合唱団訪問記:松下耕先生・VOX GAUDIOSA団員の方々へインタビューその1







合唱団訪問記の再掲。
今回は『松下耕先生・VOX GAUDIOSA団員の方々へインタビュー』第1回です。

(文豪の部屋HP掲載時 2002.2.5)




松下耕先生に軽井沢国際合唱フェスティバルの打ち上げにて
このインタビュー記事再掲のお許しをお聞きしたところ

あのインタビューは2001年時点のものということを
 記してもらえれば、掲載は良いですよ」
と仰っていただきました。

松下先生に改めて感謝いたします。



合唱団訪問記:VOX GAUDIOSAさん その4から
http://bungo618.hatenablog.com/entry/2016/11/05/145052
繋がるインタビューとしてお考えください。



合唱団訪問記の再掲については下記の記事をご参照ください。





松下先生が代表理事を務めておられる
東京国際合唱機構(ICOT)による
東京国際合唱コンクールは来年7月です

www.ticctokyo.icot.or.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合唱団訪問記 

 

第19話

 

今回は、VOX GAUDIOSAの団員のみなさんと

 

松下 耕先生とのインタビュー風景をUPしてます。


 

「合唱団訪問記」

 

 『松下耕先生・VOX GAUDIOSA団員の方々へインタビュー』その1

 



 練習場の近くのファミリー・レストランで
松下先生、コンサート・マスターの森永さん、
団長、副団長のしまお・しまこ夫妻、と文吾という席。



<純正調、絶対音感にまつわるお話>

文吾  「練習中、音程感覚、というのが
     とても素晴らしいと思っていたのですが。
     松下先生も音叉を使っておられますし。
     …でも、音取りはハーモニー・ディレクターじゃないんですよね?」

松下先生「うん。ハーモニー・ディレクターかどうかは
     あんまり問題じゃないと思う。
     だってハンガリーはハーモニー・ディレクターが
     無いわけだから」

文吾  「なるほど」

松下先生「・・・自分自身のことを考えると、
     小さいころはピアノの音であれば
     すごい不協和音でも全部言えるわけ。
     どんな音でもいくつも言えた。

     でもある日、フルートの音を聞いた時にね。
     あれって、倍音を含んだ音でしょ?
     それを聞いた時、ピアノの平均律に慣れた自分の耳には
     どの高さの音だか分からなかった。

     『絶対音感』という本があったよね。
     あの本も色々書いてあったけど、
     ほとんどピアノの絶対音感のことしか
     書いてないようなんだよね。


     国立音大の教授のところに、ある小学生が相談に来て。
     特別な音楽教育を受けて、どんな不協和音でも
     全部音名を言えるような小学生なんだけど。

     学校の授業で『浜辺の歌』を歌った時、先生に
     『音痴だ!』…と言われたんだって。

     そんなことないですよねっ、と相談に来たので、
     じゃあ歌ってごらん、とピアノを伴奏に歌わせたら

     全く。まったく、音程がない。
     『あーしたーはまーべーをー(完全に平坦に歌って)』
     …だからピアノの音には反応するけど、他の
     人間の声とかには全く反応しない。
     聴く能力がピアノの音にしか反応しないんだよね」


 文吾、ほー、と感心するのみ。


松下先生「例えばバルトークの『27の合唱曲』なんかを
     純正調の演奏で、ピアノをやっている人に聴かせると
     『・・・冷たくて怖い』って言うわけだよ。

     それが平均律とか、あまり整備されていない
     合唱を聴くと「・・・暖かい」って言う。
      
     だからハーモニー・ディレクターで同じ和音を
     平均律と純正調で聴かせて
     『どっちがキレイ?』と聞いたら
     『平均律!』…と答える人は結構いる。

     もっと言えばシンセサイザーの『コーラス』機能。
     あれは波長をわざとずらすことによって
     響いているように聞かせているわけでしょ。

     それで、それしか知らない人が
     ノン・ヴィブラートでピシッと和音が決まると
     『…なんか物足りない』って言うことがある」

 平均律、純正調の話の後、しまお・しまこさんご夫妻が
GAUDIOSAがソルミゼーション(コダーイ・システムでの移動ド視唱)の
ために、入団をためらった、と言うことから。

