第3位
沢木耕太郎「凍」

- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/10/28
- メディア: 文庫
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中国・ネパール国境の山:ギャチュンカン。
標高7,952mの難峰に
山野井泰史・妙子夫妻が挑んだノンフィクション。
2006年講談社ノンフィクション賞受賞作。
凄まじい作品。
漫画家の森薫氏と他の方が勧めていて、
久しぶりに読んだ沢木耕太郎作品だったのだけど読んで良かった。
ギャチュンカン北壁の描写も凄いが、山野井夫妻の意志の強さも凄い。
特に「決してパニックにならない」妙子さんは「おかしい人」レベル。
「極限という言葉を簡単に使うことは許されないが、
その近くまでは追い込まれているだろう」という記述が作中にあるが、
いやいや、遙か手前で「極限」と言っても誰からも文句は出ないだろう。
章ごと、いやページをめくるごとに「…ふーっ」と息を吐いてしまう。
無意識に息を詰めて読んでいたのだ。
山野井夫妻、帰還はするが重度の凍傷のため
山野井泰史さんは手足の指10本を切断してしまう。
一時は山への情熱を失ったかのように思えたが、
「赤ん坊」のような状態からクライミングを再開し、
徐々に難度の高い山へ登ることができるようになる。
山野井さんはこう書く。
指を失っても、
やはり何度か繰り返し登っているうちに登れるようになる。
自分が成長していることがはっきりわかる。
それは素朴に嬉しいことだった。
手と足の指がないことで、
その成長には絶対的な制約があるだろう。
しかし、その限界に到達するまでは
進歩しつづけることができるのかもしれない
あまりに臨場感あるノンフィクション作品なので、
どの程度作者:沢木氏の想像と創作が入っているのか、
取材方法は?などの興味も湧いてくる作品。
温かい布団で読むシアワセを感じさせてくれる
凄い本でありました!
第2位
ジョン・ロンソン「サイコパスを探せ! 狂気をめぐる冒険」

- 作者: ジョン・ロンソン,古川奈々子
- 出版社/メーカー: 朝日出版社
- 発売日: 2012/06/08
- メディア: 単行本
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共感性や罪悪感の欠如、
自己価値への誇大な感覚が特徴とされる
「サイコパス」を追求するノンフィクション。
一冊の謎めいた本からこの狂った世界の扉が開く。
ノンフィクションなのだが出来事の順序、切り取り方、
会話などが非常に面白いフィクションのよう。
精神病院に長年入院している正気を主張する犯罪者、
成功した実業家などがサイコパスチェックで照らされ疑われる。
その反面サイエントロジーという
既存の精神医学に反対する団体の主張の問題点もあり、
他者へ精神病のレッテルを貼ることの難しさも。
「はじめに結論ありき」ではなく
著者自身の土台も揺らぐような高橋秀実的な視点も秀逸。
「そんなにカンタンに他人をサイコパスと断じちゃう
あんたがサイコパスなんでは?!」と突っ込んじゃう(笑)。
「サイコパス」という言葉はかなり世に知られてきている。
でも実際、自分の身の回りにいる
冷淡で無責任で傲慢な同僚はサイコパス?!
などと簡単に決め付けちゃうのは危険なんだなあ。
それってあらゆる精神病も同じですよね。
第1位
「小澤征爾さんと、音楽について話をする」

- 作者: 小澤征爾,村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2011/11/30
- メディア: 単行本
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これは大変良い本。
村上春樹氏の音楽への深い知識と洞察にも驚かされるが、
小澤氏の自身の音楽の変化や
カラヤン、バーンスタイン、協演した名プレーヤー、
オケとの話なども非常に興味深く面白く読める。
村上氏は音楽の専門的教育も受けず、
楽譜も読めない一音楽ファンだが、
それでも音楽を深く愛し聴き込むことで、
プロ中のプロの小澤氏も
時に驚くほどの知見を披露するのが面白かった。
もちろんそれは「作家:村上春樹」だからこそ、とも言えるが。
自分は小澤氏の音楽は正直好みとは言い難いのだけれど、
それでもその音楽哲学と方法論には本当に感じ入った。
最後の章はスイスでの若い弦楽奏者へのセミナーのレポート。
「教育」という未来へ繋ぐ内容がこれまた良く、
読後に色々と残る本でありました。お勧めします。
あと、「小澤征爾さんと、音楽について話をする」で
村上春樹氏は「文章と音楽との関係」という項にて、
音楽から文章を学んだ身として
文章におけるリズムの大切さを述べている。
書き手で残るか、遠からず消えていくかは、
文章にリズム感があるかどうかで、だいたい見分けられる、だと?!
気になるじゃねーか!
村上春樹
「言葉の組み合わせ、センテンスの組み合わせ、
パラグラフの組み合わせ、硬軟・軽重の組み合わせ、
均衡と不均衡の組み合わせ、句読点の組み合わせ、
トーンの組み合わせによってリズムが出てきます。
ポリリズムと言っていいかもしれない。」
「音楽と同じです。耳が良くないと、これができないんです。
できる人にはできるし、できない人にはできません。
わかる人にはわかるし、わからない人にはわからない」
リズム音痴、なんて言葉があるけど
「文章音痴」なんて言葉もあるのかなあ(涙