観客賞スポットライト 大学ユース部門 その1




今年で3回目となる「観客賞スポットライト」というこの企画。


観客賞とは…?

6年前から当ブログで始めた観客賞。
各部門の、全団体を聴かれた方の投票で決定する賞です。

この観客賞の意義を説明しますと。
審査員による順位、賞の決定は音楽のプロフェッショナルたる審査員が、それぞれ真剣に誠実に演奏へ向かい出された結果であり、尊重するべきだと思います。

しかし、
「傷はあるけどあの演奏が凄く良かった!」
「コンクールに向いてない選曲はわかるけど涙があふれた!」
…などという声を多く聞いていた自分は、
「じゃあ、観客による投票を行ったら 演奏への新しい価値観が生まれるのではないか?」と考えました。

さらに「この団体が銅賞だったから私は投票する!」…のような判官贔屓を無くすため、投票は審査結果前に締め切っています。

この観客賞に関連付ける形で、団体にスポットライトを当ててご紹介するのがこの「観客賞スポットライト」という企画です。
昨年から続いて今年で3回目となります。




それでは始めましょう!
今年の全国大会は札幌。
札幌市中央区中島公園にある札幌コンサートホールKitara(キタラ)にて11月24日、25日に行われます。

札幌コンサートホール Kitara

 

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札幌での全国大会は9年ぶり、前々回は18年前に開催されました。



今年も合唱倉庫さんから全国大会へ何回出場されたかというデータをお借りしております。
 http://choral.nusutto.jp/

毎回ありがとうございます!




1日目、11月24日土曜日。

 



9:30開場で10:00開演。
最初の部は大学ユース部門。
トップバッターは、なんと昨年この部門のチャンピオンが登場です!

 

 

 



1.山梨県・関東支部代表

都留文科大学合唱団

(混声55名・11年連続出場・第51回から12回目の出場)

 



昨年は金賞、そして1位相当の文部科学大臣賞も受賞された都留文科大学合唱団さん。
男声の割合が少なめな団体なのですが、毎年とても良質なアンサンブルを聴かせてくれます。
特に昨年は、都留文大OGのテキストを元にした信長貴富先生「ぼくの村は戦場だった ~あるジャーナリストの記録~」が並々ならぬ強い想いで歌われ、聴く者に大きな感銘を与えました。

都留文科大学合唱団団員さんからメッセージをいただきました。

 


都留文科大学合唱団です。
今年もこのような機会を頂き、ありがとうございます。
私たちは山に囲まれた自然豊かな土地で、顧問・常任指揮者の清水雅彦先生のご指導のもと日々活動しております。
団員の約半数が大学から合唱を始めたメンバーで構成されている今年の文大合唱団。
コンクールや各種演奏会に臨むことで経験の有無に関わらず、個人としてそして団としても、ひと回りもふた回りも大きく成長してきました。
「合唱と共に過ごす大学生活」と書いて「青春」と読ませたい、そんな毎日を送っています!

今回選んだ課題曲「Agnus Dei」は、神への祈りが込められた慈愛に満ちた曲です。
作曲当時はイギリス国教会によるカトリック弾圧のために静かに祈ることしかできなかったでしょう。
その情勢を映したように静謐な女声の歌いだしに始まり、抑えきれない祈りがあふれ出るように重なり、高揚していく。
この4声の美しい織りなしで、全国大会2日間の幕開けを感じていただければと思います。

また、自由曲は『The Lamentations of Jeremiah』より
「Ⅱ.EGO VIR VIDENS PAUPERTATEM MEAM」
「Ⅲ .RECORDARE DOMINE QUID ACCIDERIT NOBIS 」を演奏します。
この曲はアルゼンチンの作曲家アルベルト・ヒナステラの初期の作品です。
当時のアルゼンチンは「忌まわしき10年間」と形容された政治的に不安定な時期を乗り越え、国民主義的な意識の高まりをみせた時代でした。
第1章では怒りと悲しさを痛切に、第2章では深い苦しみ、悲しみを切々と、そして第3章では希望を見せながら高らかに歌い上げるこの曲は、当時の国の様相にも重ね合わせられます。

今回演奏する第2章は、課題曲とは対照的に抑圧された悲しみや苦しみが重々しいメロディや和音によって表現されています。
音域が低く、ともすれば単調な曲になりそうなところを歌詞の意味を汲み取りながら情感豊かに歌い上げます。
そして、第3章では雰囲気がガラリと変わり、途絶えることのないフーガで神への信仰を捧げます。

この曲に込められた宗教観を考える上で頭を悩ませたこともありました。
「どうしたら感情の起伏を表現できるのか」という課題に対し、身体を使ったモノオペラの練習に取り組むことで各々の曲への思いを深め、表現力を高めていきました。
「エレミヤの哀歌」は紀元前の悲劇を嘆いたものですが、作曲当時のアルゼンチンに重ね合わせることができるように、現代にも通じる普遍性があるのではないでしょうか。
団員一人一人がこの曲に真剣に向き合い、信念をもって祈りを捧げます。

今年は出演順1番ということで、全国大会・大学職場一般部門の幕開けを私たちが務めます。
札幌コンサートホールKitara、朝一番の澄んだ空気に文大サウンドを響かせます!
どうぞお聴きください!

