観客賞スポットライト 混声合唱部門 その5

 




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龍吟庵
Photo by sanographix http://photo.sanographix.net/

 



いよいよ来週に迫った全国大会。
京都府合唱連盟さんの「東山」駅から「ロームシアター京都」までの徒歩ルート動画がとても良いのでご紹介します。

 



ちなみに「京都駅からバスで移動」は大混雑になるのでやめたほうがいい、とのこと。
30年ほど前に京都で学生生活を送られ、今年の10月にも京都を訪れたKen5さんによると


今回は早朝に動きましたが、京都は紅葉の季節になり、京都駅はじめ主要な観光地は「物凄い」混雑です。
かつて行ったことがあるとか、住んでいた私も驚愕するほど。
以前の京都とは違う、というのは現・京都人の方達も認めていました。


…だそうです。
観光に行かれる予定の方はご注意を!

 

 


それでは今回も2団体をご紹介します。
東北からまさに誠実な印象というしかない団体の登場です。


 

 




10.山形県・東北支部代表

鶴岡土曜会混声合唱団
https://twitter.com/tsuruokadoyokai

(56名・4年連続出場・第50回大会以来13回目の出場)




合唱団の個性というよりは、「演奏する曲の個性」を大事にする合唱団。
強い印象は無いかもしれませんが、その演奏の誠実さ、真摯さが染みてくるような団体です。

昨年の座談会では


超良かった! 大好きだった!

本当に正統派で
「合唱とはこういうものだ」と!

「…俺は実直に畑を耕すんだ」。
そういうあったかい音がすると、
本当にほっとするんですよ。

ありきたりだけど「いぶし銀」のような、ね。

自由曲:三善晃「あやつり人形劇場」
奇をてらって何かやるんじゃなく
ナチュラルに演奏してるんだけど伝わってくる。
ある意味、演奏の理想型ですね。

良い意味で
「合唱団の存在感が薄い」んですよ。
キャラクター性がそんなに無い。
「あ〜、この演奏、(団体名)だなぁ」
とかじゃなくて、演奏する曲、
音楽そのものが立ち上がってくる。

市民合唱団的に歴史を重ねてきたんだろうなあ。
そんな雰囲気を感じさせる
「居てくれてありがとう」という
貴重な団体ですね。

続いての三善晃:風見鳥も
緊張感をもって演奏され、
各パートの音色がクリアでバランスも良く、
楽曲の個性が前に出てくる良演奏でした。


…という感想がありました。


鶴岡土曜会さん、今回の選曲は
課題曲:G1 Ave Maria  (Tomás Luis de Victoria  曲)
自由曲:谷川俊太郎詩、三善晃作曲
混声合唱組曲「宇宙への手紙」より「渇き」
今年も自由曲に三善先生の作品ですね。
代表の阿部さんからメッセージをいただきました。

 


今年の選曲パターンも、ここ数年同様に“課題曲はG1自由曲は三善晃作品”となりました。
自由曲の「渇き」は、私たちと同じ東北で活動する青森県の五所川原合唱団の委嘱により作曲され、1994年に初演されました。
鶴岡土曜会としては今回が初めての“挑戦”となります。

“挑戦”はいつも“音取り”に始まりますが、やがて“言葉”に突き当たります。
三善先生の音符に谷川俊太郎氏の詩をうまく乗せることができるかどうか、どのような表現を目指すのか、そもそも私たちの発する音が“日本語”として自然に聞こえるのかどうか、様々な心配事が湧いてきます。

「水に渇く」という言葉は、口語としてはやや不自然な感じもしますが、それも原子爆弾の熱風にさらされたことによる強烈な欲求であることを考えれば、「渇く」に対する目的語としての「水」を一層強く意識するための“詩的な表現”なのかもしれません。
目的語は「思想」「愛」「神」へと移り変わり、そして「何」に…。
どのように歌うのが良いのか、私たちにとってはかなりの難題です。
あと数日ですが「何か」をつかむことができるよう探り続けてみたいと思います。



阿部さん、ありがとうございました。
「宇宙への手紙」の1曲目である「渇き」の詩は、確かに阿部さんが記されるように「口語としてはやや不自然な感じ」があります。

水に渇いているだけではないのです 思想に渇いているのです

「思想」「愛」「神」・・・求めていたはずなのにすぐ「渇いているだけではない」との否定は、まるで逃げ水のよう。
その中に原民喜の「水ヲ下サイ」が挿入されるのが答えのようでもあり。

命を失うような時、本当に求めるものは、突き詰めると何なのか?
読んでいていろいろな解釈が湧いてくる詩だと思います。
最後に「どかんとばくはつ / ちきゅうがきえた」とある2曲目の「あはは」、3曲目に「ふるさとの星」を続けるのも、三善先生の切実な命への問いのように感じられて。

「どのように歌うのが良いのか、私たちにとってはかなりの難題です。」とのことですが。
それでも、作品に自ら語らせるような土曜会さんの演奏がきっと「何か」を掴み、私たちに手渡して下さるような、そんな演奏をされることを信じています。

 

 


さて、私たち鶴岡土曜会では、全国大会から6日後の11月30日(土)に第68回定期演奏会を開催いたします。
今年は11月9日(土)10日(日)に「コロ・フェスタ2019 in 鶴岡」にも参加しましたため、例年以上に恐ろしい日程となってしまいました。
私たちなりの精一杯の演奏をお届けいたしますので、もしもご興味とお時間がございましたら、ぜひおいでください。


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毎年タイトなスケジュール、全国大会と近い日程で定期演奏会を開催される土曜会さんですが、今年はさらにコロ・フェスタも!
コロ・フェスタでの土曜会さんの演奏は大変素晴らしかったと聞きます。
その勢いで京都でのステージ、定期演奏会も充実したものになりますよう!







