観客賞スポットライト 同声合唱部門 その2




今回は香川県の月1回練習の女声合唱団、
monossoさんの訪問記です。



2.香川県・四国支部代表
 

monosso

(女声45名・2年連続出場)


 


2017年10月22日、日曜日 午前9時半。
台風21号が接近する中、
岡山から快速マリンライナーに乗り、
高松に降り立った。

 

 

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ちょっと風があるとすぐ運休することに定評がある瀬戸大橋線。
私は岡山に帰れるのだろうか・・・。

などと悩んでもしょうがない。
今日は誕生して2年経っていない女声合唱団、
monossoさんの練習見学に来たのだ。


高松駅から徒歩5分。
サンポート高松内のビルに入り6階の第3リハ室へ向かう。

リハ室そばのソファに指揮者の山本啓之さんを発見!
「今日は台風だから人数少ないよ、ごめんね」「いえいえ!」
などとご挨拶をしたところ、ある団員さんが通りがかった。

山本さん「Hちゃん! 発声やってよ!!」

「え~」とHちゃんと呼ばれた女性は困った顔をしながら
リハ室に入っていく。

「彼女は地元が高松で、
 いま広島の大学に通ってるんだよ。
 卒業したら高松に戻るだろうから、
 発声やってもらうのも育成の意味がある(笑)」

今日の練習予定などのお話を聞き、
10時半になったところで私もリハ室に。


指揮者の机を取り囲むように、
椅子と譜面台が団員分用意されている。
さらに首からは名札を下げ。
この時点の人数は17名。
しかも(私以外の)見学者が2名いらっしゃるそうだ。


来月の全国大会に向けての練習ということで
最初は課題曲F3、萩原英彦先生の「再会」
「まずは歌詞を付けないで『ラララ…』で行こうか」


monossoさんは単一パートの指摘時だけ
他パートが座り、
あとは基本立ちっぱなしで歌う練習スタイル。



しばらく歌わせてから
「アルト! もう少し音が欲しい!
 あ、メンズはがんばらなくていいから。
 ウィメンズがんばって!」

そう、monossoには2人の男性がアルトに入ってました。
これは一般の女声合唱団では珍しいのでは?



山本さんの指導は流れの中で笑いを交え、
指導なんだか山本さんワンマンショーなのか
わからなくなる時があったが、
それでも印象に残った言葉が2つあった。



ひとつは「必ず息を流して!」「息が動くように!」

これは解説が必要かもしれないが
私が感じたのは

「楽譜のリズム割りで機械的にならず、
 もっと自然な歌にしてや!」

じゃないかと。

自然なニュアンスの、身体が入った歌にするため
山本さんはあらゆる手管を使う。
流れる旋律を実感させるため、
ピアノだけを聴かせて音楽の共通点を説く。
アクセントにはインチキ外国人が出現して笑いを生む。

ーれも、イーナいー!じゃないでしょ!(笑)」


後から話をお聴きすると

「歌はやっぱりレガートが必要だからさ。
 monossoは同じメソッドの発声で
 育った子たちばかりじゃないし。
 レガートができていない子もおる。
 そういう子たちを育てていかないとね」




ふたつ目は「自分で動いてや!」


ソプラノ、メゾ、アルト、バラバラにして歌ってから
ふたたびパートごとに集まらせ歌わせて
「…文吾くん、どう思う?」

「え?! …前の方が・・・良かったような」

「そやろ! 隣に同じパートの人がおるから
 頼って弱くなってしまう。
 それじゃダメなんだよね!」



「再会」の「誰もいない」の出だしに注意した後
歌うのを止めた人が幾人かいて音が弱くなってしまった。

「『注意されたから歌わないでおこう…』
 そうじゃないんだよ!
 全員が、絶妙のあんばいで出るようにしよ!

 考えてみ? たまたまその日のコンディションで
 『これは揃わなそうだから私は休んどこう…』
 って全員が思ったらどうするの!!」


一同(笑)。


「まあ、ありえないけど(笑)。
 揃わずに失敗したっていいじゃない!
 全員で出そう!」


この言葉は響きました。
「一人で歌えないから合唱する」という人は多いと思うけど、
山本さんは一人で歌わせることこそ滅多にしなかったが
それでも歌う人の近くまで迫り、
ひとりずつの歌を探ろうとする。


「最後は一人やから!
 合唱は集団芸術だと思うんだけど
 最後はひとりひとりの関わり方次第!

 指揮者と団員は1対45じゃなくって
 1対1かける45…にしたいけど
 そんなん無理やもんね、オレ、千手観音じゃないし(笑)。

 やっぱりひとりひとりが発信してる音楽が愛おしい。

 金魚のフンみたいに他人の後をついてくんじゃなくって
 自分で動かす!その方が楽しかろ?」




「再会」の詩は病気で夭折した矢澤宰の作品。

「『校庭をめぐって』
 ちょっとそこに喜びが欲しいんだよな。
 知らないところをどきどきわくわくしながら回るような。

 『めぐる』って普通、校庭や学校に言わんやろ。
 だってさ、矢澤宰さんは
 病気でなかなか学校に行けなかったやろ?
 だから未知の学校、校庭が楽しい。

 自分も1年間入院して、
 半年ベッドの上から降りられなかったから
 その気持ち若干わかるんだよね・・・」


(…と少ししんみりさせて、
 半年後車椅子に乗ってすぐタバコを吸い、
 ぶっ倒れた話で笑いを取るのが山本流! 笑)




