全日本合唱コンクール全国大会・中学校部門を聴きました

 



岡山シンフォニーホールで開催された全日本合唱コンクール全国大会・中学校部門を聴きに行きました。

 

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全国大会は6年ぶり。
前回行ったのは福山大会で、私が住んでいる倉敷に近い場所での開催ならなるべく行くようにしています。
高校の部は残念ながらチケットを入手できなかったので入場できず。
全国から集まった、高校の部を聴きに来た知人5名との飲み会でひとり、死んだ目をしていた私でした。

 

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10月27日 9:55から混声合唱部門。
んー、6年前の大会と比べると、全体的なレベルが少し落ちたような・・・。
さらに少子化が進んだのか、団員数も減少したような。

福島の実力校の先生が異動したばかりとか、ひょっとしたらたまたまそういう年だっただけなのかもしれませんが。
それでも、思春期・変声期の男子をこれだけ集め、しっかり演奏する状態にまで持って行く先生と学校の苦労はいかほどか。
絶対、女の子だけの合唱部の方が上達は早いはずなんですよね。
それを、難しい男子を入れ、困難な混声合唱にする。
そういう心意気、応援したいなあ。


とは言っても、気になるところは気になるところ。
全11団体、1曲だけの団体は無く、2~3曲を演奏する団体ばかり。
それが演奏の技術関係なしに「なぜ、この曲を組み合わせたの?」と不思議に思う団体もありました。

観客の立場から言うなら、例えば対照的な作品を組み合わせるとか、盛り上がっていくとか、あるいはパッとカマして美しく静かに収束するとか。
8分の中のプログラミングはいろいろやり方があると思うんだけど。
ほぼ同じような2曲を並べたり、異質すぎる曲同士だったり(いや、私にはわからないテキストの繋がりがあったかもしれないけど)、組曲から抜き出しても「その曲必要?別の曲か、抜いた方が良いんじゃない?」などと思うことも。

そんな中、大分大学教育学部付属中学校合唱部の信長貴富「I.時間」(「春のために」より)からアタッカで同じ信長先生の「春」の入りは「お!」と感心。
女声の最初のフレーズがとても良かったです。
信長先生の「私はもう悲しむまい」から始まる「春」は人気のある名曲ですが、この演奏が耳に残り、家に戻ってからネットで演奏を探し聴きまくることに。

プログラミングとしては他に、牛久市立牛久第一中学校混声合唱団が荻久保和明「ゆめみる」の前に、藤嶋美穂「序-悲しめるもののために-」を置いたのは、やや狙い過ぎと思う人がいるかもしれませんが、そのセンス良いなぁと感じましたね。

他に良い印象を持った団体は姫路市立広嶺中学校コーラス部は千原英喜「どちりなきりしたん」から「IV」は始まりの柔らかさ、フレーズを長く取り、音楽の持って行き方に好感。

府中市立府中第四中学校合唱部は最大人数の81名。信長貴富「葬送のウムイ」は非常に音響にこだわり、音像の移り変わり、神秘的な雰囲気を感じさせるほど。
千原英喜「日ごとに、黄金向日葵、一炷」も幼い子供から大人のように発声と歌い方を変えるなど、こちらもサウンドの面白さがありました。

出雲市立第三中学校合唱部は57名中ガタイの良い男子8名ががんばっていました! 運動部からの助っ人かな?
横山潤子「その木々は緑」では繊細な女声とややアンマッチな部分もありましたが、同じ「影絵」では説得力ある歌唱に。

西条市立西条北中学校合唱部は信長貴富「Anthology」から3曲で、それがやりたいんだね!が強く共感できました。

札幌市立あいの里東中学校合唱部は松下耕「はじめに……」が、始まりの雰囲気が良く、立派な混声四部体としての力強さと繊細さを合わせ持っていました。

名古屋市立志賀中学校合唱部は横山潤子「たましいのスケジュール」から2曲を等身大の共感を持ってメリハリを付けた演奏。

郡山市立郡山第五中学校は、なんと三善晃「嫁ぐ娘に」から2曲。
サウンド、アンサンブル感、特にテノールは「何者?!」と思わせる素晴らしさ。
技術的にはダントツでした。

那覇市立石嶺中学校合唱部は15名中男子生徒が3人。
周藤論「三つのマリアの歌」から「Ave Regina coelorum」。
実は、この演奏の直前に先日亡くなった知人を思い出させる事柄があったので、背が高く坊主頭の男声ソリストくんが、巧さ以上に優しく歌い始めたのに涙腺が刺激され。
そしてKen-P「前へ」で完全にヤラれます。
こういうことを考えるのは傲慢だし、決して自分は亡くなった彼女では無いんだけど。
それでも、彼女が聴きたかった演奏を、いま自分が聴いている。
彼女が生きたかったその先を自分が生きていると感じざるを得ませんでした。
「前へ」、本当に良い曲です。
目を潤ませながら、個人的な観客賞決定!
いや、アンサンブル感といい、とても上質な演奏でした。
石嶺中のみなさん、良い演奏をありがとう。


助っ人でも、もちろん正規部員でも。
男子がこうして合唱に関りを持って全国大会で演奏するというのは、非常に得難い経験だし、大げさに言えば合唱の未来を作ることだと思います。
難しい混声合唱に挑戦した全団体に拍手!
そして男子のみんな!君たち全員カッコイイぜ!!

