「コンクール出場団体あれやこれや:出張版2015」(その9)






今日は関西の2団体のあと、
中国地方の団体をご紹介します。
最初の団体は・・・
美しい声と響きで観客を魅了するあの団体です!

















4.奈良県・関西支部代表

Chœur Chêne

(40名・14年連続・第50回大会以来15回目の出場)


 



いつも完成度高い演奏を披露してくれるシェンヌさん。
昨年は課題曲レーガーの表現、音のリッチさ。
ここは教会か?と思わせるメンデルスゾーン。
そして前2曲から鮮やかに世界を変えたシェーンベルクと
発声技術と音楽の確かさに定評があります。


シェンヌさんの今年の演奏曲は
課題曲がG1
Super flumina Babylonis 
(Giovanni Pierluigi da Palestrina 曲)



そして自由曲がArnold Schönberg作曲
「MOND UND MENSCHEN」(月と人間)
(Vier Stücke für gemischten Chorより)

Olivier Messiaen作曲
「Cinq rechants」(5つのルシャン)より
「Ma robe d' amour」(私の愛のドレス)


シェーンベルクは昨年に続いて。
そしてメシアンと現代曲揃いですね。

シェーンベルクは
特有の緊張感と音の運び方が魅力。
5つのルシャンは名曲と呼び名が高い作品。
2曲ともかなりの難易度で
単純に技術的なハードルだけではなく、
表現としてもかなり難しい曲に思えます。



シェンヌ団員の山氏@安芸さんが
楽曲の解説をしてくださいました。
 

 

 

【課題曲について】

ここ数年クール・シェンヌは人数も増えてきて、
今回は40という、
シェンヌ史上最大!の人数で出場します。
この人数でG1の曲を選択するのは正直「冒険」です。
ましてや、合唱をやっている人なら、
歌ってはいなくても一度は聴いたことがある
パレストリーナの名曲
「Super flumina Babylonis」なら尚更です。

今回、敢えてこの曲を選択した
指揮者の上西が目指すことは、
「この人数で歌っていても、聞いている人に
  20名弱の合唱団が歌っている様に感じさせたい。」

その為には、
「ピッチはもちろん、発音、発声、フレージング他、
 歌の全ての要素をパート内、
 そして全体でぴしっと合わさんといかん!」とのことで、
毎回毎回、「詰将棋(笑)」の様な練習を
積み重ねております・・・。
コンクールの本番で、
まるで息の合ったカルテットグループが歌っている様に、
会場の皆さんに聴こえれば良いのですが(希望)。

 

 

 

おお、昨年のシェンヌさんの課題曲がG2だったのは

課題曲の選択は、
G1もその候補にあがりましたが、
30人を越えた合唱団では
人数規模が大きすぎる

…という理由だったのに、今年はG1に挑戦ですね!


「この人数で歌っていても、聞いている人に
  20名弱の合唱団が歌っている様に感じさせたい。」

うーん、高い目標です。
それにしても詰将棋・・・(笑)。

 

 

 


【自由曲について】

クール・シェンヌといえば、ロマン派だよね。
と言って頂くことが多いのですが、
最近では近現代の曲も
演奏会等ではよく取り上げておりますし、
昨年のコンクールでも、
自由曲はシェーンベルクの
「深き淵よりop.50b」を演奏致しました。
今回、その流れを推し進めるのか、
それとも原点回帰でロマン派の曲を選択するのか、
指揮者の上西もかなり悩んだようですが、
団としてチャレンジする為に
今回はシェーンベルクと、
メシアンという選曲となりました。

シェーンベルクの
「月と人間(四つの混声合唱曲Op.27より)」は、
昨年演奏しました「深き淵より」より25年前の1925年、
シェーンベルク51歳時に書かれたからか、
「深き淵より」よりも「音列」が判り易く、
とっつき易い?十二音技法の曲ではあります。
とはいえ、歌詞はハンス・ベートゲの訳詩集
「中国の笛」よりとられたもので、
「月は毎晩 決まった道を進んで行くが、
 私達人間はいつも不安定で、
 考えることも行うことも全てに落ち着きが無い」と、
かなり哲学的な内容です。

