第3回ひろしまユース合唱団演奏会感想




19時開演の演奏会。
列車に乗り18時を少し過ぎた頃に着く予定で
「待ち時間どうしようかなあ〜」などとのんきに考えていたが
人身事故のため遅れに遅れ到着は19時20分ごろ。


最初の今釜亮さん指揮による
RutterのCantate Dominoはロビーで聴くことに。



さて、5名の指揮者の特徴や実力の違いがわかって
そういう面でも興味深い演奏会だったが
それぞれの指揮者が同じ曲を指揮されていたわけではないし、
練習時間の兼ね合いや曲の難易度の違いなどもあるだろう。
そのため、特に指揮者への記述は
極めて不完全な印象、感想ということを理解して欲しいと思います。


ひろしまユース合唱団はプログラム上では
ソプラノ20名、アルト15名、テナー9名、バス12名。
昨年は40名ほどだったそうで増えたのは喜ばしいことだ。
同時に表記されている出身県は中国、四国、九州地方が多いが
(…しかし岡山は一人)
関東、東北を飛び越えて北海道から女性が2人参加しているのが面白い。
っていうか、この2人知り合いだ!


3泊4日の合宿を経て全国から集まった団員による演奏会。
会場の広島市安芸区民文化センターホールの観客数は
ステージに居る人数より少なかったりして・・・。(悲しい)



客席で最初に聴いた演奏は寺沢希さん指揮による
Mendelssohnの
Motette op. 69
"Herr, nun lassest du deinen Diener in Frieden fahren"
"Jachzet dem Herm alle Welt"


年齢制限が28歳までということで若々しく芯のある明るい声が響く。
良いソプラノは合唱団の七難隠す…とは私が今作った言葉だが
かなり優れたソプラノのため演奏の印象が良い。


メンデルスゾーンのこの曲は大変良い曲で私も好きなのだが
劇的な変化もやや少なく構成が難しい曲。
そんな間延びしそうなところを
寺沢さんは大きな音楽を作り、しっかりとした構成で
集中させて聴かせたと思う。
…ただ寺沢さんが指揮されていた
ドブロゴスナイトでも感じたのだけど
音楽表現が感情へ結びつく一歩手前の所で
追及の手を緩める、という印象がそこかしこにあり、
それはそれで寺沢さんの美学なのかもしれないけれど
聞き手としては少し不完全燃焼。
場面転換の違う和音のはじまりやドイツ語など
合唱団側の練習不足があるのかも。
表現の要所要所はちゃんと押さえられていたので
好みの範疇かもしれない。



続いてこの企画の音楽監督である
松原千振先生によるRaminsh
Ave verum corpus,Ave Maria
お〜、(大変僭越だが)巧い!
作品の枠内で流れを止めず、
かつ音楽の色を自在に変えるのはベテランの技。
感情表現を追求しようとすると
テンポを大げさに揺らしたがる指揮者は多いが
そんなことはほとんど無く、
説得力がある音楽作りが出来るのも凄いこと。
少し地味な印象の曲だがそれでも曲の持つ特色を
しっかり出されていたと思う。



さらに今釜亮さん指揮による
Britten のA Hymn to the Virgin
8人が客席の下手側に並び
ステージ上の合唱団と呼応するスタイル。
今釜さんの音楽は緊張感とテンションの高さを持続し、
それが曲の表現としっかり噛み合っている。
松原先生に続いて私には好みの音楽。
2重合唱のStanford、Coelos ascendit hodie
やや危ういところはあったが
生き生きとしたリズムと輝く音が魅力。



休憩後、曽木時人さんによる
高田三郎混声合唱組曲「心象スケッチ」より
「水汲み」「風がおもてで呼んでいる」
ここからの2人の指揮者は年若いためか
合唱団側と意思の疎通が
上手くいっていないような印象を感じることが多くなる。
この演奏でリズムの軽やかさや抒情は出ていたが
高田作品としては違和感があるなあ、と思っていた。
後ほど佐賀のOさんとこの演奏について話したところ
「高田先生はグレゴリオ聖歌を研究され、
 作品には旋法的な旋律を取り入れている」という言葉が出た。
なるほど、フレーズの捉え方としての違和感だったのかも。
「風がおもてで呼んでいる」は20年ぶりぐらいに聴いた曲で
懐かしさから涙が出そうに。
割合暗い音色で演奏される印象が強い高田作品だが
(古参の合唱団の演奏が多いからかな)
こういう若く明るい開放的な声と弾むリズム、
指揮者の良い感性が噛み合うと
また新鮮な魅力が伝わるなあ。



