第30回宝塚国際室内合唱コンクール感想 その4

 

近現代部門感想

 
13団体が出場。
個別の団体の感想を書く前に、
選曲について疑問に思ったことを。
 

 

 

まず、
「良い旋律を、心を込めて、言葉を大切に歌い、
 盛り上がるところはハーモニー」というのは
合唱の大事な要素のひとつとは思うのだけど、
それを前面に押し出した選曲"だけ"なのはどうかなあ? と。
合唱音楽にはもっといろんな要素、
幅の広さと奥の深さがあるはずなのに、
そういう選曲はモデルさんがカメラマンに
顔の同じ側しか見せないようなものじゃないかな?
 
もうひとつは
「その団体の演奏を聴くことによって起こる感情の変化」を
意識して選曲して欲しいな、なんて。
2曲、もしくは3曲を演奏する時間の中で、
「静かに始まって、最後はわーっと盛り上がって終わる」のか
「最初から明るく楽しく始まり、それがどんどん加速!」なのか
あるいは
「ガーン!とカマしてから、最後は内省的に少し哀しく終わる」とか。
いろいろあると思うんですよ。
 
それぞれの曲のコントラスト、グラデーションがほとんど感じられず、
同じような曲を並べただけ。
またはその団体を聞いている時間で、
どのような感情を持って欲しいかがあやふやのような。
 
「コンクールなんだから、そういう点は気にしなくて良いんじゃない?」
という意見もあるとは思うけど、
演奏が終わった時にインパクト、
良い印象に残る演奏をすることはコンクールでも重要なのでは。
なにより審査員以外の観客がどう思うか?
 
少なくとも私は、
10分程度の演奏時間でも印象付ける選曲ができない団体は、
20〜30分の1ステージ、ましてや2時間ほどの演奏会で、
観客の気持ちを考えて選曲できるとは思えないんですよね…。
 
 
さて、近現代部門は
銅賞2団体、銀賞2団体、金賞1団体。
 
賞外でも良い印象を持った団体の感想を。

 

 
 
 
The Singers Vocal Ensemble
(シンガポール・8名・混声)
 
ルネサンス・バロック部門で鮮烈な印象を残したこの団体。
演奏曲はP.Eben「De Circuitu Aeterno」
U.Sisask「Benedictio」
30人以上の合唱では何度も聞いた有名曲だけど、これを8人でやるとは!
「永遠なる循環」は良いテンポに乗って、言葉を歯切れ良く演奏。
途中で北欧系のプロ合唱団CDと同じ音が聞こえたことに感激したなあ。
ただ、人数が少ない団体ならではの音楽の切り口があったか?というと、
ちょっと疑問。
そして2曲目の「Benedictio」なんだけど…。
ベースのフレーズから、テナーの入り(音?)を間違え、やり直すこと2回。
これで集中力が切れたのか、
他のパートもガタガタになってしまい、
不完全燃焼で終わってしまいました。
1曲目と同じ水準で演奏できていたら、
間違いなく入賞できていたはずなので、本当にもったいなかったなあ!
それでも、大人数の合唱がふさわしい印象の曲でも、
技量があるメンバーならそれなりに聴けてしまうという点は勉強になりました。
あと、交歓会で
「あのテナーの入りの間違い、日本人だったら止めずにそのまま流すよね?」
「そうそう!」…みたいなやり取りがあって、
国民性の違いを考えたりも(笑)。
 
 
 
Harmonia 黒媛(岡山・10名・女声)
音羅(Onra)ヴォーカル・アンサンブル
(岡山・16名・男声)は
どちらも岡山の「合唱団こぶ」さんが母体の団体。
 
黒媛さんは輝く、とても良い声。
J.Busto「Zapata txuriak」は
「チュリ チュリ」との言葉がキュートに響く曲で、
女声の魅力にヤラれました(笑)。
 
音羅さんもやはり良い声!
M.McGlynn「Dúlamán」は実力あるBassソリストに先導され
早いテンポで合唱が絡んで行く曲。
ノリの良さ、男声ならではのカッコ良さもあって痺れたなあ。
また、後でBassソリストがこぶさん指揮者:大山敬子先生の息子さんと知り、
ビックリ!
 
 
 
 
《EST》メンズクワイヤ
(三重・20名・男声)は
R.Dubra「Adoramus te」を演奏。
アレルヤが入り混じる中、魅力ある旋律を集中度高く演奏していました。
やや練習不足に感じられ、
音・響きに幅がありカッチリしていない印象だったのが残念。
あと一歩で入賞と思わせる惜しさ。
後半の盛り上がりもとても良かったです。
 
 
 
Chamber Choir Clinics仙台
(宮城・20名・混声)
ルネサンス・バロック部門でも出場されたこの団体。
昨年から指揮者が早川幹雄先生から鈴木優子先生に替わられたとか。
Veni,Veni Emmanuelは男声の声の使い方が良く、
なにより熱く伝わる祈りが涙腺を刺激します。
M.Sorg-Rose「Ave Maria」は熱さを収めひそやかに。
男声に絡む女声の儚げな歌が印象的。
最後のP.Villette「Hymne á la Vierge」はその優しさ、
明るい表現の奥に歌へのひたむきさがあり、非常に好感を持ちました。
この団体も練習不足が惜しいのですが、
バロック音楽の専門家という鈴木優子先生の音楽性の確かさ、
感情表現の豊かさと熱さに「良い指揮者、良い団体だな!」と。
これからの鈴木先生と
Chamber Choir Clinics仙台さんの演奏が大変楽しみです。
 
 
 
Men's Vocal Ensemble"寺漢"
(広島・15名・男声)
寺沢希先生の指揮で
松下耕先生の「Miserere mei」と
「はらへ たまってゆく かなしみ」を演奏。
以前聞いた時よりもさらに明るく、統一されて
濁りのない響きを実現されていました。
ただ、そういう明るい響きを保ったまま、
哀愁、悲しみがある曲調を演奏するのは、非常に難しいことなのだな…と。
子音や音色の変化などの追求が必要なんでしょうが、
私のような者が言うは易し、行うは・・・で。
それでも、この明るい響きはやはり素晴らしいものですし、
和音も最後の音まで正確にしっかりクリアに響かせる
”寺漢”さんの実力は凄いな…と感心していました。
 
 
 
入賞団体の感想については次回に。
 
 

 

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