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第32回宝塚国際室内合唱コンクール感想 その1



2016年7月23日 AM10:00開始


会場であるベガ・ホールの清荒神駅へ
10分前に着くようネットで調べ向かったら
大阪駅から阪急梅田駅まで時間がかかり、
目の前で宝塚行き急行のドアが閉まった!

 

 


10分後の急行に乗り、足踏みする心で
「早く着け、早く着け!」と祈る。

10時開始の宝塚国際室内合唱コンクール。
清荒神駅に10時過ぎに降り、走ってベガホールへ。
チケットを渡し、ホールへ飛び込むと
まだ審査員紹介の時間だった。セーフ!

ちなみに審査員は
伊東恵司、桑山博、新実徳英、洲脇光一、高嶋みどり、
ジョナサン・ヴェラスコの各氏。
そして日下部吉彦氏は都合が悪くなったため、
急遽、沼丸晴彦氏に変更されたとか。



すぐにルネサンス・バロック部門が始まる。
この最初の出場団体が
「遅れてはならん!」と思った理由なのだが、後述。


7団体が出場。
賞外では2番目に出場した

あふみヴォーカルアンサンブル

(滋賀・11名・混声)


「愛する女の墓に流す恋人の涙」から
(Lagrime d'Amante al Sepolcro dell'Amatta)
(Claudio Monteverdi作曲)

決めて欲しい和音を探ってしまうなどありましたが
モンテヴェルディ、この作品の熱さが伝わる演奏。
表現に年輪を感じます。




同じく賞外で6番目に出場の

たりず すこらーず

(東京・20名・混声)


加藤旨彦氏の指揮で。

O magnum mysterium
(Tomas Luis de Victoria作曲)

So fahr ich hin zu Jesu Christ
(Heinrich Schütz作曲)


こちらも30~40代以上が中心の団体。
深いバスが魅力。
ヴィクトリアは手堅い表現で神秘性も感じられ。
シュッツも音と表現に人生経験が反映されているような。






銅賞は2団体。

4番目に出場の

Noema Noesis

(日本全国・20名・混声)


Ego flos campi(F.Guerrero作曲)

Ego flos campi(J.C.non Papa作曲)


第3回JCAユースクワイアのメンバーを中心に
作曲家:堅田優衣氏の呼びかけにより結成された若い団体。

アフリカの民族衣装を連想させる布を思い思いにまとい、
女声、男声、女声と半円1列になって。
指揮者は堅田優衣氏。

良い意味で若い声が、ひそやかな空気をまとい、
音楽が始まる好印象でした。
ただ、個人的な印象なのですが、
音楽がやや散漫というか推進力に欠けた気がします。
その場その場の音楽で、1曲全体を見通し、
音楽の頂点、どこへ向かうかが見えない印象。
2曲目も同じ印象で漫然としたものを感じてしまいました。
しかし、これは指揮者の堅田さんが目指している
独特の音楽の表れで、
私には「至っていない」と感じるだけなのかもしれません。
言い換えればこの団体の持つ「独特の浮遊感」は
例えばペルトのような現代作曲家の作品には合いそうです。

音響にも非常にこだわりを感じ、
明るく透明な響きは魅力でした。
テノールの音色が他とやや違っていたのと、
全体の音響の色が今ひとつ、この作品の求める温かさなどの感情、
プログラムにも書かれていた
目指すメッセージ性に繋がらなかったのは惜しかったかな。
作曲家の違う同テキストを取り上げ、
優しい良曲として音楽を伝えて下さったのはとても嬉しかったです。
これから合唱団として成熟していくと、
日本にはあまり無いタイプの響きを持つ
個性的な団体になるかもしれません。





同じく銅賞、5番目に出場の

Voces Ksa:na

(大阪・18名・混声)

 


Jesu dulcis memoria
(Tomás Luis de Victoria作曲)

Sfogava con le stelle
(Claudio Monteverdi作曲)

Messa a quattro voci da Cappellaより「Gloria」
(Claudio Monteverdi作曲)


井上和也氏の指揮で。
服装は黒の上下でそれぞれ自由に。
山台を使用し、女声9人、男声6人の半円一列。

ヴィクトリアは大きな流れの中、
細かい表現のうねりがありとても良い。
フレーズの繋がりも良く、宗教曲としての緊張感もあり
センスを感じさせる演奏。
しかし、曲の終わりをぶつ切りにし、
すぐ2曲目に入り、さらに午前中のためか
ソプラノは曲の求める激情に応え切れない?