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続いて同声部門全27団体。
この部門の練度は一般部門も含めて、おそらく一番ではないでしょうか。
どの団体も恐ろしく練習を積み、めまいがするほど巧い。

ただ6年前に聴いた時も、それ以前でも、その選曲の幅の狭さと、中学生の体格による(それともコンクールという場ゆえの?)発声と表現のバリエーションの少なさにどうにも辛くなってしまい、半分も聴かないで中座していました。
今回はどうかな…?と不安になりながら聴きます。
演奏順に感想を。


トップバッターの宇都宮市立星が丘中学校合唱部のシュミット「生き生きとした声で」から2曲は自然で伸びやかな発声に驚嘆!
アルトが特に素晴らしい。
作為的ではない表現、まさに「生き生きとした声」で音楽がしなやかに強く響いてきます。
フランス音楽っぽく?僅かな官能性も、中学生の演奏に感じてしまったのはマズイでしょうか…。

 

青森市立沖舘中学校合唱部は深い発声と柔軟な旋律でシュトローバッハとペーテルの2曲を。

郡山市立郡山第一中学校合唱部のブスト「Missa Augusta」から3曲も背伸びせず、作為的じゃない発声と共感を伴った表現が素晴らしい。
小針先生の、音楽を高い解像度で分解する能力はどれほどか。
表現の切り替わりもなめらかかつ自然。
小針先生赴任1年目で部員の多くが1年生ということで、もちろん音程や発声にまだ未熟さはありましたが、目指すものの大きさと深さ、細やかさは他団体と桁が違う。

矢巾町立矢巾北中学校特設合唱部は中学校というより、少年少女合唱の雰囲気。
フェスタやデュリュフレなどの選曲の指向は良いと思います。

名古屋市立扇台中学校合唱部は松波千映子「問い」の始まり、独特な寂しさの表現が良い。
鈴木輝昭「花火ひらく」は日本語の発語と音楽のメリハリが良かったです。

清泉女学院中学校音楽部は信長貴富「フォルテは歩む」のうねるような会場を満たす響きに「!」。
耳と声の使い方がハンガリーのプロムジカを思わせます。
2群の鈴木輝昭「赤と黒」は精緻なサウンドとリズム、宗左近の世界に幻惑・魅了されました。
…君たち、来月京都の全国大会に出場しても金賞確実だよ!

新潟市立小針中学校合唱部はプーランクと鈴木輝昭「万葉恋歌」から2曲を立派な声で。

伊勢崎市立第三中学校合唱団は三善晃「のら犬ドジ」から2曲をソリスティックなピアニストと、ドラマ性豊かに演奏。

名古屋市立萩山中学校合唱部は信長貴富「なみだうた」から3曲をリズム軽めに心地良く、共感度高めに演奏。

高松市立屋島中学校合唱部は昨年のTICC課題曲である千原英喜「あかあかや」をしっかり考えられた演出付きで演奏。

武庫川女子大学付属中学校コーラス部は澄み切った等身大の発声。
三宅悠太「~序・泣いているきみ~」はその透明さ、音響への優れた感覚に惹かれました。

北見市立北光中学校合唱部は17名による木下牧子「ほたる たんじょう」がこの団体ならではの音がして、会場全体がぐっとステージに集中します。
同「小譚詩」はピアノに乗ってさらに声が出ていました。

香芝市立香芝北中学校合唱部は横山潤子「妖精の市場」から2曲、この作品の運動性を共感を持って演奏。

国府台女子学院中学校合唱部は三善晃「動物詩集」3曲を指揮、ピアノ、合唱がそれぞれ独立するように演奏。
合唱はステージいっぱいに広がり指揮を見ず、前だけを見ます。
できればそのスタイルが個々の表現にもう一歩役立っていれば…と思いつつ。
しかし、その心意気買います!

郡山市立郡山第六中学校はプーランク「小さな声」の5曲。
透明な声と雰囲気、同「Ave Maria」は良かった!

北斗市立上磯中学校合唱部は木下牧子「小譚詩」、鈴木輝昭「都の春」、聴き入ってしまう「語り」の巧さがある不思議な団体。

高知学芸中学校コーラス部は信長貴富「百年後」を伸びやかに想いを込めて演奏。

山鹿市立山鹿中学校合唱部は信長貴富「コルシカ島の2つの歌」から1曲となかにしあかね「サンタ・マグノリア」。
圧倒するような声ではないですが、音楽に動きがあり、曲を理解した静けさがありました。
雰囲気がとても良かった!

