CORO MIWO JOINT CONCERT感想



2018.05.27 14:30~
岡山市立市民文化ホール

 

 

 

岐阜の合唱団、CORO MIWOがなんと岡山へ!
20年ほど前に愛知に住んでいた時、MIWOを聴きに行きコダーイのミサ・ブレヴィスで「合唱を聴いて初めて涙を流す」体験をしてから私にはずっと特別な合唱団。

会場の岡山市立市民文化ホールは岡山駅から市電に乗り、小橋駅で降りて数分の、旭川沿いにあるホール。
過去2回このホールを訪れたが、いずれも噺家・柳屋喬太郎師匠の独演会だったため、音楽を聴くのは初めてで音響に不安が。

802席のホールに観客は300人ほどか。
最初のステージは賛助出演の「倉敷少年少女合唱団」
園児から大学生までの約140人が在籍する団体だが、まずシニアクラスの17名、難波夕鼓先生の指揮。
ビーブルの「アヴェ・マリア」、
ジェンジェシの「主を讃えまつれ」。
2年前の鳥取・全国大会出場時にも感じたが非常に練られた発声の団体。
ビーブルは揺るぎない響きと和音、ジェンジェシはリズムと表現のメリハリを付けての好演。
特にジェンジェシでピアニストの上山夕子先生が山台中央の一番上に位置し、タンバリンを見事に演奏したのに唸った。
タンバリンやトライアングル、トーンチャイムなどはなんとなく団員に任せてしまう団体が多いが、打楽器奏者じゃなくても、しっかりその楽器の特性を理解している人が演奏すると格段に印象が違う。

3曲目からは他のシニアクラス団員さんが加わり50名ほどに。
「オペラ座の怪人」「銀河鉄道999」の2曲を演出付きで。
自分がこの団員さんと同じ年代の時にヒットした999が未だに歌われることの不思議(まあ実写化もされるそうだし…)。
オペラ座の怪人主役のイケメンテノールくんはこれからも合唱を続けて欲しい!



第2ステージは「合唱団こぶ」

女声15名、男声10名と昨年の全国大会の37名から、やけに人数が減ったのをいぶかしんでいると指揮の大山敬子先生が


「私たちは大変仲が良い団体でして…。
 仲が良過ぎて12組も団内結婚があり、子育てなどで・・・」


おおお、大変ですねえ。

横山潤子「笑いのコーラス」、男声合唱による嘉門達夫「平成五段活用」。
そして松本望「2.永遠の光」。
どの曲もまっすぐな心で素直に感動を伝えようとする印象。
最後に全国大会で多くの人を泣かせた信長貴富「夕焼け」。
バイオリンの美しい旋律とピアノ、合唱の絡み合いから平和への強い願いが紡がれ、心を打ちました。



休憩後、いよいよMIWOのステージ。
繰り返すが音楽を聴くのは初めての、この岡山市立市民文化ホール。
倉敷少年少女、こぶの演奏の印象では、ここまで響かず、とことんデッドなホールは体験したことが無いほど。
名古屋市のしらかわホール、岐阜市のサラマンカホールと、とても上質で響きの良いホールで歌い慣れているMIWOのみなさんにはかなり辛いのでは。
さらにダメ押しで空調の音がゴゥンゴゥンとかなりウルサイ。

最初は「2018年度全日本合唱コンクール課題曲集から」と。
MIWOは毎年「青少年のための合唱演奏会」と題し、NHK全国学校音楽コンクール課題曲、全日本合唱コンクール課題曲を中心に選曲した無料の演奏会を開いていて。

一般の合唱団と中高生の団体では壁があるものですが、こうして課題曲を入り口にしておとなの合唱、演奏に興味を持ってもらうのも良い方法では?


最初は女声男声4人ずつ8人のアンサンブルで課題曲G1のWilliam Byrd「Agnus Dei」。
続けて女声9名でF1のJacob Clemens non Papa「Ego flos campi」。
MIWO団長の佐々夫妻や創立メンバーを含むアンサンブルは、音楽の流麗さと親密さはさすがだと思うもののやはり声が客席まで届かない印象。

続けて岩本達明先生の指揮で課題曲G3の間宮芳生「まいまい」を女声23名男声16名のMIWO全員で。
人数が増えると表現がぐっと近くに寄る。
そして改めてMIWOの良さを感じたのはバランス。
音楽の自然な流れに乗りながら、その瞬間、瞬間にふさわしい音を各パートが深く理解して表出している。
それは音楽上の狙いを理解していることでもあり、全体のバランスを考え、歌いながら良く「聴いている」ということ。
特長的な民謡の表現も適度なアクセントとして実に効果的。