曲は歌詞のまとまりに合わせて4章で構成されており、
曲頭PPPで開始され1~3章までは
月の安定した姿が静かに語られます。
そしてそれと対比する様に、
第4部ではいきなり「Dagegen」
という言葉で始まるフォルテッシモで、
人間の不安定さが歌われます。
感情を押し殺していた人が
いきなり「切れる」様な感じでしょうか(笑)。

ちなみに、混声部門大トリの
グリーンウッドハーモニーさんと、
この曲が見事に被ってしまいました・・・。
指揮者の上西は、先日東北大会の審査員として、
GWHさんの演奏を聴いたのですが、
「今のうちとは天と地程の差」がついている
出来栄えだったそうで・・・。
後1週間、少しでもGWHさんに追いつける様、
練習を重ねます(汗)。




自由曲2曲目は、
メシアンの「5つのルシャン」より
「私の愛のドレス」です。
私が大学生時代に、
皆川達夫先生の名著「合唱音楽の歴史[改訂版]」を
買って読んだ際に、
この曲の楽譜が掲載されていたのですが、
まだ合唱歴の浅かった当時は
「こんな曲、誰か歌う人いるのかな?」と
思った記憶があるのですが、
まさかそれから30年近く経って
歌う日が来るとは思いませんでした(笑)。
(ちなみにコンクール全国大会では、
 1998年の第51回大会で、
 一般A部門に出場された会津混声合唱団さんが
 1曲目・3曲目を演奏されています)

歌詞はメシアンの自作詩で、
超現実的なフランス語の詩
(例えば、
 [ 光の大蛸が私の愛撫している
 バラの群れに傷をつける ]???意味判らん)と、
サンスクリット風の言葉が歌われます。
(ちなみにベースは、ずっと
 「チュチュマヨマ カプリタマ カリモリモ」と
 独特のリズムで呪文を唱える担当です。
 旋律を回して欲しいデス。。。)


旋律は、南米ペルーやエクアドルの愛の歌である
「ハラウィ」「ヤラヴィ」と、
ヨーロッパ中世の夜明けの歌である「アルバ」から、
リズムはおもにヒンドゥーの音楽から取られていて、
拡張や縮小された逆行不能
(※音符がシンメトリックな構造になっていて、
 音符を前後逆に並べても同じリズムになる)な形で
作曲されています。

この曲は、クライマックスの
「12声のカノン(3div.×4声)」が有名ですが、
そこに至る過程でも、
メシアン特有の「色彩感溢れる」箇所や、
独特のリズムパターンの反復によって
一種のトランス状態を生み出す箇所等、
聴きどころは満載です。
団員も楽しんで演奏しますので、
メシアンの独特の世界をお楽しみください。

 


山氏さん、詳細かつ楽しい解説をありがとうございました!

そうそう、シェーンベルクはGWHさんと被るんですよね。
こんな曲が被るとは、さすが全国大会!
…というところでしょうか(笑)。
メシアンも歌うのはかなり大変そうですが
聴くとなかなか惹き付けられる曲。
「楽しんで演奏」するシェンヌさんに期待です。



さらにシェンヌ団員:井上さんによる
「我が団のこの人!」です。
 

 

我が団には、Mさんという、
3人の子育て真っ最中にも拘らず
なんとか活動を続けておられるママさんがいます。

2人目のお子さんを出産された後だったでしょうか…
練習に復帰されたのがオリンピックアスリートよりも
早かったのを覚えています。

ご本人はいつも、
「凄いのは私じゃなくて、
 練習で家を出るあいだ3人の子どもたちをみてくれる
 旦那が凄いの。助かるわぁ〜。」
とおっしゃいます。
確かに、ご主人が合唱に関わっておられないのに
そのご理解は素晴らしいと思いますし、
幼児を含む3人のお子さんを
3時間以上1人でみれるって、
本当に誰でもできることではないと思います。
ご主人はMさんに歌っていて欲しいんだろうな…って思います。

でもやはり、週末の練習に向けて、
育児に家事にお仕事に頑張っておられる
Mさんご自身の日々の努力は
並大抵ではないんだと思います。
そして、ご本人の歌うことが本当に好きという気持ちと、
明朗かつ素直に「ありがとう」と言えるお人柄が、
ご主人も応援したくなるのではないでしょうか。

…って、勝手に好きなことゆーてますが(笑)、
女性として、女声として、人として、お手本となるお人です。
今回もお子さんたちをおいて旅立つのは
本当に大変だと思いますが、
なんとか長崎の舞台に一緒に立てそうで何よりです。

 

 

井上さん、ありがとうございました。
なかなかお子さんが生まれてからの女性は
合唱活動って難しいと思うのですが
こういうご家族のご協力あってなんですね。
歌うことが本当に好きなMさんと、その旦那さんに乾杯!