松下先生「移動ドでどこからどう読み替えればいいか、というのは
     指導者が分かっていればいいことで。

     団員はぜーんぶドレミを書いていって
     読んでいけば、いいだけなんだよね。

     それを勘違いしている人がいて。
     団員も転調の経過を全部分かんなきゃいけない、
     というのは違うと思うんだよね。

     児童合唱団の指導では。
     『これからドレミを言うから全部書くんだよー』と言うか、
     あらかじめぜんぶ階名を書いた楽譜を配る。

     それで『五線譜を読まないで、カタカナを読むんだよ』
     って言うと。それでもう、変わるんだ」

しまこさん「ガウディに入ってすごく印象深かったのは
     自分の出している音が、和音の中の
     どの位置なのか。
     ・・・そう言うことが良く分かるようになりましたね」

松下先生「僕自身は作曲畑なもんだから。
     今日の練習をごらんになっても分かるように
     音楽の構成的な言葉が多くなるね」

文吾  「でも、瞬発的な指示が多い指揮者に比べて
     一回の指示を長く語られるのが、非常に
     特徴的で面白い、と思ったんですが」

松下先生「確かに『もう一度もう一度もう一度っ!』って
     感じではないよね。

     (しまおさんの方を向いて)
     なんかぼくってさあ、良くも悪くもさ、
     理由を求めるよね。
     根拠を語らないと気が済まないんだよね。

     『こういうイメージで歌って欲しい』というのでも
     なぜ、そのイメージで歌うのか、
     というのを求めるね」

しまおさん「これは偏見なのかもしれないけど。
      女性の方が理論をしっかり言ってあげた方が
     わかる、という気がしますね。
     裏付けがないと付いて来ないというか」

文吾  「・・・ふだんの練習では松下先生の
    『エチュード』で練習されたりとかは?」
    
松下先生「僕がいない時にね!」

森永さん「発声練習を兼ねて、とかではなくて
    移動ドの練習をする時とか、
    曲で練習をした方が分かりやすいんですね。

    松下先生の『エチュード』には色々なテーマがあって
    そのテーマに関して、ソルミゼーションが勉強できる、
    という利点があるんです」

文吾  「国立音大や、一般の大学合唱団では
    そういったソルミゼーションはやられているんですか?」

松下先生「いや。一般の大学合唱団は『サークル』だから
     そういうこと(ソルミゼーション)をやる時間はないね。
     国立音大や耕友会所属の合唱団では
     そういうことをやっているけど。

     でも、どんなプロセスでも、純正調の響きを感じるように
     することが重要、というか。
     ソルミをやる時間がないので『ルルル』でやろう、と言う時も
     ちゃんと聴いて、ハモっているかどうか?
     ・・・というように響きは(注意して)聴かせているし」


 <音楽を表現するための杖>

文吾  「『純正調』の響きをちゃんと理解している指揮者の方が
     なかなか少ない、という事がありますが?」

松下先生「でもね。
     ソルミゼーション、純正調、と言うことに興味を持つと
     『そればっかり!』っていう指導者もいるんだよ。
     それはやっぱり良くない。

     ソルミゼーションや純正調は
     『音楽を表現するための杖』であって。
     それが『目的』になってはいけなくて。

     例えば、児童合唱団に素晴らしい音程感覚で
     歌う合唱団があるんだけど。
     顔を見てみると!」

一同 (笑)

文吾  「(笑) 音ばっかりに気を取られてしまって」

松下先生「それではね、主客転倒なの。やっぱり。

    ・・・だからといって、ピアノ伴奏の曲を否定する気は
    (力を込めて)『毛頭』、ないし。
    それはそれで、純正調でハモる合唱にはない
    音楽の良さがそこにはあるわけだし。