「『誰もいない』のフレーズ、
 3回同じことをしていると思われないように。
 でも2回目を濃い目にするのもおかしいし
 かと言って何もしないのもおかしい」


確かにそうだ。
この表情記号も音量も全く同じ3回のリフレイン、
山本さんはどう色付けするのか?と見ていると



「あなたたちが同じことを
 2回言う時はどんなときやろう?
 2回目を作為的に言うのは盛り上がるけど、
 ここはそういうところじゃないでしょ。

 誰もいない・・・。
 音はどっちにも聞こえて欲しい。
 『誰もいなくて寂しい』でもいいし
 『こんなに誰もいない学校初めて…』でもいいし
 いろんなもんに聞こえて欲しいな」


考えさせ、ひとりひとりの表現を引き出そうとする。
「再会」を最後に通すと
最初とは別団体のように
音楽が生きているのを感じた。






午後からはピアニスト酒井信先生がいらっしゃって
自由曲の信長貴富先生「百年後」の練習。


酒井先生にも私が紹介される。
「ホラ、あのmonossoの感想を
 ブログに書いていた文吾くんです」

酒井先生「あぁ、あの・・・」という反応。
読んでらっしゃるんですね~。
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2017/01/05/192900


私が「山本さんはピアニストに厳しい、とウワサが」
と言うと山本さんが

「全然厳しくないですよ!優しいですよ!」


酒井先生クールに「そうですか?」


一同(笑)。


山本さん焦って
「いやいや! 酒井先生には
 『好きなよ~うにやってください!
  ・・・でも、こうもやってくださいね』
 って言ってるだけです(笑)』



「百年後」を演奏したHIKARI BRILLANTEさんが
いかに若くて可愛かったかを力説し、
団員さんから大ブーイングを受ける山本さん。

「酒井先生、僕を助けて・・・」


酒井先生クールに「難しいですね」


一同(笑)。


このふたり、
なかなか良いコンビなんじゃないでしょうか(笑)。


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「百年後」はインドの詩人タゴールが書いた詩に
信長貴富先生が作曲された作品。
あっという間に大人気となり、
練習中にも聴き惚れてしまうぐらい良い曲なのだけど
山本さんは

「確かに良い曲!
 でも、良い曲なんで
 歌う側が酔ってしまう危険性があるんだよね。
 だから楽譜上の指示をしっかり歌わないと」


酒井先生のピアノが入り、次に合唱…
という時に山本さんは全く動かない。
歌は当然抑え気味になる。
「自分から動いてや!」 えー?!(笑)

「指揮で歌ってないか?
 酒井先生、お願いします」


そしてフレーズに入る前のアルペジオを弾いてもらい、
歌わせる。

「それだよ!
 吟遊詩人が歌う前に、
 リュートをひと弾きして歌に入るやん。
 そういう歌が欲しい!

 歌曲での伴奏と同じだよね。
 指揮者はいらない(笑)。
 指揮者が支配するんじゃなくて
 ピアノの音楽を感じて自分から発信する…
 『ライブ』にして欲しいなあ」



出だしの「いまから百年後に…」

「その歌だとね、
 (手を少しだけ上げて)この辺にあるの。
 『いまから百年後に!』って言ってる距離感が欲しいの!
 『詩を読んでくれる人』と
 『伝えたい人』に向かって響きを増やして!

 …この曲には『ありがとう』という
 気持ちが入っていると思うんだよね。
 百年後に詩を書いてくれる人にも、
 そして、百年後に聴いてくれる人にも。
 ぜんぶ含めて人に対して
 『ありがとう!』という気持ちを込めて!」


酒井先生のピアノだけを何回も聴かせ、
メロディライン、息の流れ、音楽の流れを意識させる。

練習の最後にはぶつ切りにならない
先を見据えた音楽が入ってきたような。

最後になっても練習に参加する人数は
20人を少し越えるぐらいでしたが
ずっと立って歌うのも含め、
団員さんひとりひとりが
真摯に音楽へ向かおうとする姿が印象的でした。

 

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あっという間の6時間練習が終わり午後5時。
「台風で列車が止まるかもしれんよ?」との言葉に
急いで駅へ向かい着いたら17:05。
なんと17:10が岡山行き最終だった!ラッキー!
monossoのみなさん、山本さん、酒井先生、
ありがとうございました!


* * * * * * * * * * * * *


「まあ、あの後、2時間後に運転再開したんだけどね(笑)」
後から話をお聴きすると山本さんは
そう言って笑った。


「monossoは香川で合唱をしていた子たち、
 合唱をやりたい子たちの受け皿にしたいんだよ。
 吹奏楽をしてたけど合唱をやりたくて
 monossoで初めて合唱をする子もおるし。

 だから今の選曲は
 『言葉も意味もわからんけど一生懸命やる』じゃなくって
 本人たちが想いを込めて歌える作品を
 選んでやらんといかんな、と思ってね。
 自分はこういう気持ちでこう歌うんだという
 心と体がリンクする作品をまずはやっていきたい。

 …自分の音楽を強制するんじゃなく
 彼女たち自身の想いを生かして歌にしてあげたいな」



monossoの出番は同声部門2番目。
26日午前10:49の予定です。
みなさん、お聴き逃しなく!





(monossoさんの訪問記はこれでおわりです。
 ブログ記事は明日に続きます)