続いて縄裕次郎さんによる
柴田南雄「三つの無伴奏混声合唱曲」という渋い曲。
柴田南雄の作品について指揮者が語るのは良いけれど
シアターピースについてまで語るのは意味があるのかな?
演奏は・・・おっ、フレーズの歌わせ方、良い流れ!
しかし、指揮者の足がせわしなく動き演奏に集中できない。
音楽も良いものをたくさん持っているようだけど
いろいろなことをやり過ぎなのと
伝え方が独創的で合唱団側が戸惑っているような?
謎だがこのステージで男声が急に下手になった印象もあり。
ただ、縄さんの中には前述のように
オリジナリティがあり、良い音楽がたくさんある感じを受けた。
おそらく伝え方の問題なのでしょうね。
それは経験を重ねればどんどん良くなっていくのでしょう。



最後は松原先生による
Chatmanというカナダの作曲家による
「Due North」という作品。
(「北の国に」と訳すのが良いのかな?と松原先生)
キツツキ、蚊などの音を模した
サウンドスケープのような楽しい曲。
同じくカナダの作曲家シェーファーのMagic Songsを連想したり。
やはり演奏側のテンションがある程度高いのと
曲中の「ここぞ!」という表現がいくつもハマり、好印象でした。




さて、演奏会全体を振り返ると。
私が公募や合同合唱団、ジョイントコンサートから
得るものが少ない人間だからかもしれないが、
それにしても音楽上の表現が
心動かすはずの表現として伝わる箇所で
もう一歩、二歩、「惜しい!」と感じる所が多々。
具体的には音楽の切り替わりの始まり、和音の乱れ。
音色、歌い方を変えられないなど。(特にテノール)
そういう面で「良い曲だなあ」と思わせるけれども
「良い演奏だなあ」には至らなかったと言うか。
これは指揮者だけではなく合唱団側の問題も多いのだろう。


観客としては
全体のプログラムの曲数も減らす方向にして
練習の密度を濃くした方が良いのでは? と思った。
さらに観客数の少なさも考えると演奏会として足りない時間は
地元の児童合唱団や学生合唱団などに
賛助してもらうのはどうだろう?


もちろん至っていない指揮者が
普段指揮することのない合唱団を指導することで
得るものは大きいと思うが、
それでも観客として考えると
曲数を減らした方が良いのでは・・・ということ。




良い面も語ろう。
まず若く、意欲ある団員の伸びやかな声。
富山の全国大会で9団体の大学合唱団を聴いたが
このひろしまユースも曲を選び、集中して練習すれば
全国大会上位団体と比べても実力は遜色ないと感じた。
ポテンシャルは非常に高い合唱団だ。


そして少し地味かもしれないがとても良い選曲。
温故知新…ではないが特に邦人曲でこういう選曲は素晴らしい。
あとロマン派だけではなくルネッサンス・バロックも加え、
大まかな合唱の歴史も学び、聴かせられると良いのでは。


加えてこういう企画そのものの素晴らしさ。
演奏でも感じたが大学合唱団演奏会でよくある
「内輪受け」「自己完結」が無かったのも好印象。
どうしてもそういう傾向になりがちな大学合唱団の
学生指揮者や技術系の人が
こういう意欲的な選曲やさまざまな指揮者の音楽に触れ、学び、
そして自分の合唱団へ還元するとしたら…大変意義があると思う。
2重合唱なんてほとんどの大学合唱団はやらないだろうし、
「ここ20年ほどに作曲された邦人作品」+
申し訳程度の海外作品or「(団員が)お楽しみステージ」
みたいなプログラムの合唱団員には大いに刺激になるだろう。
もっと広く知られて、
全国各地から多くの若い団員が集う企画になれば素晴らしい。
同世代の若者が集まることはまた特別な意味を持つと思うし。
自分が北海道の学生だったら多少キツくても参加するのになあ!
(格安の航空券は昔よりあるので現在の方が行きやすいかも?)




演奏会後は非常に爽やかな空気に包まれました。
それは全国から集まった「合唱が好き!」という参加者の想いが
ストレートに伝わる演奏会だったというのもあるし、
こんなにも合唱に意欲的な若い人が全国にいるというのが実感でき、
来年だけではなく、未来に光を見るような、
そんな年の終わりの演奏会だったからかもしれません。


来年も好みの選曲だったら、
また是非聴きに行きたいと思います。


企画、そして参加されたみなさん、ありがとう!