「ぼくには数字が風景に見える」を読みました

ぼくには数字が風景に見える

ぼくには数字が風景に見える


 青い日に生まれて
 ぼくが生まれたのは一九七九年の一月三十一日、水曜日。水曜日だとわかるのは、ぼくの頭のなかではその日が青い色をしているからだ。水曜日は、数字の9や諍いの声と同じようにいつも青い色をしている。ぼくは自分の誕生日が気に入っている。誕生日に含まれている数字を思い浮かべると、浜辺の小石そっくりの滑らかで丸い形があらわれる。滑らかで丸いのは、その数字が素数だから。31,19,197,97,79,1979はすべて、1とその数字でしか割ることができない。9973までの素数はひとつ残らず、丸い小石のような感触があるので、素数だとすぐにわかる。ぼくの頭のなかではそうなっている。


 最初のこの段落でもうノックアウト。
 ほぼ日刊イトイ新聞で紹介されていたので読んだのだけど、
アスペルガー症候群であり、
サヴァン症候群である、イギリス在住のダニエル・タメット氏の自伝。


 ダニエルは円周率を小数点以下22000桁以上を暗記し、
十ヶ国語を自在に操る天才。
 そして冒頭にも書いたように、
数字と形、色が感覚として繋がっている「共感覚」の持ち主。 

 11は人なつこく、5は騒々しい、4は内気で静かだ。

 こんな風に数それぞれに、形や色、質感、動きなどが伴っている。


 例えば53×131の計算だとダニエルはこんな絵が思い浮かぶ。


 左が53、右が131の形。
 その間にある空間が答えの6943。
 ダニエルにとって計算する必要は無く、
数字を「見る」だけでいい。


 数字を眺めるだけで、計算問題の答えが出てくるとは
なんともうらやましく思えるが、
数字に固有の形や色が付いてまわるため、
例えば青と結びつく9の数が、
「99ペニー」などと赤や緑の値札で書かれていると
非常に不安に駆られるそうで良し悪しだなあ。


 この本の魅力のひとつは、
こういった驚くべき共感覚の世界を
その持ち主が自ら伝えてくれる、ということだろう。



 魅力のもうひとつは、アスペルガー症候群という
コミュニケーションなどにハンデを持つ人間の
自立を描いていることだろう。
 リトアニアへボランティアとして赴くところから
自己の確立、そして社会との関係を学びとって行くところは
本人があっさりと書いているからこそ、感動が深まる。


 こういう高機能自閉症のような
(文中では「自閉症スペクトラム」と表記)
人とのコミュニケーションが苦手な人物にとって、
インターネットは表情などを読み取らなくすむ、などの点で
非常に福音だったのだなと思う。



 他者と違う、ということが
そのまま劣っているということに繋げない事。
 そのためには、アスペルガー症候群をはじめ、
それぞれの違いを個性として学ぼうとすること。


 実行するには難しいがそんな教訓を抱いた。


 そして「自閉症スペクトラム」という言葉も
なかなか興味深かった。
 自閉症アスペルガー症候群も、
 

1)人の心の動きがよくわからないので、
   対人関係が上手にとれない


2)ひとつのことに強くこだわり、
   新しいことがらや環境をなかなか受け入れられない

 
 そういった2つの特徴は共通しているので、
あとは程度の差なのだから、
ひとつの連続体(スペクトラム)として捉える。


 つまり多少オタクっぽい人から、アスペルガー症候群
高機能自閉症、知的障害をともなう重度の自閉症まで、
それぞれ境目を置かず、ひとつの繋がりと見る考え方。



 そういう風に見ると、「ほぼ日」の感想であったように 

「(著者のダニエル・タメットは)自分とは違うけど、
 どこか似ている」という感想をよく聞きます。

 という言葉も納得がいくのでは無いだろうか。


 驚嘆すべき、自分とは違う世界を見せながらも、
自分以外の世界と上手くやっていこうと努力する事への共感。
 読んだ私ももちろん驚嘆と共感!・・・です。