観客賞スポットライト 同声合唱部門 その1

 

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札幌Kitaraホール。




2日目、11月25日 日曜日



一昨日までは室内合唱部門への出場団体をご紹介していたこの企画。
午前10時から同声合唱部門の始まりです。

 


年末の某番組でも何が紅で白なのか?
…とジェンダーフリーのこの時代にあって、なかなか難しいものがありますが。
この同声合唱部門ではとにかく「女声」と「男声」の違いが非常に面白い。
今回「女声合唱団」には男性の団員さんがいらっしゃる団体もあります。
「男声」に在籍している女性の方はいらっしゃるのかな?(…ややこしい)

他にこの同声部門の特徴をあげると「年代の幅が大きい」ことでしょうか。
同じ男声・女声でも、年代が違うとこんなに違って聞こえるものなのか!
驚くと同時に若い年代の純粋さ、または人生経験がにじみ出た演奏など、それぞれの年代の良さを発見することになるかも。

特に今大会では女声7団体が出場中、なんと6団体が課題曲にF3「麦藁帽子」を選んでいる「麦藁帽子大感謝祭」!
「麦藁帽子」をかぶる本人か、あるいは妹さんや娘さん、お孫さん(?!)を見ているのか…そんなことを考えながら聴き比べるのも楽しいと思います。

 

 

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それでは同声合唱部門へ出場の団体をご紹介しましょう。
10:08から最初の出場団体は…東北からこちらの女声合唱団です!





1.青森県・東北支部代表

うとう女声合唱団

https://www.facebook.com/%E3%81%86%E3%81%A8%E3%81%86%E5%A5%B3%E5%A3%B0%E5%90%88%E5%94%B1%E5%9B%A3-104101900082857/

(女声29名・2年ぶりの出場・第66回大会から5回目の出場)



「うとう」とは漢字で「善知鳥」と書くそうです。
青森市はその昔、「善知鳥村(うとうむら)」と呼ばれていて、うとう女声合唱団はその青森市の古称と「歌う」の意味をかけているとのこと。

2年前の鳥取全国大会はエストニアの作曲家Arvo Pärtによる「Zwei Beter(祈る二人)」という大変に渋い作品を、それでも構成力豊かに聴かせていただき。
これまでにも自由曲にはブラームス、ヒンデミットやレーガー、メンデルスゾーンという海外の名曲を選択されてきました。


今年のうとう女声合唱団さんの課題曲
F2  Der 23. Psalm (Moses Mendelssohn ドイツ語訳/Franz Schubert 曲)
44年前の課題曲にも選ばれたシューベルトの名曲。
前述のように、女声で麦藁帽子以外を選ばれたのは、このうとう女声さんだけ!

自由曲はPaul Hindemith「Dolorum solacium」。
ドイツの現代作曲家ヒンデミットの作品。
カノン様式でヒンデミットにしては聴きやすい作品です。
続いて
Gustav Mahler作曲、Hermann Lauer 編曲
「Lieder und Gesänge aus der Jugendzeit(若き日の歌)」より
「Starke Einbildungskraft(たくましい想像力)」
「Scheiden und Meiden(別離)」

へぇー! マーラーの歌曲集「若き日の歌」の女性編曲版とは!
女性が結婚の約束を反故にされたのを責めるユーモラスな雰囲気の「たくましい想像力」と軽やかなリズムに乗せて力強く歌われる「別離」。
間にヒンデミットを挟み、シューベルトにマーラーの大変有名な作品を演奏されるのも興味深いです。

うとう女声合唱団さん、Facebookによると今年の6月に第32回となる定期演奏会を開催されたのですが。
プログラムでは今年の女声の課題曲全4曲を演奏されているほかに、ジュニア合唱団ステージ、さらに最終ステージでは男声を加え、混声合唱まで演奏されているのですね。
女声合唱団の枠を越えた活動とこだわりのある選曲に敬意を表し、うとう女声合唱団さんの入場を拍手で迎えたいと思います!

 

 




続いては「古豪」と呼んでもおかしくない、私が若い時から憧れた名門男声合唱団!

