合唱団訪問記:女声アンサンブルJuriさん その3

 

 

 

 

合唱団訪問記、女声アンサンブルJuriさんの最終回です。

 

 

 

 

 

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「合唱団訪問記」

第5回その3
「女声アンサンブルJuri」さん見学記

 

 

 

 

 12時40分からは、1回ずつ通しで。(先生の練習は13時まで、だったので)

 三善晃「木とともに人とともに」から「悲しみは」
 信長貴富編曲「ノスタルジア」より
「花」「ふるさと」「浜辺の歌」「鉾をおさめて」「夕焼け小焼け」「里の秋」
「みかんの花咲く丘」


 「ノスタルジア」の編曲は、なかなか凝っていていいね!
 (それも、器楽的な歌唱と旋律を分けて歌えるJuriの
実力あってこそだけど・・・。
 東京での演奏会のさらに一週間後、山梨県主催で、この「ノスタルジア」を
含めた4ステージの演奏会をするそうだ。…スゴすぎる)

 「ふるさと」がユニゾンから始まって様々に展開し、また集約する、という形。
 「みかんの~」の終盤のダイナミズムが特に気に入った。

 そして、ソプラノを筆頭に“言葉”に対する、歌い方のセンスの確かさも!

 練習がいったん終わり、食事の後、藤井先生がお帰りになり、
14時から音の確認と、団員の雨宮さんによる個人ヴォイトレ。

 16時前に再び、団員の方々に話しを伺う。

 文吾“熱さ”を表面に出す合唱指揮者の方って、多いと思うんですけど。
     藤井先生って、おだやか、ですよね。
     ・・・いつも、あんな感じなんですか?」


団員の方々 「表面に出てないかなあ?」


      「そんなことないよね~」


      「眠かったんじゃない?(笑)」





 文吾「えーと、もう、いいです」

 (合宿、1日目の夜、藤井先生も参加された大宴会だったそうで!)


 色々、お話を伺ったが、藤井先生がいらっしゃるのは 
平均して月3回ほど。

 Juriは山梨大学合唱団が母体だが、今は現役、OGを含めて
約半数が山梨大学の関係者、ということ。

 山梨県には女声合唱は年輩の「おかあさんコーラス」しか
存在しなかったので、学生の女声合唱団と、その間を埋める、
「若手の女声合唱団」・・・という狙いもあったようだ。

 この合宿では団員の雨宮さんによる個人ヴォイトレをやっているので
ふだんの練習でもやっているのか、と尋ねたら

 「とんでもない!」・・・とのこと。

 通常は、月曜の19時半から21時半までの練習なのだが、
さすがに最初から全員集まれるわけではなく
個人ヴォイトレにかける時間は無い、と。
 
 そういえば、練習中、ずーっと全員、立っていらしたので
そういう取り決めか、と尋ねてみると・・・。

 「そんなこと無いですよ。
  ふだんの練習では椅子に座ったりもしていますし」
 ありゃ、じゃあ藤井先生がキビしく言うとか、
もしくは先生との間の、技術担当の方がウルサく言うとか・・・。

 「(顔を一瞬「えっ」と見合わせて) そんなことないですよ~!
  『正しい発声』で『正しい音』を個人の責任で
 出してくれれば、誰も何も言わないです!!」

 うんうん、とうなづくJuriの方々。

 個人の責任・・・かあ。
 そういや録音用のMDは、15人の団員なのに5つも置いてあったなあ・・・。
 それと、ひとりで歌うように言われた時の、団員の方々の姿勢!
 照れも、物怖じもほとんど見受けられなかった…。


 結局、団員の方々全員が合宿所を去るまで、ご一緒してしまった。

 貴重な練習時間を割いて申し訳なく思うと同時に、感謝の言葉を。

 藤井先生をはじめとして、Juriの団員、すべての方々に。
心から・ありがとうございました!

(特に、藤野さんと、ご自分の楽譜まで貸してくださった雨宮さん!!)

 

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 そうだ。最後に。

 藤井先生に
 「今後のJuriの目標、夢などがありましたら」・・・と尋ねた時

 藤井先生
 「そうですね・・・。

  生活の中。
  ・・・働いて、生きる、というその中に
  常に歌があって欲しいですね。


 『人生の円環』の中に、歌がいつも存在して欲しい」


 ・・・これが、たやすい目標、と考えるか。
 果てのない目標、と考えるか。



 Juriの演奏会のタイトルは「風に焦がれて」である。

 流れる風は、
 いつも、どんな時も歌っている。


 「風に焦がれ」たJuriが、どんな歌をこれから紡ぎだすのか…。



 「よくやってくれていると思いますよ」

 そう、団員の方々を見て語った藤井先生の目は、
やはり穏やかで優しかった。



(おわり)

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<追記:演奏会感想 番外>


 その1週間後、東京:浜離宮朝日ホールでの
 「女声アンサンブルJuri」の演奏会へ足を運んだ。

 小規模なホールとはいえ、
いったん演奏が始まると、美しい、艶のある声が、
1階席後方にいた自分の耳元まで
確かな質感を伴って届いてくる。

 まるで手を伸ばせば触れられるような、音の流れを
“視”ながら、Juriの音楽に包まれていた。


 …そして藤井先生が指揮を止めると
あれほど存在感のあった声は、嘘のように消えてしまった。
 聴いている人間の芯に熱い固まりを残し。

 観客は、Juriの最後の一人が袖に隠れるまで
拍手を送るしかなかった・・・。



 ホールから出て、外気に触れた時。
 ふと古い歌が思い浮かんだ。


 “ 誰が風を見たでせう?
   僕もあなたも見やしない
   けれど木の葉を震はせて
   風は通りぬけていく    ”



 その日、“風に焦がれ”たJuriの声は
 聴いている人の胸を『震はせて』

 確かに、風になった。