なにわコラリアーズ第19回演奏会感想 その2


「尾崎喜八の詩から」の後は
高嶋みどり「青いメッセージ」。
昼の部の最終ステージは「ア・ラ・カ・ル・ト!」という
さまざまなジャンルの曲を6曲集めたもので
「Wait for the Wagon」という
懐かしのスピリチュアルズ(黒人霊歌)で始まり
これまた懐かしい
「What Shall We Do With the Drunken Sailor」でシメ、というもの。
尾崎喜八といい、
オールド男声合唱ファンには嬉しい選曲だったのでは(笑)。


そして夜の部は18時から。
昼の部終演は16時だったのでなんと2時間のインターバルしか無い!
だいじょうぶか、なにコラ?!


「祈りのこころ」と題された宗教曲ステージから。
山型に並んだジョスカン・デ・プレの「Gloria」。
ソロから導かれた柔らか、さらに豊かな男声の響きが
熱さと祈りを伴い高まっていく。
最初から全力だ!
声と表現が足りなかった印象のベース系も
この夜の部でかなり充実してきた。


デュオパの「O Salutaris」は品格を感じさせる演奏ながら
底にビート感もあり。
ビーブルのAve Maria,
コダーイの Jelenti magát Jézusという名曲の後
千原英喜「どちりなきりしたん」よりIV、V。
昼の部では第3ステージ「ア・ラ・カ・ル・ト!」終盤のこの曲から
声と歌う意志が上手く噛み合った印象があったが
夜の部ではさらにこなれた印象。
フレーズの優美さと歌い分け、色彩感。
音楽が切り替わる鮮やかさ。
優れた演奏にしみじみと「…良い曲だなあ」と感じ入る。



第2ステージの男声合唱組曲「青いメッセージ」は
草野心平の蛙を扱った詩に高嶋みどり先生が作曲したもの。
邦人男声合唱曲の傑作として名が知れている曲である。
(加えておいそれと演奏できない難曲としても)


平林知子さんのピアノは空間を鋭く切り裂き一閃!
最初の音から曲の世界を見事に出現させる。


1曲目の月蝕と花火 序詩
2曲目の青イ花
人間の世界から蛙の世界へ移る緊張感。
蛙の幼子の死、とテンションMAXで聴く自分の背筋をゾクゾクさせる。


4曲目の「秋の夜の会話」では寒さに震える蛙たちのせつなさを。
「さむいね。」と歌うトップテノールの歌唱が完璧と言うしかないもの。


「平和のための戦争である」「平和のために人を殺す」
皮肉めいた言葉でソンミ村大虐殺を扱った5曲目の「サリム自伝」。
銃声を模した叩きつけるビートの後
「おれにも成仏は…ない」と振り絞るように歌われた言葉が
凄みを伴った説得力で体の芯をきつく絞めつける。


そして最終曲「ごびらっふの独白」。
サリム自伝の死の匂いから一転して
そこかしこから聞こえ出す命の主張としての蛙の鳴き声。
まわりを囲むそれらの音をはじまりとして
草野心平の一行詩:春殖「るるるるる…」が立ち上がり、動き出し、歌になり、
蛙語による歴史と幸福への哲学が述べられていく。


ブルース、ジャズ、ロックの技法が使われたこの組曲は
初演から約30年経とうというのに
今も耳に新しく、蛙の死生を歌う音楽としてこの上なくふさわしい。
蛙を通した人間すべて、いや、生命すべての交歓だ。
沸き立つ生命のリズムに突き動かされ
切り込み、追いかけ、歌い交わし、そして歌い合い、
一気にクライマックスまで駆け抜けた!


この名曲をこんなに高い水準で聴かせてくれた
なにわコラリアーズのみなさんに感謝したい。




(つづきます)