観客賞スポットライト 同声合唱部門 その3

 





今回は2団体をご紹介します。


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青蓮院門跡 Photo by sanographix

http://photo.sanographix.net/

 

 




昨年の観客賞同声部門1位。
さらに全部門で最も素晴らしかった「観客大賞」を受賞された男声合唱団です!

 

 

 

 

 

 



6.東京都・東京支部代表

合唱団お江戸コラリアーず

(男声87名・第62回大会から11年連続出場)




昨年の感想では

課題曲M4:信長貴富「春」、
すっばらしかった!!

あれは名演と呼べる演奏!

圧巻でしたね!
最初から引き込まれ、
最後までおえコラの空気に包まれてました。

自由曲:三善晃「縄文土偶」より
「ふるさと」も凄かったです。

おえコラの「縄文土偶」は
決して歌だけに寄せない、
ちゃんと三善先生の音楽へ
向かっている音がしました。

いわゆる「合唱」というイメージを越えた
三善晃という偉大な音楽家の本質を伝える
演奏だったと思います。

ひとつの「作品」として作り上げられた完成度の高い演奏でした。
この2曲で入場料をペイできるレベル。


…と大変好評でした。

今年のおえコラさんの課題曲はM3 まじめな顔つき(「クレーの絵本 第2集」から)(谷川俊太郎 詩/三善 晃 曲)
さて、自由曲は?

指揮者の山脇卓也先生からメッセージをいただいております。

 


皆さん、こんにちは。
合唱団お江戸コラリアーずです。
今回おえコラが演奏するのは、2016年の演奏会(信長貴富作品展 vol.2 ~錯綜する時代~)で初演した「若者たち ~昭和歌謡に見る4つの群像~」に収められているヨイトマケの唄です。
当初、この個展では新作を1つと新しい編曲ものを1つ含めたいという希望を信長先生にお願いしていたのですが、スケジュールの都合で新作だけに絞らせてほしい、という話になっていました。
ところがある時信長先生から電話があり、年末の紅白歌合戦で美輪明宏さんが歌ったヨイトマケの唄をぜひ男声合唱に編曲したい、今からプログラムに組み込むのは可能ですか、という嬉しいお話。
ぜひやりましょう、といって急遽プログラムに加えて初演させていただいた思い出の作品です。
歌謡曲をルーツにしながらも、素晴らしい編曲で合唱作品としての魅力を多く持っているこの作品をぜひコンクールで紹介したい、そういう思いで選曲いたしました。

おえコラとしては、1999年からコンクールに挑戦し始め、2009年で初めて全国大会に出場することが出来ました。
以来幸運にも毎年全国大会に参加させていただいています。
良い演奏ができた年もあれば、そうでもない時もありましたが、毎年大きな成長の機会を与えていただきました。
コンクールはやはり賞がありますので、結果を求めていないというとウソになります。
しかしそれ以上の活動を目指して特に選曲にはこだわっていました。
委嘱作品の紹介(2009年「ラグビイ」、2011年「Sämann ―種を蒔く人―」、2016年「Credo」)、あまり演奏されない作品の紹介(2010年「くちびるに歌を」、2014年「Freude soll in deinen Werken sein!」、2015年「起点」、2018年「縄文土偶」)、名曲への挑戦(2012年「バトンタッチの歌」)などです。
このような活動を評価していただいてか、委嘱作品はもちろんですが、「起点」や「縄文土偶」など未出版作品が出版されたり、「くちびるに歌を」が皆さんに愛唱されるようになったり、という嬉しいこともあり少し男声合唱の普及に貢献できたのではないかと感じています。

 



この「ヨイトマケの唄」は、山脇先生が記されているように美輪明宏さんが作られた歌です。
ただ、歌詞中に「土方」という差別用語とされた言葉があり、放送禁止歌として民放のテレビでは長らく歌うことができなかった作品。
(ちなみに「ヨイトマケ」とは建築で地固めのときに重い槌を数人で上げ下げする労働、その掛け声のこと)

 

2012年の紅白歌合戦で美輪さんが歌った「ヨイトマケの唄」は大変な評判になり、その後、2015年の紅白でも歌われています。
信長先生が見られた紅白はこの年の演奏なのでしょう。

そして、おえコラさんは今年度でコンクールを引退されるという話が上がってきていますが、その真偽は?

 


一部SNS等で話題に挙がっていますが、おえコラとしてはいったんコンクールを離れるということを考えています。
2009年の札幌大会から参加させていただいて一回り、新たな活動を考える時期かなと思ったのが理由です。
このおえコラにとって区切りの大会、何が残せるかと考えたとき、たとえ歌謡曲であっても編曲さえ良ければコンクールという場でも十分通用する、というのは挑戦するに値するなと思ったのです。
また個人的なことではありますが僕自身が父を早くに亡くし母が(力仕事ではありませんが)育ててくれたこと、開催が実家に近い京都だったことが、ぜひ今年やりたいと思った理由です。
演出をしままなぶさんにお願いし、全力でヨイトマケを演奏いたします。
このような機会をいただけたコンクールに大きな感謝を込めて演奏させていただきます。
ぜひお聞きください。

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Photo by A.Yamaguchi



山脇先生、ありがとうございました。
おえコラさんのこの「ヨイトマケの唄」は東京都合唱コンクール・中学高校の部でのゲスト出演でも演奏され、とても好評だったと聞きました。
その時の模様をよく伝えて下さる吹奏楽の方の感想がこちらです。
http://togashitecca.blog.fc2.com/blog-entry-121.html?sp


コンクール最後の年に
「たとえ歌謡曲であっても編曲さえ良ければコンクールという場でも十分通用する」という挑戦。
今までおえコラさんの数々の名演を聴いてきた自分や多くのファンにとっては寂しいことですが、その最後の挑戦を心して受け止めようと思います。








25分の休憩後、名門合唱部のOG合唱団が2年ぶりの登場です!