 

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関東支部大会での写真だそうです。



楽曲の背景に迫る素晴らしいメッセージをありがとうございました。
課題曲、16世紀の作曲家ウィリアム・バードと20世紀の作曲家アルベルト・ヒナステラという時代も地域も全く違う、しかし宗教曲としては共通する選曲。
さまざまな祈りの様相を、音楽性が高い都留文さんの演奏でどのように聴かせていただけるか、大変楽しみです。

都留文さんは昨年の東京での全国大会は2番目の出場だったんですが、それでも朝のハンデをまったく感じさせない演奏でした。
今年も「文大サウンド」で、この札幌の全国大会のはじまりを素敵なものにしていただけると確信しています。
みなさん、遅刻は厳禁ですよ!

 

 

 




続いては大学ユース部門、唯一の学生指揮者さんの団体です。

 

 

 



2.愛媛県・四国支部代表

愛媛大学合唱団

(混声49名・2年連続出場・第30回大会からでは29回の出場)
 


昨年は女性の学生指揮者さんが誠実に音楽へ取り組み、課題曲のラッスス、リトアニアの作曲家ミシュキニスの「Gloria」では緊張感を保ち、音楽のポイントや各部の音量などを良くまとめられていました。
さて、今年の選曲は?

学生指揮者の西川さんよりメッセージをいただきました。

 


愛媛大学合唱団です。
昨年に引き続き掲載させて頂き、ありがとうございます!

間宮芳生先生の課題曲「まいまい」は、曲の構成自体こそルネサンスポリフォニーに則っていますが、その本質にあるのは日本人の「和の魂」が溢れ出る力強い曲です。
非常に難しい曲だと譜面を眺める度に思いますが(汗)、是非この日本人の心根からの音を届けたいと思い、選曲しました。

自由曲の千原英喜先生が作曲された、混声合唱とピアノのための組曲「わたくしという現象は」より「2.新しい風のように、爽やかな星雲のように」は、宮沢賢治から未来ある若者達へ向けて書かれた熱いノートがテキストになっています。
私が初めてこの曲を聞いた瞬間「大学生である我々がこの曲を歌わなくてどうする!?」と思い、その時から「少しでも多くの人にこの曲を聞いてほしい」と願い、選曲しました。
我々以外、絶対この曲を選択しないだろうと考えていたので(実際どこも選曲しませんでした、笑)、このユニークな曲を楽しんで頂ければと思います。


おお、今年は昨年と違い、課題曲・自由曲ともに邦人作曲家の作品で揃えられたんですね。
「新しい風のように、爽やかな星雲のように」は書かれているように、はじまりから男性の長い語りがあり、ポップスの要素も感じられるユニークな曲です。
しかし、その中でも宮沢賢治の熱さが伝わってきます。
「大学生である我々がこの曲を歌わなくてどうする!?」
「少しでも多くの人にこの曲を聞いてほしい」
そんな、西川さんの想い、わかる気がします!

続いて、今年は災害が多く大変な年でしたが…。

 


毎年学生指揮者でコンクールに挑んでおり、私でちょうど30代目になります。
練習も運営も全て学生で行っているので未熟な部分や苦労も多々ありますが、その中で学生同士和気あいあいと過ごせるのが団の魅力なのかもしれません。

特に今年は、7月に発生した西日本大水害の影響で県大会が無くなってしまいました(!)。
出演団体が少なかったので支部大会には推薦されたのですが、大会が1つ無くなったのは不安でした。
県大会から支部大会まで1ヶ月しかありませんでしたが、その間にピアニストの方が出演される演奏会に出させて頂いたり、同じく県大会に出場できなかった他の団体と共に試演会を開いて意見交換をするなど、いろいろな機会を設けました。
そのお陰か、全国大会に出場することができました。

また、2年前と3年前に全国大会に出場された高知大学合唱団さんは、昨年の全国大会直前に我々の練習の見学にいらっしゃいました。
今年も見学にいらっしゃる予定です(汗)。
高知大学に限らず四国の大学合唱団は全て学生のみで運営されており、同じ学生主体の団体だからこそ高め合っていけたのだと思います。

 

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四国支部大会での写真だそうです。



なんと! 西日本大水害(平成30年7月豪雨)では私の住んでいる倉敷でも家屋の水没など、大変な被害をこうむりましたが、愛媛では県大会まで無くなってしまったんですね。
それでも負けずに試演会などさまざまな企画に取り組み、こうして全国の舞台に立たれることに大学生らしい若さと勢いを感じられます。
2018年12月22日(土)18時から松山市総合コミュニティセンター キャメリアホールにて第64回定期演奏会も行われるとか。

学生指揮者の団体は、プロ指揮者の団体と比べると非効率で、演奏の質も少し劣ることがあるかもしれません。
けれどその分、学生だけの、等身大でまっすぐな想いを感じられます。

愛媛大のみなさんは昨年の全国大会では、演奏後も残って一般の部の演奏を全部聴かれたとか。
賢治のメッセージの一節「むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ」。
その言葉のままに愛媛大のみなさん、新たな時代をステージで作って下さい!


(明日に続きます)