続いて幅広く、力強い表現力の団体が3年ぶりに!









11.三重県・中部支部代表

Vocal Enesemble《EST》
(44名・3年ぶりの出場・第54大会以来13回目の出場)


3年前の出場時にも「え、ESTさん3年ぶりなの?!」と驚いたのですが、今年も驚いてしまいました。
なぜなら、ESTさんはかなりの実力団体。
前2回の出場時も金賞を受賞されたことから、その実力は本物です。
中部支部の層がいかに厚いかということなのでしょう。


3年前の座談会では

 


最初の1音で「ESTの音だ!」

「この音を待っていた!」という感じですよね(笑)。

「Choir Concerto(合唱協奏曲)」より第2楽章
ダイナミクスの幅の広さ!
あれがESTだな!って。

最初から最後までずっと
「私たちはESTです!」とアピールしている!

なんかEST独自の世界を創っていると言うか、
オーラをまとっている感じ。

まさにそんな感じでしたね。
ESTのオーラ、世界に飲み込まれました。

…という感想がありました。

ESTさんの演奏曲は
課題曲G2 Ensam i dunkla skogarnas famn(Emil von Qvanten 詩/Jean Sibelius 曲)
自由曲:André Jolivet作曲「Epithalame(祝婚歌)」より「I」

団員のNodaさんからメッセージをいただきました。

 


お久しぶりです。
三重県津市で活動するヴォーカルアンサンブル《EST》です。
こうして全国の合唱ファンの皆さんの前で演奏できることをたいへんうれしく思っています。

自由曲はフランスの現代作曲家アンドレ・ジョリヴェの「祝婚歌」を選びました。
私共が大きなコンクールで入賞したのは1996年の東京ヴォーカルアンサンブルコンテストが初めてですが、その時演奏したのはドヴュッシーの「三つのシャンソン」でした。
その後サン=サーンスやフォーレ、デュルフレ、プーランクらの作品をいくつも取り上げてきましたが、近年注目しているのは20世紀フランスの音楽グループ「ジュヌ・フランス(若きフランス)」の作曲家達です。
2017年にはこのグループに属するオリビエ・メシアンの「五つのルシャン」に取り組みましたが、その繋がりで今年はアンドレ・ジョリヴェの「祝婚歌」を自由曲として取り上げることにしました。
この曲はフランスの放送局からの委嘱で1950年に作曲された作品で、自らの結婚20周年を記念して妻に贈ったものです。
詩はジョリベ自身が書き、作曲者自身が「12パートの声楽オーケストラのために」と書いたように、多彩なリズムや声を打楽器的に使用するなど、声の機能を極限まで突き詰めた作品となっています。

さて音楽監督向井からの提案でこの曲に取り組み始めた当初は、正直この曲が演奏できるようになるとはとても思えませんでした。
全体を通して12部に分かれている上、楽譜が1曲目だけで95ページも有り、めくるだけでも大変です。
しかも不協和音連発で、トリッキーなリズムも多く、途中からテンポがものすごく速いのです。
楽譜の所々に速度指定があり、その通り演奏すると8分を切るのですが、指定テンポ通りではとても演奏できません。
当初は9~10分かかっており、とても8分30秒に収まる気がしませんでした。
しかし練習を進めていくと不協和音の間に現れる協和音の美しさ、声を打楽器のように用いる心地良さ、そしてそこここに見え隠れする官能的なメロディーとハーモニーなど、次第にこの曲の面白さがわかり、演奏テンポも上がってきました。
「頑張ればどんな難曲も歌えるようになるものだ」というのが今の団員の正直な感想です。
でも全国大会ではもう一歩突き抜けて「何か難しそうな曲」ではなく、聞いて頂く方に「面白くて美しい曲」と思って頂けるような演奏をしたいと思っています。
祝福の鐘が鳴り響き、愛する人に「愛の扉を開こう」「幸せな一日になさい」と呼びかけるめくるめく愛の世界をお楽しみ下さい。

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昨年のコンサートの写真ということ。



Nodaさんありがとうございました。
さらに指揮者の向井正雄先生から

 


今回のESTの紹介に、「祝婚歌」の紹介文を載せて頂けないでしょうか?
私のFBに投稿したのですが、全国大会でお聴き頂ける皆様に、ぜひ、少しでも内容を分かって楽しんで頂きたいからです。
ご迷惑でなければ、よろしくお願いします。

 


もちろんですとも! …ということでご紹介いたします。
楽曲の解説に加え、歌詞も掲載されている優れた紹介文、ぜひお読みください。

https://www.facebook.com/masao.mukai/posts/2425105600919988?notif_id=1573206604232498¬if_t=feedback_reaction_generic

向井先生の紹介文には

 


ジョリベご夫妻は、新婚旅行でアフリカに行かれ、そこの原始的な宗教に大変感激したようでして、その教えや儀式の興奮がこの作品に込められています。

この作品には、「12人の声楽オーケストラのために」という副題がついています。
合唱団を12のパートに分け、ファンファーレのようなところがあったり、歌詞が、「ドム グロム グラム」といった擬音が使われているなど、声をオーケストラの楽器のように使っています。


このように非常に興味をそそられる言葉が並んでいます。
他にも「官能的」「めくるめく愛の世界」という言葉が並ぶ、この「祝婚歌」という作品。
Nodaさんが書かれるように非常に難しい曲ですが、7月の東京国際合唱コンクールの時点で、生き生きとスケールが大きく、ESTワールド全開!という演奏でした。
表現力が優れたESTさんに、まさにハマった選曲だと思います。

こんな合唱作品もあるんだ…という驚き、そしてその世界を見事に表現し尽すはずのESTさんの演奏に期待です!




(明日に続きます)