2曲目の終わりも余韻を残さず3曲目へ。
難曲のためもあり、声はさらに疲れてきたのか
力で無理やり押しまくっているような…。

うぅ~ん、時間制限のためだろうけど
1曲減らして曲間を充分に取った方が良かったのでは。
演奏効果の理由もあるし、
次の曲へ歌い手が体を整えるという意味でも。

最初のヴィクトリアから演奏に熱もあり、
前のめりの若さが訴求力として伝わってきました。
場面転換や表情付けのセンスも優れていて、
とても良い音楽をやっている団体。
それゆえ、最初から徐々に失速していったのが残念!
また演奏を聴かせてもらうのを楽しみにしています。




賞外の2団体、そして銅賞の2団体。
30代、40代以上が中心の団体と
20代中心の団体という風に
「年齢」で賞が分けられてしまった印象。
コンクールの審査としては私も異議は無く。

しかし、加齢による発声、音程の衰えは
仕方がないことなのかもしれませんが、
先日、ある人と話したとき

「音程の正確さ、発声の統一感は
 確かに重要かもしれないけど
 それらはあくまでも演奏を構成する
 一要素なのを考えなければいけないのでは?」

…そんな議論をした覚えがあります。
音程の正確さ、発声の統一感を至上とするなら
優れた中学、高校生の部活か、
年齢幅が少ない若いOB合唱団しか聴けないわけで。
それ以外の表現も鑑賞し、
評価できるようにならないといけないな、と自省しました。

とは言え、やはり音程、発声は重要。
賞外の団体も、決めのハーモニー、ロングトーンの数ヶ所だけでも
音程、バランス、響きを究めた「これだ!」という
演奏を聴かせて欲しいと願っています。

 



金賞は3団体。

7番目に出場の

《EST》シンガーズ
(三重・20名・混声)


L'alto signor(C.de.Rore)

この曲をなんと6人の男女のアンサンブルで!
続いて

Che se tu se'il cor mio
(Claudio Monteverdi作曲)

人数が20人に増え、向井正雄先生の指揮で。
合唱団としての一体感、表現の勢いと説得力。
その説得力は「語るように歌う」から来てるのでしょうか。
さまざまな音楽の表情からドラマを感じさせます。


Ride la primavera
(Heinrich Schütz作曲)

前曲からガラリと変わり明るい声が弾む!
リズミカルな部分だけではなく、
中間部はレガート、
持続する音の美しさを堪能させ。


ESTは2部門出場。
近現代部門が若手中心チームということなので
こちらはベテランチーム?
以前「馴らされない声と心」とESTの感想を書いたのですが、
今回も「荒さ」と受け取る人がいるかも。

しかし6人のアンサンブルから始まって、
モンテヴェルディとシュッツの
対照的な曲を並べたこの演奏は
コンクールでは無く演奏会の1ステージのよう。
それは選曲だけが理由では無く、
予定調和に収まらないESTの表現意欲の大きさも
あるんじゃないかな。






さらに金賞は


Collegium Vocale Seoul

(韓国・20名・混声)


Komm,Jesu,komm,BWV229
(J.S.Bach作曲)

Sun Ah KIM氏の指揮で。

女声は黒のドレスにグレーのショール。
男声は黒スーツ、一列半円になって暗譜。

第一声から、深く、強靭な、素晴らしい声が響く!
音程も正確だ!

おおお・・・この団体のポテンシャルは
正直、東京混声に勝るとも劣らないのでは?
さすが、プロの合唱アンサンブルだなあ…と思っていると。

…うぅん、これは、私の好みなんですが
音楽が全く動かないんですよね。
メトロノームに合わせているかのごとく
その場の空気のわずかな揺れさえも許さない音楽。
きっと練習とこの本番では全く違いは無いのでしょう。
表情の変化も音量の増減だけが主に思えてしまい、
単なる繰り返しと勘違いしてしまいました。
この女性指揮者じゃなければまた違う演奏になるのかなあ。

非常に優れた発声、正確な音程、解釈も正当。
金賞ということに異議は無いのですが
残念ながら私の好みの演奏では無いということで。
すみません…。




金賞はもう1団体。
一番最初に出場した

 

 


Youth Choir "Kamēr…"
(ラトビア・20名・混声)




前評判を聞き「遅れてはならん!」と焦ったこの団体。
なんてったってツイッターで「Kamēr…」とつぶやいたら
日本語が堪能なラトビア人写真家から
「Kamēr、マジ凄いよ!」とリプライが来たほど(笑)。

女声は乳白色のロングドレスと男声はスーツに蝶ネクタイ。
指揮はJanis LIEPINS氏。


Hear my prayer,O Lord
(H.Purcell作曲)

第一声からハッとしてしまうほどのユニゾンの美しさ。
声も直線的では無く高い位置から発せられているような。
柔らかく、そして時に強く、熱く、
音楽が求めるものをどこまでも自在に。

気になったのは歌っているとき体が大きく揺れること。
しかし、よく見ると個人の発声で揺れるのではなく
指揮者の示す音楽を共有するように
合唱団全体がひとつの有機体として揺れている。

その場の空気、流れる時間を共有した
絶妙のアンサンブルだ。


2曲目の
Lobet den Herrn
(J.S.Bach作曲)


これも実に素晴らしい。
メリスマは羽が生えたように軽く、
その後の長い音符はそのまま空へ飛び立つように高く高く。
さらに和音の色彩が鮮やかだ。

…これはコンクールがどうかという音楽じゃない。
前のめりになっていた身体を椅子の背にあずけた。
リラックスしながらこの音楽を楽しむのみ。

バッハっていいな、いや、音楽っていいな・・・。

馴染みの酒場で好きな酒を飲みながら
好きな音楽を聴いている時のような。
この上なく幸せな時間に浸っていました。

 


(ロマン派部門の感想へつづきます)