観客賞スポットライト 大学ユースの部 その4

 

 

 

 

天開山泰運寺・八角銅鐘と天に登るような雲(松坂市)
提供:三重フォトギャラリー

 

今回は昨年初出場、大学ユース部門最初の出場だった団体から。

 

 

 


7.広島県・中国支部代表

酢だこ

https://twitter.com/Chor_Sudako

(混声32名・2年連続出場)

 

なんとも変わった団名のこのユース団体。
設立した大学生:中川太智、通称タコスさん。
彼のあだ名をリスペクトして、団体名は「酢だこ」と名付けられたそう。

昨年は初出場、大会最初の団体というプレッシャーに負けず

 

自由曲:信長貴富「初心のうた」「泉のうた」。
中高生とは違う経験などいろんなものを重ねてきて
深みがある演奏になっている。
課題曲にも思ったけど、等身大の演奏なんですよ。
とても共感を込めて歌っている。


初出場とは思えないほど肩の力を抜いた且つ堂々たる演奏。
パートの統一感も良くてすっきりした響きだし表現がよく練られてる。
比較的少人数でもホールを味方に付けてるので声量負けしてない。


とても良かった。
G3はパート間を行き来する旋律の受け渡しが自然で、フレーズ感や息の繋ぎ方も絶妙。
何より、自由曲含め、詩が切々と伝わってくる演奏だった。

……などと大変好評でした。

 

 

酢だこさん、今年の演奏曲は

●課題曲
G1 Gaude virgo, mater Christi
Josquin des Prez 曲

 

●自由曲
「Leonardo Dreams of His Flying Machine」
(レオナルドは空飛ぶマシンを夢見る)
E.Whitacre 曲


そのタコスさんこと中川さんからメッセージをいただきました。
 

2020年3月、広島県でこれまで活動していたユース合唱団「ひかりカレッジクワイア」に続く団体として、指揮者の縄裕次郎さんと共に酢だこは結成されました。
結成の中心となったのは広島大学に通う現在の4年生であり、その団員が卒業するまでの3年間という期限付きで発足しました。今年は2回目のコンクールの出場ですが、活動最終年となります。
初ステージとなった昨年度のコンクールでは、それまで抑圧されてきた我々の合唱活動に別れを告げ、希望を持った活動となるよう、祈りを音楽に乗せて昇華することを目指して選曲しました。
初出場のコンクールでしたが、全国大会に推薦されることとなり、全国の皆様へ酢だこサウンドを紹介することができました。

今年は、昨年と異なり、外国語の作品を選曲しました。
課題曲はルネサンス期を代表するジョスカン・デ・プレ自由曲はアメリカの現代作曲家であるエリック・ウィテカーの作品を携え全国大会のステージに立ちます。
限られた活動期間の中で、私たちのサウンドをどこまで磨くことができるか、第2期の団員とどんな曲が演奏できるか、あらゆる可能性を探るために、昨年度とは大きく異なる選曲になりました。

さらに、第2期となる今期は、指揮者も新たに広島を中心に活動されている寺沢希先生をお呼びして、昨年とは違う酢だこの新しい音楽の側面を引き出していただきました。
いろんな指揮者との出会いが私たちの合唱の視野を広げてくれました。

最後に、酢だこは今年で活動を終えますが、これからも広島県でユース合唱の高みを目指す合唱団へエールと希望を込めてこのメッセージを締めさせていただきます。

 

なんと、これが最後のコンクールなんですか!
元々期限付きの活動ということでしたら、残念ですが仕方が無いですね。
酢だこさんの活動に惹かれるのは、指揮者に寺沢希先生をお呼びするだけではなく。
課題曲も邦人曲からG1のルネサンス期の音楽。
自由曲も信長貴富先生からウィテカーの作品へと大胆な選曲をされていることです。
「Leonardo Dreams of His Flying Machine」、レオナルド・ダ・ヴィンチが生きた時代に呼応したためか、ルネサンス後期、バロック的な修辞法が使われ、そこにウィテカーらしい調性感のあるクラスター和音が鳴り響きます。
ハリウッド映画のようなドラマ性を持つこの作品を、酢だこのみなさんはどこまで飛翔させてくれるか?!

 

 

最後に演奏会の宣伝をさせていただきます!

『酢だこ 最初で最後の演奏会』

●日時:2023年2月19日(日)14時開演

●場所:東広島芸術文化ホールくらら

●入場無料!(当日券あり)

●指揮者
縄裕次郎(第1期指揮者)
寺沢希(第2期指揮者)
中川太智(団内指揮者)

3年間の酢だこの活動を締めくくる集大成です!
ユースのメンバーとやりたい曲を詰め込んだパワフルな演奏会を目指して練習中です!コンクールとは違った私たちのサウンドを聴きにぜひお越しいただければ、と思います。

そしてそして!!