 

 

 

 

 



2.愛知県・中部支部代表

クール・ジョワイエ

(男声40名・3年ぶりの出場・第33回大会より13回目の出場)



3年前の長崎全国大会の座談会では


ぼくがあの年代になって西村朗先生の
「永訣の朝」にチャレンジするかと考えると
凄いなと思って。

あの年代の声だからこそ良かったよね。

一同(うんうん)

大学生とは全然違う演奏の味わい。

わかる!
積み重ねた経験の厚み!

http://bungo618.hatenablog.com/entry/2016/01/12/202907


このように渋い声で語感や音楽のポイントをしっかり表現されていたジョワイエさん。
ジョワイエ音楽委員長の松本さんからメッセージをいただきました。

 


【なぜジョワイエはコンクールに出るのか?】
クール・ジョワイエは1971年に誕生、今年で創立47年目になりました。
1980年代後半に全日本合唱コンクールで4年連続金賞を受賞するなど実績を残し、古参団員からは「コンクールよりも演奏会を」という意見もあります。
しかし新しい血(要は新入団員です)を入れるための改革がジョワイエには必要でした。
2012年に「再生プロジェクト」として5年計画で全国大会出場を目指し挑戦を開始しました。
初年度は無残なもの、県大会で銀賞からの再スタートでした。
そして当初の計画より1年前倒し、挑戦4年目の2015年に念願の全国大会出場を18年ぶりに果たしました。
全国の結果は銀賞でした。
ただこの銀賞が新人・古参団員双方に火をつけました。
より上の色を目指して再チャレンジが始まったのでした。

【北海道に行くぞ!】
県大会から中部大会までの道のりは10月に本番のあった「マーラー千人の交響曲」との並行練習でとてもしんどいものでした。
(ただこれがジョワイエの体幹を鍛えたという説もあります。)
中部大会は地元愛知県開催。
地の利もあり、県そのままの勢いで全国大会出場を勝ち取りました。
一説には「北海道に行くぞ!」という欲望が名演につながったという話もあります(笑)。

 


おお、私も若い頃にジョワイエさんが全国大会で演奏される武満徹作品などを聴き、感嘆したものでした。
コンクールを引退(「卒業」と書くとまだ参加し続けている団体はずっと留年中なのか?!という疑問が…)された団体が戻られるのは珍しいと思うのですが、復活を見事に成し遂げられた経緯は大変参考になります。

ジョワイエさんの今年の課題曲はM3 秋の夜の会話(「青いメッセージ」から) (草野心平 詩/髙嶋みどり 曲)
さて、自由曲は若林千春先生「伊東静雄の詩による交声曲『廣野の歌』~男声合唱のピアノのために~より第一部《わがひとに與ふる哀歌》」より「2.夜の葦」「5.わがひとに與ふる哀歌」。
ジョワイエさんの委嘱作品、しかも「渾身のオリジナル作品」だそうですが?

 


【曲を待ちつつ、全国へ】
今年(2018年)は演奏会を開催しない谷間の年ですが、愛知県の男声合唱団が集うフェスティバルへの出演、名古屋フィルハーモニー主催の「マーラー千人の交響曲」出演など必ずしもコンクールに集中できる環境ではありませんでした。
それを救ったのが今年自由曲に選択した、若林千春先生へ委嘱した新作「曠野の歌」です。
当初別の曲を自由曲として練習を開始しましたが、5月中旬に1曲目「わがひとに與ふる哀歌」が到着し、音取りを開始するとこれがすっと身に入る。
スタッフは満場一致で自由曲の差し替えを決定しました。
若林先生の新作は今のジョワイエにぴったりマッチし、わずか2か月で課題曲+自由曲2曲を仕上げました。
「曠野の歌」は5曲の楽譜が届き、最終的には2部構成、全12曲の大作になる予定です。
全曲の披露は来年秋の演奏会の予定です。
演奏を聴いて「いいね!」と思ったら来年秋はぜひ名古屋に足をお運びください。

 

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昨年10月の演奏会の写真だそうです。

 


松本さん、ありがとうございました。
再生プロジェクトとしてのコンクール参加、さらに委嘱作品と、歴史を重ねてもますます意気軒昂なジョワイエさん。
その姿にこちらも元気をいただくようです。
伊東静雄の詩はネットで読めるのですが、この名詩にどんな作曲をされたのか。
団員さんが惚れ込んだ若林先生の作品に期待が高まります!


(明日に続きます)