VOX GAUDIOSA X 葡萄の樹ジョイントコンサート感想





感想を書いて、途中で止めてしまったものがいくつもあって。
今回はそれを引っ張り出してみました。

 



2017年3月4日(土) 19:00~


奇跡的に仕事が早く終わり、神戸へ向かった。

今回のジョイントコンサートの会場となる
「神戸新聞松方ホール」は神戸駅からおよそ10分。
着いたのは18時半過ぎ。


神戸情報文化ビルの4階に位置するホール。
木の内装が特徴的な1、2階合わせて706席の
とても響きの良いホールだ。
https://www.kobe-np.co.jp/matsukata/hall/index.html


当日券を購入し、ホールに入るとかなり席は埋まっている。
荷物を置いていない席をひとつ見つけ、
空いているか隣の席の女性に尋ねると

「出演する子どもさんが隣に座っていたけど、
  その席は空いてますよ」

…子どもさん?


19時の開演10分前に伊東恵司さんが登場し

「歓迎演奏ということで
 三津屋連合子ども会音楽クラブのみなさんに
 演奏していただきます」

とアナウンス。
揃いの制服の40人ほどの子どもたちが登場。
(低学年の子が多かったかな?)

プログラムでは音楽クラブの先生である
村田創さんの名前が記されているが
今回は作曲された松下耕先生の指揮。

曲は「ほらね、」

真っすぐな歌に最初から涙腺が・・・。



第1ステージは「春のうた」と題し、
京都の「葡萄の樹」さんの演奏。
伊東恵司さんの指揮で。

女声23人、男声17人。
女性は白ブラウスロングスカート、
男声は黒シャツにズボンの普通のスタイルだが
それぞれ色とりどりのリボンと
シャツの胸ポケットにハンカチーフがあるのがオシャレ。

1曲目の「春の日の花と輝く」から
柔らかく豊かな声がステージからあふれ出す。
和音に洒落っ気を感じプログラムを見直すと
トライトーンの松永ちづるさんの編曲とわかり、納得。

古謡「さくら」を松下耕先生が編曲された
「SAKURA」は旋律と伴奏のヴォカリーズのエコー、ズレが
不思議な時間感覚をもたらす。

武満徹「島へ」は(…春の曲?)と疑問に思ったが
フレーズの抜けの良い明るさ、
さらにフレーズ末の和音の広がりが素晴らしく。
テンポも重くならず、かつ流れ過ぎない。
良い声だが、決して「声自慢」に陥らず、
柔らかさ、明るさ、憧れ、恋…
さまざまな感情が優れた声に乗り、心を揺り動かした。
このステージで一番良い演奏だったのではないか。

「すみれの花咲く頃」は信長貴富先生らしく
歌を活かした編曲でホールが華やぐ。
ラストは移動し、男女のペアを作り歌う。
女性同士のペアが何組かあって、
なるほど宝塚の曲!…と思ったが
単純に女声の人数が多いからですね。

最後に演奏された、みなづきみのり先生:詩、
森山至貴先生:曲の「春の天使」
ピアノに導かれ、天使の姿が描かれる。

ヴォカリーズの後にフォルテッシモで歌われた
「もうすぐ春だから
 世界が春を迎えるために」からぶわっと鳥肌が!

テンポアップし心を打つ演奏。
このステージの締めにふさわしい。

最後に優しく歌われた

「ほら、
 天使が微笑みながら
 春の準備をしているよ」

今の季節、実にふさわしかった。




第2ステージは
「みなづきみのりX松下耕の世界」と題され、
VOX GAUDIOSAさん(以下、ガウディ)の演奏。
女声12人、男声10人。

演奏前に指揮の松下先生から
団員さんに日本人以外の方がいると
台湾の女性とインドネシアの男性をご紹介。

そして
「みなづきみのりって詩人…知らないと思いますけど」
「きっとこのホールにはいないんじゃないかなあ~」
…などと安定の詩人いじり(笑)。


そんな笑いが混じるトークの後、
演奏が始まると空気が一変。

「うたおり」。
(みなづきみのり作詩/松下耕作曲)
無伴奏の6曲。



(…と原稿はここまでで終わっている。
 さすがに二ヶ月経ち
 同じ密度で感想を書くのは難しいので以下簡単に)




