山本文緒さんの「なぎさ」という小説を読みました。
専業主婦の冬乃と夫の佐々井。
久里浜で静かに暮らす夫婦の元へ冬乃の妹、
菫が転がり込んできたことから物語は動き出す。
カフェ、 ブラック企業と現代的なものを扱いながら、
生き辛さを抱える人々を描いた著者15年ぶりの長編小説。
本の雑誌2013年度ベスト1です。
これは傑作。
読み終えて「…凄い」とため息をつきました。
冬乃、その妹の菫、佐々井、部下の川崎、菫の知人モリと
性別、年代、職業さまざまな登場人物に視点がスイッチしていきますが、
それが全く不自然ではなく、
滑らかにそれぞれの人物の心情、人生へ入れる作者の技!
あらすじを説明するのが難しい作品なので、
是非とも予備知識無しに読んで欲しい作品でもあります。
生き辛さと人との関わり合いの難しさ大切さを描いた作品ですが、
それとは逆に、人の好意に寄生する
モリというキャラクターがなんとも印象深かったり。
そして物語の終盤、すべてを失ったように感じたとき、同時に沸き起こるもの…
主人公冬乃のモノローグは圧倒的な高揚感をもたらしました。
佐野元春の曲が何曲も引用されていたのも嬉しかったです。
この作品では引用されていませんが同じ佐野元春の
「グッドバイからはじめよう」が思い出されました。
「ちょうど波のように さよならが来ました
あなたは よくこう言っていた 終わりは はじまり」 。
何かを得たとき、必ず失うものがあるのならば、その逆もあるということ。
この力強い説得力はこの物語の果てでしか得られなかったと思います。
そう、常に「終わりは はじまり」、なんです。