2012年に読んだ小説ベスト7(第1位まで)


今回は第3位から。


第3位
スティーヴ・ハミルトン「解錠師」

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

8歳の時に言葉を失ったマイクには才能があった。
絵を描くことと、どんな錠も開くことが出来る才能。
やがて高校生になったマイクは、
ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり…。
少年の成長と非情な犯罪の世界を描く。

解錠師、「久しぶりに面白い小説を読んだ!」と興奮。
金庫破りの技術を身につけていく過程、
犯罪に巻き込まれていく様子、
言葉を失う原因となった事故…
過去と現在が交互に語られ、
謎が徐々に解明されることや、
金庫破りの技術だけではなく
最中の心理も緊張感あふれる筆致で描き飽きさせない。


自分はこういう
「専門的な技術を身につける青春小説」が好きなんだな、と
改めて思った。
技術の習得と心の成長がリンクしてると言うか。
ドン・ウィンズロウ「ストリート・キッズ」。
広い意味では高殿円「トッカン -特別国税徴収官-」もそうかな。
この手の良小説、他にないかなあ?
ご存知でしたらどなたか教えて下さい。


このミステリーがすごい!」で海外小説1位になっていましたね。
びっくり。





第2位
津原泰水「11 eleven」

11 eleven

11 eleven

SF、ミステリー、怪奇、エンターテインメント、
純文学、歴史小説…。
優美、畸形、幻想、腐敗、黄昏・・・。
ジャンルも描き方もさまざまな、
しかし独特の昏さが通底している11の短篇集。
第2回Twitter文学賞1位。


巻頭に位置する、畸形を売り物にする
見世物一座の彷徨いを描く「五色の舟」が
評価が高く(星雲賞候補にもなっている)
とても素晴らしい作品だが、
その次の「延長コード」が
ここ数年で読んだ短編の中で一番衝撃を受けた。


「延長コード」
17歳で家を出た娘。
5年経ち、娘の死から最後の住処となった家と
そこの住人を父親が訪ねるところから話は始まる。
娘の遺品である延長コードと
娘がいつも見ていたであろう風景が繋がっていく。
娘の死という喪失と、
それを埋めようと娘がかつて見ていた風景の中を
延長コードで繋ぎながら僅かな光で闇を照らし、
進んでいく父親の姿が胸に迫る。
他の短編も拒否反応が多い人はいるだろうけど、
どの作品も水準は高い。


「言葉」で語らず風景や、会話の間、
その言葉を受け取った相手の反応で
世界をつくるような津原泰水は、
本当に凄いと思います。





第1位
ガイ・バート「ソフィー」

ソフィー (創元推理文庫)

ソフィー (創元推理文庫)

イギリスの田舎町。
病弱なマシューと高い知能を隠す優しい姉ソフィー。
幼年期の過去と密室の現在が交錯する中で
明かされる“真実”とは。


これは傑作と言っても良いんじゃないでしょうか。
幼い姉弟がなぜふたりだけで暮らす?
ふたりだけの楽園の消滅の理由は?
姉ソフィーを監禁し尋問する弟マシューの真意は? 
謎の解明と共に
美しい自然描写、ふたりの成長を描く筆致が
優れた文学作品の趣があり深い印象を残します。


驚きの結末まで、一気読みでした。
著者ガイ・バートが22歳の時に上梓した作品と知り、
更に驚き。
訳者あとがきでも触れられているけれど、
早熟の天才姉ソフィーと著者が重なるし、
少年時代とそう時を隔てていない
著者の瑞々しい感性が随所に光っていました。オススメ!



次回はノンフィクションの「2012年に読んだベスト」を。