驚いたのは技術の高さ。
正確な音程、和音の精緻なバランス、
優れた発声に加え表現の為の柔軟性がある。
全日本合唱コンクールや
宝塚国際室内合唱コンクールなど、
最近聴いたアマチュアの中で間違いなくトップレベル。


流麗なヴォカリーズと旋律が心地良い「尾花」。
「薔薇」の強い説得力。
死の緊張感ある「戦場」から
命の温かさのコントラストが響く「夕餉」。
ピアニッシモの美しさが永く記憶に残るステージだった。


和音についてもう少し。
ガウディの演奏では「合唱でハモる必要性」を強く感じた。
合唱人にとってハモるのは快感なはず。
しかしその気持ち良さに理性を失い、
最大限に鳴らし響かせた結果、
起伏が少ない演奏も多いのでは。

求める表現の為に、ユニゾンはユニゾンの力強さ。
そして和音には、音楽の求める色彩と温度と感情を。
松下先生の自作品ということもあろうが、
「ハモる必要性」を教えてもらった演奏だった。





第3ステージは「世界のうた」と題された葡萄の樹さんのステージ。
ニュージーランド、マオリのラグビーで見られる
派手なボディアクションから。
続けて南アフリカ、黒人霊歌など多彩な選曲だが、
やや声の使い方がワンパターンのような…。
音楽と表現の奥底へ切り込むことが少ないのかも。
ただ、飽きを感じる前に、
叫びや動きなどの飛び道具が実に上手く、
さらに選曲も多彩で、
合間に素晴らしいソプラノのソリストを前面に出す曲など、
伊東さんのプロデュース力を強く感じるステージだった。
もちろん、表現の深淵に向かわないからこそ
聴く側はリラックスして聴ける面もあり、
そこは難しいところ。






第4ステージは再びガウディの演奏。
「メレディス・モンクの世界」

指揮者の松下先生は客席に。
このステージは凄かった!
以前、ネット配信で見てはいたのだが、やはり生は格別。

メレディス・モンクは
今年75歳になるアメリカ合衆国の作曲家、パフォーマー、
演出家、ヴォーカリスト、映画製作者、振付家とのこと。


暗闇の中、スポットを浴びるガウディメンバー。
まず、音が生まれ、身体性を伴い、リズムが加わり、
音楽に発展していく様を見ているような。
ひとつの音楽的アイディアが、
ガウディのみなさんの練られたパフォーマンスによって、
別次元の世界を作り上げている。
暗転し、また違うパフォーマンスが
繰り広げられる度に息を飲み、感嘆するステージとなった。

演奏が終わってから松下先生は

「この曲の指揮者は世界一ラク!
 客席で座っているだけだから!」

と笑いを誘っていたが、いやいやとんでもない。

ネット配信から生演奏で初めて聴き驚いたのは、
音量のバランス、会場でどう響くかという
緻密な計算がされていると感じた。
これは松下先生の優れたセンスと耳あってこそ。


まだ観ていない方は是非ご覧ください。

OTHER WORLDS REVEALED  

曲:Meredith Monk / 室内合唱団 VOX GAUDIOSA

www.youtube.com






合同演奏は「私からあなたへの歌」。
(みなづきみのり作詩/松下耕作曲)
ひとつの団体と聴いても全く違和感の無い演奏。

続けて「ほらね、」を最初に演奏された
三津屋連合子ども会音楽クラブの子どもたちを加えて。

いわゆるジョイントコンサートの合同合唱では
練習の少なさや選曲などで疑問を持つことが多い。
団体それぞれ培った表現にこそ重きを置く人間なもので
このように合同の曲を少なめにして
演奏の密度を上げるジョイントコンサートには好感を持った。


演奏が終わり、盛大な拍手が湧き、
出演者のみなさんが退場された。
置いてある荷物を取りに
客席に戻った音楽クラブの女の子が
「ほらね、ぼくらは~」と軽く歌い出すと
周りの子どもさんが合わせて歌い出したのが
この日一番のクライマックス。




 ほらね
 僕らは一人じゃない
 きっとね
 誰も一人じゃない



 

 

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・・・良い演奏会でした。

 


(おわり)