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今年のコーラスめっせでの写真だそうです

 

 

 

 



最後に団員:山氏さんからは

 


特に自由曲2曲は、
ようやく言葉と旋律が団員の体に馴染んできたようで、
ここ数回の練習では自分の中に取り込んで
咀嚼したものを少しずつ出せる様になってきました。
とはいえ、まだまだ足りないことも確か。
後本番まで限られた練習回数ですが、
独特の世界を持つこの2曲の魅力を
皆さんに感じてもらえるように、
もう少し指揮者の上西と「詰将棋」を並べる様に致します。


きっとシェンヌさんなら
完成度の高い演奏をして下さるかと。
「詰将棋」の練習、がんばってください!













続いては全部門唯一の職場合唱団の出場です。






















5.大阪府・関西支部代表

新日鐵住金混声合唱団


(72名・第1回大会から45回の出場)


 



昨年、26年続いた連続出場を途切らせてしまった
新日鐵住金混声合唱団。
職場部門が無くなったことで
厳しいものがあるのかな・・・とは思いますが
2年前の全国大会では自由曲に
Krzystof Penderecki作曲のAgnus Deiを演奏し
重量感ある演奏をしてくれました。



今年の演奏曲は
課題曲G3
知覧節(「12のインヴェンション」から) 
(間宮芳生 曲)


自由曲はMax Reger作曲

Morgengesang(朝の歌)
(8 geistliche Liederより)

Abendlied(夕べの歌)
(7 Geistliche Volksliederより)

 

朝と夕べという時間的に対照的な2曲。
ちなみにAbendliedは1999年の課題曲。
http://www.jcanet.or.jp/Public/meikyoku/meikyoku-kako.htm

 

ロマン派の抒情性と
レーガーらしい捻ったニュアンスを
新日鐵住金さんなら
たっぷりと聴かせてくれると思います。

 

 



今年はなんと大阪ザ・シンフォニーホールで
14回目となる、4年に1度のリサイタルを開催。
その勢いで職場合唱団からの唯一の出場団体として
がんばって欲しいものですね。













新日鐵住金混声合唱団の後、
約20分の最初の休憩をしてから
続いては私の地元、岡山から出場の団体です。












 

 

 

 

 

 



6.岡山県・中国支部代表

合唱団こぶ

(40名・7年連続出場・第62回大会以来7回目の出場)




こぶという団名は
指揮者:大山敬子先生のイニシャル「K」と
中学校での教え子「OB」たちの
文字をつなげた「K + OB」から。
今では教え子の中学出身以外の団員さんも
多くいらっしゃるそうです。

若い団員さんが中心の印象で
透きとおったサウンドと
真摯な表現が魅力の団体。


そんなこぶさんの演奏曲は課題曲G2
Auf dem See 
(Johann Wolfgang von Goethe 詩/Felix Mendelssohn 曲)



自由曲は瑞慶覧尚子作曲
淵上毛錢の詩による混声合唱組曲「約束」より「約束」。
…あれ、瑞慶覧先生の「約束」って
女声合唱曲じゃなかったかな。
熊本県立第一高校合唱団の委嘱作品。
http://editionkawai.shop16.makeshop.jp/shopdetail/002002000578/





指揮者の大山敬子先生にお聞きしました。



1.選曲の理由(課題曲G2)

課題曲はとても勉強になります。
曲へのアプローチをする中で
自分たちに要求される表現技術やイマジネイション、
またコンクールで出会う
他団体の作られた音楽からの発見をするとき、
独りよがりの音楽から離れることができます。

G2は、私たちが身につけなくてはならない
音楽的な力をたくさん要求されました。
明るい響きの声、アンサンブルの力、
言葉が生み出すリズム・・・
練習すればするほど大好きになりました。
あれ、選曲の理由になってない!?



