東京国際合唱コンクール感想:その2(同声合唱部門)

 




同声合唱部門は13:20から。
6団体の出場で応募は20団体。

 
感想の前に、このコンクール、演出面でもなかなか凝っていまして。
各部門が始まる前に舞台が暗転し、軽井沢国際合唱フェスティバルでも聴いた美しい女声合唱が流れ、明るくなって司会者が登場!
司会は三好草平さんと、同時通訳のナンシーさん。
ユーモアを挟む手慣れた司会と通訳で、このコンクールを盛り上げてくれました。

さらに面白かったのはコンクールゆえ、曲間の拍手は厳禁なのですが、その代りの「無音拍手」!
これはどういったものかというと、手を挙げてひらひら~と振るというもの。
(ナンシーさん「Shake! Shake‼」(笑)
やっている人は少なめでしたが、出場した人によるとステージ上から見て「凄く力付けられた」という声も。
各団体の演奏時間が長めで、演奏曲も多いこのコンクールならではのアイディアですが、流行って欲しいなあ。

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例によって格別印象が良かった団体の感想を。
記した人数は不正確な場合があります。



金城学院グリークラブ(女声53人)
全4曲中、3曲目からの木下牧子先生「小譚詩」が日本語への感性と共感度が高く、改めて良い曲と思わせる演奏。ピアノもとても良かった。
同じく木下先生「春は来ぬ」もリズム、躍動感に優れていました。
金賞(90.6点)で第2位。

 


フィリピンからのDON BOSCO MAKATI - BOSCORALE(男声24人。女性も1人?)

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千原英喜先生による課題曲「あかあかや」は力強い声。
構成に優れ、緊張感に満ちた演奏。
パフォーマンス、動きも魅せてくれました。
Eudenice V.Palaruan「Tumbangon」は指揮者のそばに半円で座り、息を吐く、口笛、棒?で打ち付ける様子など、テンション高く迫ってくる、強烈なもの。

 


↑ 3年前の違う大会での演奏。


Michael McGlynn「Hinbarra」はステージ上で広がって。
繰り返しに変化があり、このカッコいい曲を明るく輝く声で締めくくりました!



↑ 今年の違う大会での演奏。
(※別団体の良演奏も。https://www.youtube.com/watch?v=mgP83kv_DdA )

ちなみに金賞(89.9点)で第4位。



小田原少年少女合唱隊&マルベリー・クワイア (女声25人。男性も1人)は華やかな振袖!
なんとスペイン・バスクの作曲家で指揮者でもあるXabier Sarasola氏を指揮者に迎えて。
Guerrero「Sanctissima Maria」は清澄な、ポジション高い発声で第一声から感心!
フレーズ末の減衰、響きの抜けも良く、音楽も自在さを感じさせるもので、この団体の実力はもちろん、サラソラ氏の指揮者としての音楽性も十分に堪能しました。
2曲目の課題曲「あかあかや」から桑原妙子先生の指揮で。(こちらは留袖!)
日本の叙情、侘び寂び、さらには寺山修司の陰影も思わせる見事さ。
続けて全日本でも演奏された松下耕先生「ことばあそびうた(紀の国のこどもうた 3から)」は軽やかなリズムと、地声との鮮やかな切り替わり、首を回すなどしても変わらない見事な発声でパフォーマンスも圧倒的。


↑ 6年前の小田原少年少女合唱隊だけの演奏。

最後はサラソラ氏がふたたび指揮を。
ご自身の「Mendian Gora」は響き深い声にチェンジ。
優しさ、温かさ、希望…にじみ出てくるものに涙が滲みました。
個人的には圧倒的と思ったのですが金賞(​90.3点)で第3位。

 



室内合唱部門でも出場した香港からの九龍華仁書院男聲合唱團(Wah Yan College Kowloon Boys' Choir)は最後に出場。

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人数も36人に増え、Lasso「Bon jour,mon coeur」はリズム、言葉の抑揚が優れ、かつ柔らかく響き、聴いていて気持ちが良い。
陳家曦「乱都之恋」はリズム、オスティナートを強調した作品。
Tormis「Incantatio maris aestuosi」もやはり気持ち良く明るく響くが、私には今一歩、発する音の意味と深さが足りないような。
(最後に演奏された「あかあかや」も同じ印象)
後半のトップテノールの浮かせた声がとても良かったです。
結果は金賞(92.2点)で1位。


さて、前回も少し触れましたが、規定によりルネサンス・バロック、ロマン派の作品を1曲以上選曲しなければならないこのコンクール。
特に学生団体でその難しさを強く感じられることに。
もちろん限られた年数で作品の様式に合わせ、発声を変えていく難しさはあると思うのですが、それにしても指導される先生に、その作品の素養があまり無いのでは?と疑問に思ってしまいました。
発声は根本から変えずとも、それっぽく聞こえるよう、ベクトル、方向性を考えて欲しいと思うのは、聴く側の浅はかな考えなのでしょうか。


考えてみればNHK全国学校音楽コンクールの課題曲は日本語による邦人作曲家の作品。
全日本も課題曲は4曲から選ぶことができ、うち2曲は邦人作曲家の作品。
これで自由曲にいつも邦人作曲家の最近の作品を選曲していれば、残念なことに演奏曲の幅は狭いものとなってしまいます。

加えてこの部門の課題曲、千原英喜先生による「あかあかや」は明恵上人による「あかあかやあかあかあかやあかあかやあかあかあかやあかあかや月」と月を愛でる、シアターピースの要素も含んだ作品。
ステージ中央で円形に座る、「四股を踏むように」といった指示もあり、これまた指揮者の創造性が求められる作品です。
ルネサンス・バロック、ロマン派、この課題曲を除き、得意の邦人作品を別団体のように生き生きと歌う姿を見て、「うぅむ・・・」と唸ってしまいました。

ただ逆に考えてみれば、今まで日本のコンクールでは埋もれていた「幅広い発声、多彩な表現を指向する学生団体」が、このコンクールで評価されるきっかけになるかもしれません。
またこれを機会に、出場した団体が合唱音楽の豊かなレパートリーの魅力に気付くことがあったら、それも素晴らしいことです。



(ユース部門の感想に続きます)