    やっぱりそれは『バランス感覚』だね!」

(※後でお話を聞くと、無調の曲や、転調が多い曲では
  『ソルミゼーション』は部分的に用いることはあるが
  ピアノでの聞き覚えなどでも音取りをやるのだそう。
  この辺りが、方法にこだわらず、
  『音楽を表現するための杖』と言われるゆえんかな、と)


<コンクールについて>

文吾  「松下先生は、今までコンクールにあまり出場されないで
    今年度(2001年度)になって、いっぱい出場された、
    ・・・というイメージがあるんですが」

松下先生「そんなこと無いですよ。
       
     Ensemble Pleiade(東京都の男声合唱団)や
     ANGELICA(国立音大の女声合唱団)や
     Brilliant Harmony(埼玉の女声合唱団)、
     そしてもちろんVOX GAUDIOSAは、過去に
     全国大会にも出場していますし。

     まあ、出なかった年もあったけど。

     ・・・ただねー、でもねー、やっぱり。
     『出たいから出る』ってのは、
     社会的に認知される行動ではない!
     …という気がしてしまうんだよね」

文吾   「え? それはどういう意味なんでしょう??」

松下先生「だからね、今回
     ガイア(フィルハーモニック・クワイア)が
     東京都から出るんだけど
     周りに
     『出るんだったら、10年くらい連続して出てよ!』って
     言われるんだよ」

文吾  「ほ~~~」

松下先生「あ~、そういうものなのか、って」

文吾  「やっぱり『ヒーロー』みたいなのを
     求めたがるんじゃないんですかね。
     コンクールの場で、過去のように
     京都エコー、OMP、といった
     絶対的なものがない今の状態では」

松下先生「ふぅむ、そうなのかねえ~・・・」

文吾  「松下先生がコンクールに出る理由というのは?
     団員の技術のトレーニングとか、
     いわゆる“発表の場”というのもありますが」

松下先生「そうだね・・・。
     やっぱりそれは『すべて』、だね。
     “発表の場“というのはもちろんだし。
     団員にとっても、そしてぼくにとっても
     『向上する機会』でもあるしね。

     ぼくも勉強させてもらってるんだけどね~。
     それはなかなか分かってもらえないねえ。

     例えば関東大会の時に良かれ、と思ってやったことが
     よくよく考えると
     『…こういう組み立て方もあったんじゃないか』
     と、気づかせられることもあって。

     ・・・やっぱり、すごく勉強になりますね」

文吾  「・・・例えばJuriさんなんかは、今年シードなのに
     『その分の練習時間を演奏会に回したい』…ということで
     コンクールには出場されなくなったわけですが」

松下先生「でも、コンクール期間中も演奏会、してるしね。
     (10月 13日 伊奈町立南小学校・中学校 
              親子ふれあいコンサート出演
        10月 22日 秋元真澄作曲展3 参加 !)

    まあ、コンクールに出る合唱団、出ない合唱団ありますから。
    僕の場合は『たまたま』ということで」

文吾  「『たまたま』・・・ですか(笑)」

松下先生「そ。
     そして『たまたま』全国に出れたの(笑)」


<「耕友会」について>

文吾  「コンクールは松下先生が引っ張って
    『出よう!』…というのは違うんですか?」

しまこ・しまおさん夫妻・森永さん・松下先生
                   「違うよね」

文吾  「団員の方がやっぱり『出よう!』、なんですか?」

松下先生「ウチは基本的にそうですよ」

しまこさん「某掲示板で耕友会を
    『松下耕が結成した耕友会』って
     書いてあったそうなんですが、それは違います!」

文吾  「違うんですね?」

しまこさん「同じ指揮者に指導を仰いでいるので、
     お互いに協力し合う、というか連盟し合う、というだけで」

松下先生「違う合唱団にいると、
     お互いがお互いを知らないで過ぎちゃうからね」

文吾  「松下先生が率先して、
     『コンクールに出る!』 じゃなくって?」

松下先生「そうだったら、こういう雰囲気にはならないよね」

一同 (同意)
文吾、深く納得。

 


 その2へ続きます。