様とのダンスなら
パレストリーナは声を重ねることで光に近づこうとする演奏。
色を重ねるように、歌と思いを重ね、
その結果、輝きの果てへ聴く者を誘うようです。
潤んだ目のまま、他の観客と同じように

私も力いっぱい拍手を送りました。


アンコールはアルカデルト (Jacob Arcadelt)の「Ave Maria」。
清冽な、今日の思い出をまた輝かせるような明るさと優しさ。

 

 

内田先生の大変素晴らしいプログラム解説を読むと

(私の粗雑な要約ですが…)

 

初期ルネサンス、汚職や権力争いで荒れていた教会。

しかし教会音楽家にとってはこの風潮は

逆に自分のやりたいことを思う存分試すことができたようで

非常に複雑で難度の高い音楽が流行した時代だった。

デュファイは音楽創作的には自由な風潮の中で、

それまでの音楽を集大成しつつ

精力的に新たな試みを提示し続けた。

それに対し、清廉な世の中のために

決まり事をしっかり作ろうという風潮から

複雑すぎる音楽が禁じられた後期ルネサンス。

機能的で破綻が全くみられない和声と、

テキストを明確に聴き取ることのできる

「パレストリーナ様式」と呼ばれる

旋律構造を生み出したパレストリーナ。

ルネサンス音楽は、デュファイではじまり、

パレストリーナで締めくくられたと言ってしまっても言い過ぎではない。

 

 

 

年代的にはパレストリーナが後なのに

デュファイに新しさを感じる理由を知ることができたのと

作風としてそれぞれ非常に個性があり、最高傑作とされる2作品を

この演奏会で取り上げられた意味を感じることができました。




最初に、演奏を聞く受け身の行為ではなく、
教会の演奏にルックスエテルナさんと参加している
自主的な体験と書きましたが
教会の演奏が神へ祈りを捧げる行為なら
聴く私たちも信徒となり
同じく祈りを捧げている気にさえなる、
そんな稀有な体験でした。
それこそが「教会」音楽のあるべき姿なのだとも。

目の前の演奏にあれほど集中している観客を
私は初めて見たかもしれません。

例えばコンクールなど張り詰めた糸のような緊張感で
聴く側が動けなくなってしまうことはあります。
しかし、今回の演奏では

緊張に圧倒されるのとは全く違い、
松が峰教会という「器」がルックスエテルナさんで満たされ、
自身が幸せな音楽全体の一部になり、
みじろぎするのがもったいないような気になる、
そんな不思議な感覚でした。

 


指揮者の内田先生は松が峰教会が
素晴らしい会場であることに同意されながらも
あまりに良い響きのため、音のバランスが取りづらく
第3音が強くなった時に音が汚くなったり、
子音の後の母音もニュアンスに配慮されて
さまざまに変えられているそうですが
やはり良い響きのため、同じように聞こえてしまうなどの
苦労も語られていました。
(またデュファイやパレストリーナのような曲では
 音が違ったらすぐわかってしまう!とも)



ルックスエテルナさんは、まず「Lux Aeterna」という名前で
1999年に誕生しました。

「コンクール出場団体あれやこれや:出張版2012」(その6)

 

こういう場所でコンクールの結果を記すのは野暮かもしれませんが
過去に全国大会へ2回出場され銅賞を受賞。
(その結果も「室内合唱部門」のレギュレーションや
 審査基準など物申したいことはあるのですが、置いておき)
今回の演奏も低声部に目立つ地声や
実声とファルセットの切り替わりや
和声、声の安定感など、ところどころ綻びはあったのです。

しかし、先ほどのコンクールでも審査員の一人
三澤洋史先生がブログで絶賛されたり、

富山での全国大会


このブログの観客賞でも2位を獲得するなどの

観客賞:室内部門 その3 - 原動機 -文吾のホワイトボード

 

確かな魅力がルックスエテルナさんに備わっていることを
改めて実感した演奏会でした。



コンクールというものは批判されることが多く、
その批判のほとんども的を得たものと私は感じますが
コンクールがなければルックスエテルナさんを
おそらく一生知らないままだったことを考えると
それだけでもコンクールについて賛成の票を入れたくなる、
乱暴な気持ちになります。


もちろん、言わばアウェーである

コンクール “だけ” の結果や演奏が全てではないこと。
こうして宇都宮までルックスエテルナさんの演奏を聴きに行くように
ホームグラウンドで聴くことも
団体の真価を知るために大切だな、と。

さらに「教会」音楽を、
実際に教会で聴くことの大切さを学んだ機会でもありました。


良い会場と良い演奏がお互いに求め合い、
惹かれ合った最高の演奏会。
聴衆としてその演奏、いや、体験の一部として
あの場に参加させてもらったことに
しみじみと今も喜びが湧いてきます。

 


2年後に行われるルックスエテルナさんの演奏会。

1曲はJosquin Des Prez(ジョスカン・デ・プレ)の
Missa 「Pange lingua」(ミサ「舌よほめたたえよ」)が

決定しているそうです。


私も2年後に、宇都宮、この松が峰教会へ向かうでしょう。

教会音楽、そしてルックスエテルナさんの真価を

ふたたび味わうために。

 

 

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