2010年読んだ本ベスト10 (ノンフィクションなど) その2


第8位  新保信長「国歌斉唱♪ 『君が代』と世界の国歌はどう違う?」


国歌斉唱♪---「君が代」と世界の国歌はどう違う?

国歌斉唱♪---「君が代」と世界の国歌はどう違う?


サブタイトル通り世界の国歌事情と君が代を比較し考察する、
語り口は非常に柔らかいがなかなか深く示唆に富む本。


国歌に誇りを持たない国なんて他に無い!みたいな
君が代」肯定論者はいますけど、
意外とそうでもないのがよく分かります。
敗戦後に1番を歌わなくなったドイツ国歌なんて、
日本と状況が非常に似ているし、
好戦的な歌詞のフランス国歌は国内でも賛否両論。
もちろん国歌を愛する国もたくさんある。
王制が常識的なタイなどは
「なぜ日本は国歌で議論するの?」と素朴な疑問が出るし、
徴兵制がある韓国でも国歌は愛されている。
国としてのまとまりを促すには国歌の役目は非常に大きい、ということか。


さらにこの本では「君が代」の「君」の解釈、
歌詞を変えて歌おうという意見、新国歌を作ろうという運動、
国歌に対する動きのさまざまな側面を取り上げ。
興味無いのはこの「新国歌」、
いままでに大々的なものでも4回ほどあったそうだ。
1952年壽屋(現サントリー)が募集した
5万以上の歌詞から選ばれたものなど、
なかなか趣き深く良い歌詞。
しかしそれでも「新国歌」が広まらなかったのは
皆さんご存知のとおり。


議論はいろいろな方面から出て、
歌詞変え、新国歌などの代案が出ているにも関わらず
未だに決定打がないという事実。


著者の新保氏は
「もう君が代が国歌でいいじゃん。
 ただし法制化や教育現場での義務化はしないで
 『ツッコミ解禁』をするべきだ」と結論を出す。
すなわち故・キヨシローによるパンク版「君が代」CDが発売中止になるような、
右翼の攻撃やレコード会社の自主規制はしないほうがいいんじゃないか、と。
それによって「君が代」はユルさを持つものとなり、
敬遠するものから敬愛されるものとなる、という主張は
これまでの状況を踏まえるとなかなか現実的に思えます。


結局、日本の意思決定は根回しやコンセンサスによるものが大半なのに
君が代」は上からの押し付けという印象になったのが不幸、
という著者の主張にも納得。
当たり前だけど「…でなければならない!」で押し通して、
気持良く通るワケは無いんだなあ。






第7位  色川武大「うらおもて人生録」

うらおもて人生録 (新潮文庫)

うらおもて人生録 (新潮文庫)


色川武大さんは別名の阿佐田哲也名義で
麻雀放浪記」なども書いている博打打ち。
内容については


http://dain.cocolog-nifty.com/myblog/2010/02/post-7ee8.html
(「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」より
  ハタチのわたしに読ませたい「うらおもて人生録」)


が非常に良いレビューなのでこちらを読んでもらえばわかりますが
「人生の要諦」ということに関して大変説得力がある本。
そして劣等生だった著者だからか、語り口、視点が大変優しい。


その中で「運」に触れて
「生きている、というだけで、すでになにがしかの運を使っているんだな」
という箇所があり、
そうなんだよなあ・・・と最近しみじみ思います。


読む年代によって受け取る深さがかなり違うであろう本。
それでも、この本の深さを知ることができるだけ、
「トシくって良かった…」と思わせる本でもあります。



(続きます)