光ヶ丘女子高校合唱部第40回定期演奏会感想





こちらも備忘録として。


2017年 3月25日 14:00~
刈谷市総合文化センターアイリス大ホール



刈谷での光ヶ丘女子高校合唱部の
第40回目の定期演奏会に来ました。
合唱部の顧問である
白鳥清子先生がご退任されるのと
指揮をされていた雨森文也先生も
降りられるということで。
(OGが主体のHIKARI BRILLANTEでは継続されるそう)

レコーディングも兼ねたこの演奏会。
会場は満席でチケットも売り切れという人気。

 


ステージ最初は石原吉郎氏の詩に
信長貴富先生が作曲された
チェロ、ピアノを伴う「麦」全5曲。

指揮は雨森文也先生、ピアノは白鳥清子先生、
チェロは佐藤翔先生。



昨年、高松での全国大会で「麦」での4曲目
「悪意~異教徒の祈りから~」を聴き、
チェロとピアノ、そして100人越えの女声なのに
室内楽を指向するような響きと音量がそこかしこにあり。
神への怒り、憎しみ、疑いが
87回も繰り返される「主よ」に象徴され、
背筋、いや身体全体に震えがはしり、
凄いものを聴いてしまった…と感じた思い出があります。

「悪意」以外は初めて聴く曲集。
行きの新幹線で石原吉郎氏の詩集を読んでいたため、
信長先生がこの詩にどんな音世界を創られたのかと。


表題曲の「麦」、緊張感を伴ったチェロ。
信長先生が「言葉を持たない剝きだしの魂」と表わしたように
厳しい、実に厳しい音。

雨森先生が指揮される2つの女声合唱団
「うた・ふぐるま」
「カンティ・サクレ」が委嘱されたこの曲集。
信長先生も、雨森先生が指揮されることを
前提にして作曲されたそう。
それゆえ「演奏者には極めて強い精神力を求められる作品」だと。


こぶしを強く握り締めてしまう緊張感が続き。
少し、音楽が緩み、明るい方へ行くかと思っても
たやすく安堵をさせない。
聴きながら
「…この演奏を石原吉郎氏が聴いていたら
 彼の魂を癒していただろうか」と思う。

8年に及ぶ過酷なシベリア抑留の体験は
帰国してから石原氏に激しいPTSDを引き起こすことになった。
知人に腹部への自傷の跡を見せることもあったようだ。


誌の印象では唯一明るいものだった、
少女を描いた3曲目「自転車に乗るクラリモンド」も
夢見るような旋律がありながら
どこか暗く不安定だ。


最終曲の「水よ」は切ないピアノの前奏に涙腺が緩む。
作曲者が「剝きだしの魂」と表わしたチェロの音が
女声に優しく包まれることによって
この曲集で初めて救われたような音を放ったとき、
涙がこぼれた。


信長先生は石原氏の詩について

「全てを抑留体験に結びつけて解釈することには異論もあろう。
 しかし、極限状態を経験した人間だからこそ
 到達できる言語的境地があることを、
 石原の詩句は示している。
 芸術的普遍性はそのようなものだと思う」

と語られている。


チェロとピアノが伴うことで
躊躇する団体が多いかもしれない。
しかし、「百年後」と同様に、
多くの女声合唱団で演奏して欲しい、
詩も音楽にも非常に深さがある曲だった。




「麦よ」演奏の後に
指揮者の雨森文也先生と信長貴富先生がステージに立ち、
今回演奏する「百年後」について。


信長先生が武庫川女子高から委嘱された時、
女子高生にふさわしいテキストが見つからず困っていた。
その後、足を骨折してしまう。
入院中に差し入れをされたタゴールの詩集に
「ビビビッ、と来まして!」
傑作「百年後」が生まれたというエピソードが興味深かった。





女声合唱とピアノのための「百年後 -タゴールの三つの詩-」


最初「光よ」からまっすぐな、
本当に光を放つような声に打たれた!
どこまでも伸びやかに、
そして生きる喜びは果てしない。

続く「歌のない夜明けの歌」、
そして「百年後」にも
ああ、これは、本当に若い人のために存在する曲だな…
そんな思いを強くした。

鳥へ呼びかける自分に、
確信できる、豊潤な未来がある。
百年前の詩人、そして詩人が歌い託した人が
今まさに目の前で歌っている彼女たちだということ。
彼女たちが更なる百年後の未来を
強く、強く、信じているということ…。

あまりに力強い、音の洪水とでも言うべき
イメージの奔流に吞まれた後、
現在と未来、そして生きることを肯定する歌と祈りに、
込み上げるものがありました。



「麦」、そして「百年後」という
信長貴富先生の非常に難易度の高い作品を、
極めて集中し、
それぞれの世界を見事に表現していたことに、
深く感じ入りました。



緊張感の高い演奏曲の後は
ハンドベルの演奏。
さらに揃いの衣装に身を包み、
ダンスの先生の指導もあったという最後のポップスステージ。


雨森先生、
そしてずっと合唱部を見守っていた白鳥先生のご退任。
さらに3年生との別れが重なり、
最後のステージでは現役生のみならず、
客席も涙、涙…。
ヒネくれたオッサンの自分も、
そのまっすぐな気持ちに涙を誘われました。



OGが主体のHIKARI BRILLANTEは
「VOCI BRILLANTI」と団名を変え、
一般の女声合唱団として
光ヶ丘女子の卒業生の他にも広く団員を募集するそう。

 

「VOCI BRILLANTI」Facebookページ
https://www.facebook.com/brillanti0202/



現役生、HIKARI BRILLANTEのみなさん、
本当に良い演奏をありがとうございました。
彼女たちの未来に幸あれ!


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ちなみに「百年後」「麦」の2つの曲集のCD制作にあたり
クラウドファンディングのプロジェクトがあります。

https://camp-fire.jp/projects/view/25914


募集締め切りまで日数がありませんが、
ぜひ多くの方のご参加を!


 

 


CD「百年後/麦 信長貴富 女声合唱作品集 」制作インタビュー1