尾道旅行記 その3

 その他にいくつかの店にアタリを付け、
自転車を返却すると午後6時。
 飲み始めにはちょうど良い時間じゃないか!




 訪れた店は




 高原誠吉食堂


 食堂、と書いてあるけどカジュアルな和食の店。
 1階には6席ほどのカウンター、4人がけのテーブル席。
 2階にも席があるようだ。


 30代前半の若い柔和な顔つきの店主、もう少し若い印象の助手、
お手伝いの女の子2人の計4人が狭い厨房で
熱心に働いている。
 (あんまり関係ないけど、この4人全員メガネ着用。
  ・・・自分もメガネだけどさ。ちょっと面白かった)


 カウンターに座り、生ビールを頼み。
 目の前のホワイトボードに料理が書かれている。
 メニューも見ると。お、コースが3800円からあるのか。
 「これ、一人でも頼めますか?」「できますよ」とにっこり。
 ではそれをお願いします!


 
 頼んですぐ、とととーん、とリズム良く出てくる突き出し。
 肴が無いと飲めない私にはありがたい。




 胡麻豆腐。口あたりなめらか。




 鴨ロース。お、肉質なかなかいいんじゃない?




 蛸にイクラをかけたもの。ぷちぷちが楽しい。





 刺身(鯛)。なかなか。





 小さく成型した手羽先と肉春巻きの揚げ物。




 見た目は春巻きだけど中はエビの熱いホワイトソース。
 かりっ、とろっ。




 なめことほうれんそうのごま合え。


 料理名からは全く予想外だったが
この料理がこの日出た中で一番素晴らしかった。
 ごまがとろみのついたソースのように
絶妙になめことほうれんそうに絡み素晴らしい食感と風味。うっとり。




 湯葉と水菜。上に乗っているのはゆず胡椒。




 出し巻き玉子。
「当店の名物料理」とするだけあって
注文を受けてから作る、アツアツで舌に全くさわらない、
ひたすらなめらかに出汁を巻き込んだ優れた一品。
 専用の玉子焼き器で、しかも高度な技術が無いとこんなの作れないよなあ。


 ここで店主から
 「この後はご飯とデザートになりますが」
 思わず


 「あ、あのっ、追加で
  なめことほうれんそうのごま合え』下さいっ!


 途端に左隣にいた常連のおじさんに大笑いされる。
 夫婦で来ていた近所に住むという壮年の方。
 さらに左隣の横浜から来たと言う
一人旅の若い女性の相手をずっとされていたのだが
 (…まあ、ふつうそうしますよね。ええ)
 私のこの注文から会話が始まることに。


 なめことほうれんそうも確かに良いけれど
 この店の「きんぴらごぼう」も凄いんだとか。
 「ごぼうの切り方が細かいのとね、水菜を加えて。
  あと一工夫してるんだよな、これが」


 小皿に乗った桃色のペースト状のものを寄こし「どうぞ」
 「あ、酸っぱいんだけど味わいがあって・・・いいですね!」と言うと
 「だろう〜? この店で出してくれるねり梅なんだけどね、
  これだけで何杯でも酒がいけちゃうね!」


 ・・・その割には料理をたくさん注文されていましたが(笑)。
 店を愛し、初めてのお客さんには良きガイドとなる。
 こういう常連さん、見習いたいものです。






 2回目のごま和え(単品400円)。これだけとろみがあります。
 ごまペーストを濾し、出汁で少し伸ばして醤油少し?



 赤だしとご飯。漬物もありました。




 デザートのワインゼリー。ふるふる。中はイチゴ。


 
 最後には香り高いほうじ茶を。
 …はー、堪能した。



 京料理を修業された店主は、底にそのエッセンスがあるようです。
 なによりテクスチャ(食感、歯触り)が練られているな、という印象。
 出汁巻き玉子のとろとろ、ワインゼリーのふるふる、
揚げ物の外側パリッ、そして中身の液状感やしっとりした印象の差。
 なにより「なめことほうれんそうのごま和え」は
同じものを作ろうとしたら、ほうれんそうの茹で具合による歯応え、
なめことの大きさを考えた切り揃え、など
単純な料理に見えて、細かな心遣いを必要とする料理です。


 日本酒も「燗で」と頼むと
八海山の純米、開運の本醸造など種類は少ないもののなかなか良いセンス。



 柔和な顔つきの店主ですが、店内はピリッとした緊張感があり
 (助手が用意した器を、わずかな傷があったのか「…違うものを!」
  と鋭く命じて換えさせる場面アリ)
そういう面では、だらっと酒を飲む分には向いて無いかもしれませんが
料理の好きな、特に女性には強くオススメできる店です。
 (この日は客層の半分以上が女性!)



 うーん、今度はきんぴらごぼうを試してみたいぞ!



 (つづきます)