ラストを締めくくるコンサート、オンステ団員も大募集中です!
酢だこのラストステージを一緒につくりましょう!お問合せ、お待ちしております!

 

酢だこさんの集大成を目撃したい方は、2月19日、ぜひ東広島芸術文化ホールくららへ!

 

 

 

 


続いて前評判が高い初出場のユース団体です。

 

 

 


8.神奈川県・関東支部代表

湘南ユースクワイア

https://twitter.com/syc_official_

(混声41名・初出場

 

初出場おめでとうございます!

 

湘南ユースクワイアさんの指揮者は合唱団MIWOさんなどで指揮をされている岩本達明先生。
以前から関東支部大会で優れた演奏をされているという評判でしたが、今年満を持しての初出場ですね。
YouTubeで演奏を聴かせていただき、若々しさの中にキラリと知性が光るような演奏ばかりな印象。今回の演奏も楽しみです。

 

団員さんからメッセージをいただいています。

 

はじめまして、湘南ユースクワイアです!
私たちは、大学生から若手社会人までを中心に、神奈川県の湘南地域で活動するユース合唱団です!
2015年、関東大会5位金賞。湘南高校の2度目の挑戦でこの賞をいただけた感動と、あと一つのところで全国大会に進めなかった悔しさをルーツとし、2017年、当時の仲間が集まって活動を始めました。初舞台は湘南高校のサマーコンサートにお邪魔して8人で歌った『どんぐりのコマ』(詩:高田敏子、曲:三善晃)、その年のコンクールは県大会奨励賞というスタート。それから運営面でも練習面でも手探りで経験を積んでいき、共に歌う仲間も増え、「湘南高校のOB団体」から「出身校を問わず、歌を愛する神奈川の若者が高校卒業後も合唱を続けられる場」へと成長中です。

 


なるほど、まだ結成して5年ほどなのに驚くほどの急成長ぶりですね。
湘南ユースさんの演奏曲は

 

●課題曲
G2「Es ist verrathen」(「Spanisches Liederspiel(スペインの歌遊び)」から)
Robert Schumann 曲

 

●自由曲
「立ちつくす-混声合唱とピアノのための-」
長田弘 詩/三宅悠太 曲

こちらはどんな意図があって選ばれたのでしょうか?
湘南ユース技術系の方からお答えいただきました。

 

シンプルに曲の良さに感動し、自由曲を選曲しました。
はじめは手探りで練習していましたが、だんだんと底知れない曲の魅力に気づいていきました。
三宅悠太さんは、東日本大震災の渦中にこの詩に出会って曲を紡いだそうです。「祈ること」に象徴される無力感、「朝の空」に見出す不確かな期待感……震災のような災禍を経てなお、「一日がはじまる」その様は、無常とも愛情とも受け取れます。
劇的な詩情は等身大の苦悩でもあり、最後の

 ここに立ちつくす私たちを、
 世界が、愛してくれますように。

という祈りは、練習を通して徐々に私たち自身のものになっていきました。これらの言葉の上で壮大に展開する音楽のドラマに注目してお聴きください。
また、自由曲の魅力を最大限引き出すには、一人一人が声楽的に歌えることがとても大事であり、課題曲にはそれに正面から向き合えるG2を選びました。


全日本合唱コンクール全国大会出場は発足当時からの悲願であり、新たな挑戦の場でもあります。
課題曲では楽しげな雰囲気と歌詞の可笑しみを、自由曲では私たちの等身大の「ドラマ」を、皆様に感じていただければと思います。
湘南ユースらしい音楽を届けられるよう頑張ります!

関東大会の演奏終了後に撮影されたものということ。

 

ありがとうございました。
絶望の中に立ちつくす普遍的な人間の祈りが描かれた自由曲。
曲へ取り組むうちに、作品の魂が湘南ユース団員さんへどんどん入っていく過程を見るようです。
長田弘氏と三宅悠太先生の作品は他に「遠きものへ──」もあり、そこで三宅先生は「まえがき」でこう書かれています。

 

2015年に逝去した詩人、長田弘氏の全集を手に取り、詩の一作一作と改めて向き合っていると、全体を貫く“ことば”への哲学の存在を感じずにはいられない。そして、言葉を持たないものたちが語る言葉に耳を傾けること――このテーマを通して、絶望し立ちつくす私たちに一筋の光や示唆を与えてくれる存在として心に迫ってくる――。

 

言葉を持たないものたちが語る言葉に耳を傾ける。
楽譜を読むだけではなく、歌うことで生きた音楽にすることも、言葉を持たないものたちの語る言葉を掬い上げる行為に繋がっている気がします。
世界の大きさと無常の中から生まれた「祈り」。
湘南ユースのみなさん、ひとりひとりの真摯な祈りが私たちの声なき声と通じ合い、救ってくれるような、そんな音楽になりますように。

 

 

 

(次回に続きます)