2.自由曲について(「約束」)


この女声合唱曲に出会ったのは、
6年前、HIKARI BRILLANTEさんの
全国大会での演奏でした。
心をとらえられ、翌年、
中学生たちと夢中になって取り組みました。
でもいつの日かこぶで歌いたいと
密かに思っていました。
団員の「いつか混声合唱で歌ってみたい!」という声・・・
さらに昨年の「かつてない二次会」で文吾さんに
「混声合唱に編曲してもらったらどうですか」
とあっさり言われ・・・
勇気を出して瑞慶覧先生にお願いし、
夢が実現しました。

「約束」という言葉に在る力に惹きつけられます。
そしてさらに瑞慶覧先生の音世界は、
際限なく想像力を掻き立ててやみません。
空気、光、陰、時の流れ、色、匂い、息遣い、遠さ、
揺れるもの・・・・
淵上毛錢の眼差しに出会い、
安らかな祈りの息にいきつくまでの
遙かな時間を演奏したいと思います。

 

>文吾さんに
>「混声合唱に編曲してもらったらどうですか」
>とあっさり言われ・・・

えーっ!? そりゃ昨年の「あれやこれや」でも

>混声版・・・こぶさんで編曲委嘱なんていかがですか?
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2014/11/19/233853
…などと書きましたが・・・まさか実現されるとは!



淵上毛錢を題材にした小説、
火野葦平「ある詩人の生涯」によると
水俣の名家に生まれた淵上毛錢(本名:喬)は
東京で奔放な青春時代を送り
故郷に帰って右股関節カリエスという難病にかかり
寝たきりになってから詩作を始め
34歳の若さで亡くなった詩人。
その詩は病床で作られたとは思えない明るさと
宇宙の広がりを感じさせます。


「約束」という作品は「出発点」「無限花序」「約束」の
3つの詩をまとめたものだそうです。

 


今日も 夕まで なにごともなく 生きた
この分では 明日という日は たしかに 約束されてゐる
いま 私は静かに待つてゐる
静かに 待つている者には
きつと 約束は果たされる ――約束

 


ドラマティックな音楽の中に
淵上毛錢が見つめた生命というもの…
大山先生が惚れ込み、
編曲委嘱までしてしまったこの作品の演奏に
期待が高まります!





そしてこぶさんの「我が団のこの人!」です。
こちらも大山先生が書いてくださいました。

 


葉子さん、一番かわいいね。一番純粋よね。
と団員たちから愛され、
慕われる我が団のアラフィフ。
アラ還の指揮者大山が同世代として
頼りにする女性です。
サウンドオブミュージックのマリアのような
ヘアスタイルの女性を見つけてください。
素敵な表情で歌っています。
その顔を見に「こぶこん(定期コンサート)」にも
足を運ぶ人がいるほどです。
レッスンの先生への
スウィーツおもてなしのセンスと技は
だれにも真似できません。
平均年齢26歳の団員たちのおかあさん的存在、、、
でも無邪気さは一等賞。
(指揮者はその上をいきますが・・・)


大山先生、ありがとうございました。
若い団員さんから慕われる葉子さんの姿が浮かび
微笑んでしまいました。



 

 

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来年の全国大会の会場:鳥取梨花ホールでの
中国支部大会の写真だそうです。











最後に団員の藤原さんからは


今年こぶは平均年齢が上がり26歳になりました。
一時仕事や進学などの関係で
団を離れていたメンバーも
再び歌う場所を求めて帰ってきました。
団員の中に新しい命を授かるという
嬉しい知らせが多く届くようになりました。
いつかその子どもたちと一緒に歌うこと、
音楽することができたら、と夢みるようになりました。

出会い、新たな命、そして夢を与えてくれる音楽に、
心から感謝したいと改めて感じる今日この頃。
全国の舞台、下は中学3年生からアラ還までのこぶ。
今年集った仲間と、音楽に感謝しながら
今年も演奏させていただきます。

偶然にも今年は淵上毛錢生誕100年だそうです。
そんな特別な年に歌え、幸せです。
よろしくお願いいたします!


藤原さん、ありがとうございました。
中学校のOB合唱団の雰囲気を残していた
最初のこぶさんから時が経つにつれ、
大人としての深みが増してきたような気がします。

 

一時期離れていた人がふたたび帰ってくる場所。
そんな素敵な場所に
こぶさんという団体はなりつつあるのでしょうか。

大山先生が心から演奏したいと思った「約束」。
どうか、その真摯な想いのままの演奏を
聴かせて欲しいと思います。

 

 

 

 

 


(明日に続きます)