Flancis Poulenc「Figure Human(人間の顔)」からの3、4、6の3曲はさらに素晴らしく。
軽やかさの中にプーランク特有の音世界が広がっていく。
ナチス圧政への抵抗として書かれた作品だが、時にからかうようなユーモアなどプーランクの機知が散りばめられ。
ある箇所にはソプラノの旋律に官能までをも感じさせ、また寄り添う男声の精妙さ。
バランスは音量だけではなく、感情、歌の強さでもあり、40名ほどの人数でもMIWOは見事にアンサンブルをしている。

ステージ最後のジェンジェシ「ベツレヘムに幼な子生まれぬ」は速いテンポから繰り出される軽快なリズムの嵐。
テンポアップし、ノってきた岩本先生のダンスのような指揮に応じ、自然な揺れでMIWO団員さんも動き出し、遂にはゴスペルのように歌い上げる圧巻のラスト!拍手!


休憩後、大谷研二先生の指揮、浅井道子先生のピアノで全日本合唱コンクール課題曲:F3三善晃「麦藁帽子」。
続いて信長貴富作曲、混声合唱とピアノのための「加速し続けるエレジー」 -折れ曲がった線路の先に-

福島の詩人である和合亮一さんが東日本大震災後にツイッター上で発信されたものがテキスト。
14分以上の単一楽章の作品で震災からの絶望を描く。
列車の駆動音を思わせるリフレインは、ホロコーストなど歴史の流れを汽車と関連付けたスティーヴ・ライヒ「ディファレント・トレインズ」も連想。
最後は混迷から「北へ、北へ!」と未来を指すような力強く明るい音と共に壮大なクライマックス。
比較的長いこの作品を集中して聴かせてしまう大谷先生の構成力の高さ、MIWOの歌の幅広さがシリアスな表現に説得力を生み出していたのも好演の理由。


休憩後は出演団体による合同合唱。
信長貴富「こどもとおとなのための合唱曲集 ゆずり葉の木の下で」。
題の通り、児童合唱との協演を意図して作曲された作品。
大谷研二先生の指揮、浅井道子先生のピアノ。

MIWOと重なり上手くサポートするこぶのみなさんと、「こども」としては少し大人びているが、暗譜で実に練習を積んだのが伺える倉敷少年少女。
1曲目の「あおいあおい(詩:小舞まり)」で倉敷少年少女が「空があおいよ」と歌い出し、大人の合唱が包み込むように優しく「ほんとだね」と歌うところから涙腺が…。
続けての谷川俊太郎詩「モン・パパ」はユーモラスに、オヤジは辛いよ…とパパの哀しみを。
最後に演奏された河井醉若詩、「ゆずり葉」に寄せるバラードは新しい葉、子どもたちに命をゆずって散っていく葉を描いた作品。
過去からずっと続き、さらに命を繋いでいくことで生まれる未来に爽やかな音楽と演奏が相まって、清々しい感動が湧き起った。

アンコールは岩本先生が指揮される「愛は時を越えて」。
この曲、岩本先生が多摩高校の教諭時代に聴いた覚えが。

倉敷少年少女のみなさんにはちょっと早い曲かな?と思うものの、この年代でこそ心に響き、忘れないものになるかも。
「ああ誰かを愛した輝きが 明日を変えてゆくの」…この曲も「ゆずり葉の木の下で」と同じく明日、未来を見つめる作品。
熱演でこの演奏会を締めてくれました。



正直に書くと、名古屋・岐阜・東京で聴いた過去のMIWOの演奏からすると、こちらに表現が届かない思いもあった。
運営の方々には申し訳ないが、大部分はこの響かないホールのためもあるし、MIWO団員さんの加齢もあるのでは。
それでも流れ続ける音楽の瞬間を聴き合い、アンサンブルし、声も表現も自在に幅広く変えていく、生きたMIWOの音楽は健在だった。
また以前ならまっすぐに力強く届いていた音が、今回は枯れたものをどこかに感じたが、それはそれで表現における心の深い襞を思わせたのは、MIWOと私の20年があったからだろうか。

MIWOの次のステージは7月、大垣市での青少年のための合唱演奏会。
そして来年4月29日東京で行われる、若い合唱団のやえ山組さんとのジョイントコンサートで、今回演奏された「人間の顔」を全曲演奏するそうだ。
来年のその日、大きく期待して東京へ向かうことにしよう。

MIWOが輝く舞台をゆずってしまうのは、まだまだ早い。

 

 

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