7.福島県・東北支部代表

合唱団L'alba

(女声24名・2年ぶり2回目の出場)



安積黎明高校のOG合唱団、L'albaさん。
「L'alba」はイタリア語で「黎明」の意味を持つということ。


2年前の感想では

団名の通り、
安積「黎明」を彷彿とさせるサウンドと演奏!

課題曲の「朱の小箱」、
さすが鈴木輝昭先生の作品を
歌い込んでいるだけはあるな、と。

とても自然体で輝昭作品を演奏していて。

そう! 色々やっているんだけど
それが自然に聴こえるんだよね。
凄いと思いました。

統一された発声、トーンをずっと保ち。
語感にこだわった柔らかい発語に魅力を感じました。

…という感想がありました。


今回は何を選曲されたのでしょう。
団員さんからメッセージをいただきました。

 


皆さまこんにちは。合唱団L'albaです。

私たち合唱団L'albaは安積黎明高校のOGが中心となり発足して4年目を迎えました。
高校生の時には3年という期限付きでしたが、卒業してからもこうして歌い続けられることに喜びを感じています。

この度は一昨年の東京芸術劇場以来2度目の全国大会のステージに立てることになり、心より嬉しく思っております。
そしてまた文吾さんにお声かけいただき、こうして記事を書いていただけることも本当に感謝です。

今回演奏いたします曲は、
課題曲「飛翔-白鷺」、
自由曲  鈴木輝昭作曲「CLANN LIR」より
「ii)D’eirigh na heiteoga geala」です。

テキストは古代ケルトの三大悲話の一つ、「Clann Lir(リルの子供たち)」(白鳥の湖の祖型といわれている)が元になっています。
継母の呪いによって白鳥に姿を変えられた4人の子供たちが、千年の間苦難の日々を送ります。
やがて呪いが解ける千年後に鳴るといわれた鐘の音によって白鳥たちが喜びの飛翔をします。
しかし故郷へ戻るもその有り様は…

鐘の音、風の息吹、呪文と魔法の言葉、白鳥の声、羽ばたき、ケルト音楽で用いられる楽器の調子を表現するマウスミュージック
…と、とにかく要素がたくさんあります。
そしてさらに苦戦を強いられるのは、現存しない言語です。
アイルランドのいわゆる古典、しかしながら現在では誰も分からない言語を、想像上の言語を私たち日本人が歌うことです。

とても難しい曲と向き合っていく中で、かつて合唱団L'alba創団当時に夢みていた、「女声合唱の世界」がこの作品を通して、ほんの少しみえてきた気がします(2年前の文吾さんの記事を参照ください)。 http://bungo618.hatenablog.com/entry/2017/11/15/084530

ちなみにですが、選曲時点で課題曲と自由曲のつながりは全く意識していませんでした。
超偶然白い鳥の歌つながりでした笑
というのも創団当時に私たちの恩師であり、指揮者の星英一先生から提示されていた曲でしたから。
4年の月日を経て演奏できる運びとなりました。

11/24、京都で皆さまの心に少しでも届くものがあれば幸いです。
課題曲、自由曲と2種類の鳥シリーズをお楽しみください。

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福島県大会のものということ。



ありがとうございました。
なんと2番目に出場のmonossoさんと同じく「白鷺 白鳥」の組み合わせとは!

「Clann Lir(クラーン リル)」を演奏するにあたって現存しない言語を歌う難しさを記されていましたが、鈴木輝昭先生はこのテキストを探し出すまでになんと2年の歳月を費やされたそう。
「なぜよく意味のわからない言葉を選ぶのか?」という問いに鈴木先生は「日本語の引力から離れたところでさまざまな音の形質を探りたい、という欲求があるんです。(中略)古代ギリシャ語、ラテン語、ケルトの言葉、どれも現在では死語になっているもので、しかもその後の世界の言葉の起源になっている。起源までさかのぼれば、それはより普遍的な素材として純音楽的に扱えるのではないか」…と答えられています。(ハーモニー誌 No.112 新・日本の作曲家シリーズ5より)

今回演奏される「D’eirigh na heiteoga geala」には「軽やかに嬉しそうに」という訳もあるようです。
ちなみに読みは「ジャイリー ナ ヘチョグァ ギャラ」。
別の団体の演奏を聴いた印象では非常に難曲ですが、鈴木輝昭先生の美意識で貫かれた作品です。

存在しない言語、さまざまな音楽要素から現れる「白鳥たちの喜びの飛翔」。

星先生のお言葉
「黎明の、あなたたちの声で
 もう一度女声合唱の世界がみたい。
 あなたたちにしかできない女声合唱の素晴らしさを
 世に知らせたいんだ。
 これがわたしの描いている夢なんだ。
 力を貸してくれないか。」

高校時代からずっと培われた「あなたたちにしかできない女声合唱の素晴らしさ」がステージ上から飛び立つのを見届けたいと思います。


(明日に続きます)