コーラスガーデン IN SAGA レポートその5

・・・おい!いつまで待たせる気だ?!
というお怒りの言葉がどこからか・・・。
聞こえないフリをして続きます。




3月22日、コーラスガーデン3日目はいよいよ演奏会。
佐賀市民会館は午前9時半から開場、
10時から「招待合唱団演奏I 〜九州の響き〜」
と題された演奏会が始まります。
(ちなみに昨晩22時近くまで練習したというのに
 単独出演される合唱団団員さんたちは朝8時からリハーサル。
 頭が下がります。
 さらに当日の準備のために
 主催のMODOKIはリハーサルを行わない予定だったのですが
 「MODOKIにもリハーサルをしてもらおう!」として
 MUSICA FERVIDAの団員さんたちが
 事務仕事を肩代わりしたそうな。良い話です)






開場前からこれだけの人が並んで下さっています。







雨森先生自らプログラムを手渡し!




このコーラスガーデンの演奏会は
演奏前に山本さん司会で出演団体の紹介をするというのもユニークですが
さらにユニークなのは、出演団体は舞台袖に控えて入場、ではなく
客席で他の団体を聴いていて、
自分たちの番が来たらそのまま客席からステージへ上がって演奏し、
演奏が終わった後も客席に戻る、という形式なんです。


松下耕先生が主催する
「軽井沢合唱フェスティバル」から学ばれたのでしょうか。
もちろん演奏面から考えると舞台袖で待機し、
歌う準備をした方が良い、という意見もあるでしょう。
しかし、他の団体の演奏をほとんど聴かないで
「真の意味で力を合わせたイベント」というのは実現できるのか?
そんなことも考えてしまいました。


実際、客席から入場するこの演奏会。
歌い手としては普段より歌の準備が足りないこともあったようですが、
ホール全体に満ちる、その演奏を認める姿勢と温かな拍手。
さらに良い演奏だったら発奮して
「これ以上の演奏しちゃる!」と燃えるライバル心も
また、別の面から演奏に良い刺激を与えていたように思うのです。


日本全国でジョイントコンサートは多く行われていますが、
「客席で他の団体の演奏を聴くジョイントコンサート」
主催者のみなさん、一考してみてはいかがでしょうか?



さて「九州の響き」と題された演奏会。
最初の団体は
「女声合唱団ソレイユ(佐賀)」


コンクール以外の場でソレイユの演奏を聴くのは初めて。
黒上下のパンツルックで。
1曲目のHolst「SPRING(TWO EASTERN PICTURESより)」から
「声がいいな!」と驚きます。
や、もともと美声の団体なのは知っていましたが
午前10時からここまで仕上げてくれるとは。
楽しく軽快、チャーミングな曲で一気に雰囲気が高まります。

続いての木下牧子先生「あけぼの(「春二題」より)」
一転してかすみを連想させるような幻想的な音響空間を現出。


さらに圧巻はBOB CHILCOTTの
「A Little Jazz Mass」より
「Kyrie」「Gloria」「Agnus Dei」
の3曲。
ピアノにジャズピアニストの岩崎大輔氏を迎えただけあって
そのノリ、体の揺れから出るリズムなどなかなかのもの。
ジャズとかブルースの感覚って意外と若い人には
掴むのは難しいんじゃ?と思っていたのだけど、
この演奏は合唱としてのフレーズ内でのアクセントなど、
樋口先生のセンスの良さを思わせる演奏です。
(ジャズを聴いた事の無い若い人たちに
 ジャズコーラス
“それっぽく”演奏させるって凄い事だと思いますよ〜)


曲の間で思わず拍手したくなっちゃうと言うか、
ああ、午前10時なのに
「ターキーをロックで!」などと叫びたくなる演奏。


私好みとしては「Agnus Dei」だけはブルース的に
もっと気だるくしても良いかな、とも思ったけど
続いてのGershwin「I GOT RHYTHM」がこれまたアンコールのように
ハジけた演奏と演出で◎!
見事なソロもあり、さらにそれを目立たせ過ぎない演出がこれまたセンス。
(ということは全体の視点が良く考えられているということですね)


やー、ソレイユの「コンクール以外の一面」を
大変良い形で見せて下さって感謝です。
このステージで客席も一気に熱くなったような。




続いての
スプリッツァー(福岡)」は16人で出場の混声合唱団。
西村英将氏に委嘱した
チベット民謡と声明による3つの歌」より
「She de kyi(幸せの唄)」「II」
を演奏。


チベット民謡ということで?
女声が民族衣装っぽいものを着ているのがまず目を惹きます。
さらに太鼓、鉦などの演奏も入ったこの委嘱曲、
持続音の中に民謡が挟まれ独特の音響空間。
楽器と響く男声による声明の不思議さ。


福岡という都市は日本の地方都市の中でも
かなりハイセンスな街で、
独特の文化を持っていると思うのですが
この少人数でもこんな意欲的な作品を委嘱し演奏してしまう、
その意識の高さにも驚かされたステージでした。




続いて
「合唱団 Le Grazie(熊本)」


コンクールでもずうっと西村朗作品を演奏しているグラツィエ。
そして今回も西村朗作品!
「永訣の朝」より「1.永訣の朝」「2.松の針」「3.無声慟哭」


言わずと知れた宮沢賢治の詩に付けられた旋律。
緊張感ある見事なピアノと18人の合唱。
この古閑恵美先生のピアノはいいなあ…。


ほぼ暗譜で歌われる、その濃密な詩世界。
賢治と、死にゆく妹:とし子の姿。
西村朗先生は作曲に際し
「あまり感傷的な音楽になることは避けたいと思った」そうですが
詩の各所で意識が留まるのではなく
降りしきる雪の世界へ徐々に引き込まれ、
その寒さと冷たさとともに
最後には賢治が直面している思いを、いま自分も共有しているような…。


昨年の全国大会でのグラツィエの演奏でも感じたのですが
単なる熱演を越えて、聴く人の胸に響く説得力が
一段と増して来たように思います。
コンクール的には音程や声の揺れなどは問題になるのでしょうが
このステージでは関係無い。


後で知人が幾人も
「…グラツィエの演奏、泣いちゃったよ」と語るのが頷ける演奏でした。



(つづきます)