2010年印象に残った本ベスト10 つづき(小説)


今回は5位から1位まで。
(2010年に発行された本、ではなく
 2010年に読んだ本です)


第5位 高殿円「トッカン 特別国税徴収官


トッカン―特別国税徴収官―

トッカン―特別国税徴収官―


悪質な税金滞納者から取り立てを行う特別国税徴収官
略してトッカン。
冷血無比で鬼のような上司:鏡雅愛の補佐として働く、
25歳の鈴宮深樹。
ペットの高級犬にまで差し押さえする上司に
ついていけないものを感じながらも、職務に奔走する!


「トッカン」、全く知らない著者だったものの
いやこれは面白かった!
税金を滞納する側、徴収する側、
それぞれの立場がよく描かれている。
物語の運びもテンポ良く、
税金というものを嫌味なく知ることが出来るし、
国税局というものに限らない良質の
「お仕事小説」であり、成長物語である。


登場人物が実は…というのはお約束かもしれないが、
それをここまで巧くやられたら唸るしか無い。
どん底まで打ちのめされた主人公が、終盤に立ち直る姿、
そして登場人物の別の一面にホロリとさせられてしまう。
おっさんの私にも染みる本だけど、社会人の若い女性へ、
特にエールをおくる本なんじゃないかな!






第4位 山田詠美「学問」 


学問

学問


山田詠美の新たな代表作、と評されるだけはある素晴らしい作品。
高度成長期始め、東京から静岡へやってきた仁美と
地元の3人の子どもの交流と成長を描いたもの。
登場人物に食欲、睡眠欲という欲求をそれぞれ強く配し
性の目覚めも描いていく。


仁美が憧れる心太の「人たらし」という性格模写が秀逸。
最後にこの心太が
仁美にあることを言いかけて止めてしまう箇所があり、
読み終えてからも「心太は何を言いたかったのか?」
と謎だったのだけど
作者と吉田修一との対談で、なるほど、と思った。


http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/366813.html



何に「恥」を感じるかは人それぞれだと思うけれど、
欲求をコントロールできない自分を意識する瞬間は、
その最右翼かも。
たいていは「コントロールできない」という意識を曖昧にして
恥の感覚から逃れようとしているのかもしれない。


そしてこの対談での
「書くことより書かない部分のほうが重要」
という作者の言葉も響くが
それはもちろん「単純に書かない」のではなく、
「書いている部分の終わり」で
いかに読者をジャンプさせるか、なのかなと思った。
読後、女性で、自分とこれほど違う主人公の仁美が、
自分の中に生きている感覚。
これこそ物語を読む喜び。






第3位 タチアナ・ド・ロネ「サラの鍵」


サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)

サラの鍵 (新潮クレスト・ブックス)


私の詳しい感想はコチラ。
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20100818/1282080493


弟を探す前半クライマックスも凄かったが、
後半の「人の不幸を踏み台にした自身の幸せ」という
テーマも深い。
深刻な内容というだけではなく、
巧みな小説技法にも惹きつけられた作品でした。







第2位 宮部みゆき「小暮写眞館」


小暮写眞館 (書き下ろし100冊)

小暮写眞館 (書き下ろし100冊)


閉めた古い写真館をリフォームすること無く、
そのまま住居としてしまった家族。
息子の男子高校生:英一くんを中心に話が進む。
その英一くんが
にわか「心霊写真専門家」としてしぶしぶ乗り出すのだが、
解決の過程でのさまざまな人々の暮らし、
その心の描き方が熟達の名噺家の語り口。
特に4歳で亡くなった娘さん「風子」ちゃんに関わる話は、
最近の周囲ともリンクしていて・・・。
西宮の全国大会への行き帰りにこの本を読んだのだけど
何度も涙を抑えることが出来ず恥ずかしかった。


英一くんの大変素晴らしい成長小説でもあり
(ラストの2つのカメラ。あのギミックはヤバイ。素敵過ぎる)
鉄道小説でもあります。


「鉄道は人間と人間を繋ぐものだ。
 だから鉄道を愛する者は、けっして人間を憎めない」


なんて言葉、
「そうかな?」とも思うけど(笑)、いいよね。


多くの人に心から勧めたい作品でした。
ただ.、
「芸術は人を待ってくれないけど、人は芸術を待つことはできます」
…という言葉はそのままの解釈でいいのかな?
みなさんはどう解釈します?教えてプリーズ。








第1位 藤谷治「船に乗れ!」


船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!〈1〉合奏と協奏

船に乗れ!(2) 独奏

船に乗れ!(2) 独奏

船に乗れ! (3)

船に乗れ! (3)


私の詳しい感想はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20100502/1272810356


違う世界へ誘ってくれる、
世界を広げてくれるのが読書の喜びだとしたら
2010年、私にとってこの本を越える本は無かったということ。
(もちろん本屋大賞1位の「天地明察」も読みましたよ)



いいシーンはいっぱいあるんですけど、
ラスト近くにチェロの恩師が自ら技能の限界を見せるシーンが
個人的に大変好きです。


また時間のある時に少しずつ読み、
文中に流れる曲を聴こう。
何度も何度も。


それだけの深さと広さと、熱さがある小説だから。




次回はノンフィクション、その他の10冊を。