大妻中野中学校合唱部、最大人数95名。
しかし三宅悠太「にじのうた」は大人数に頼らずダイナミクス、表現の階層が実にきめ細やか。
実声、息交じりの自在な、詩への深い共感ある歌はどこまでも広がり、この日初めて背筋がゾクゾク。
横山潤子「たましいのスケジュール」は歌の説得力がもはや別曲で後半に涙。
観客を魅了する力を持った指揮者:石山明先生に一般団体を振ってもらいたい!
個人的観客賞決定でこの日1枚だけCDも購入!

 

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小城市立三日月中学校合唱部はコスティアイネンの2曲。
この曲の音響を時に4群になったりしてしっかり。
あ、樋口久子先生は、本来顧問の伊東先生がご懐妊のためのピンチヒッターということ。
中学校に異動されたわけではありません。

安田学園安田女子中学校合唱部は松下耕「音戸の舟歌」。
民謡らしさとコンクール合唱からの逸脱との兼ね合いって難しいなぁと思いつつ、素晴らしいソリスト! 「あの子、きっと民謡を別に学んでいるよ!」と仲間内でも評判でした。
掛け声も良かったです。

出雲市立第三中学校女声合唱団は信長貴富「あんたがたどこさ」と松下耕「新居の麦打唄」を演奏。
透明な、とにかく好感が持てる声!
吉川里美先生の「貴方達は、もっと気高く美しいはずなのよ」という信頼と期待に応えた声。
指の先まで気を遣った美少女感あふれる声!

伊勢市立五十鈴中学校合唱部は信長貴富「フォルテは歩む」から4曲。
ややその世界は小さめだが、リズム、サウンド、表現の変化が明確で曲ごとの性格を際立たせ。
ピアニッシモの美しさ、最終曲では少し涙腺に。

熊本市立帯山中学校合唱部は鈴木輝昭「梟月図」から2曲、この作品特有の音響をしっかり。

二本松市立二本松第一中学校合唱部のエベン「永遠の美容法」から3曲は、過去に聞いた演奏と、このテキストの面白さからは、もう一歩演技を…と思わせながら、良くまとめて整っていました。

さいたま市立宮原中学校女声合唱団は信長貴富「月色の羽音-歌のゆくえ-」、全体では同じことの繰り返しに聞こえてしまう箇所もありましたが、各部の表現もしっかり、声と歌に深い説得力。

会津若松第四中学校合唱部は西村朗「妻への挽歌」は全フレーズに見事な歌がある!それはフレーズの分解能力が高いということ。
さらに全体のテンション設計、構成も良く、熱過ぎない良い塩梅でした!

 


・・・以上27団体の感想でした。


混声・同声とも、プーランク、または三善晃先生のようなフランス音楽の系譜の曲を演奏した団体は、どうも音楽が重たかった。
「心を込めて」教の信仰のためか、テンポが遅いことが多く、音符が全て等価でベターッとして、フレーズに軽重が無い。
合唱作品だけじゃなく、プーランクの室内楽作品などを聴いて欲しいなあと思いました。

「中学生らしい選曲」とか「等身大の選曲」なんて言葉は嫌いだし、どんどん背伸びして大人なテキストの作品とか、海外作品にチャレンジして欲しいと思うんだけど。
でも、そういう作品を演奏する団体の多くは、やはり表現がステージ上だけに留まっている印象。
一言で済ましてはいけないんでしょうけど、やはり先生が「その作品の魅力」を生徒に伝えきれていないのでは?という気がしました。
だからこそ、シュミットを演奏した星が丘や、ブストを演奏した郡山第一の素晴らしさが際立ったのですが。

それでも以前とは違って全団体、最後まで聴けたのは、中学生が共感を持って歌える作品が増えたこと。
いわゆる「コンクール向け」に作曲されたような作品が時間によって淘汰され、良曲が残ったこともあるかな。
特に、今まであんまり聴いていなかったけど、横山潤子先生の作品がとても良かったです。
あの年代にふさわしい、運動性ある曲想と共感できるテキストの選び方と旋律。
壮年のハイアマチュアが演奏しても出せない、中学生だけが演奏して出せる魅力があるのでは。

…ということをコンクール後の打ち上げで知人に話したら
「それももちろんだけど、信長貴富先生の存在も凄く大きいよ」と。
そりゃそうだ!
我々合唱人は、信長先生という作曲家が生まれて、今もなお優れた作品を生み出し続けてくれることに感謝しなければいけないな・・・。


そんなこんなで6年ぶりに聴いた中学校部門の全国大会でした。
次回は6年よりもう少し短い間隔で聴けますように。

 

そして、全国で合唱に関わる中学生が永く歌い続けてくれることを、また歌わなくなっても合唱を好きであり続けてくれることを願ってやみません。



(おわり)