観客賞スポットライト 室内合唱の部 その5

 

 

青山高原(津市)
提供:三重フォトギャラリー

 

全日本合唱連盟から出演スケジュールが発表されましたね。

 

今年は表彰式の復活が喜ばしい!

 

 


今回は室内合唱部門、最後の2団体です。
毎回客席を湧かせる人気の団体と言えば?

 


9.京都府・関西支部代表

アンサンブルVine

http://yumemirusakana.sakura.ne.jp/chorus/play-list/vine.html

(※上の団名リンクはVine指揮者:伊東恵司さんのHP
「~目をひらく 耳をすます つぶやく~」内のものです)

(混声24名・10大会連続出場・第57回大会以来17回目の出場)

 

課題曲を含めた、それぞれスタイルの違う4曲で、演奏会の1ステージのような華やかな世界を繰り広げてくれるVineさん。
昨年は金賞、そして観客賞でも女声合唱団ソレイユさんと同票の第1位と、実力と人気も高い団体です。

 

課題曲G1は熱さもあって強い説得力を感じる
とても良い演奏だったと思います。
自由曲1曲目
Orbán György「Elefánt voltam
(私はかつて象であった)」
 リズムと旋律をなんと軽やかに
 お洒落に演奏されることか!


2曲目のVytautas Miškinis
「Tenebrae factae sunt
(地上は暗闇となった)」
ハーモニーが巧みで和声感があって、
色彩もわかりやすく、
曲の良さを伝えてきた。


3曲目のJake Runestad
「Alleluia」もさすが!
ハンドクラップがこなれているだけじゃなく、
こんなに楽しげにふつう歌えないですよ! 
こんなん拍手するしかないじゃん。
全4曲のプログラミングが本当に絶妙!

……と大変好評でした。

 

団員の藤森さんからメッセージをいただきました。

 

みなさまこんにちは!アンサンブルVINEの藤森と申します。
今年は三重県での全国大会ということで、愛知県在住の私としては近場で楽!笑 音響の素晴らしいホールですし、ぜひ日本中からご来場ください。交通の便はあまりよろしくないので、下調べもしっかりと…

さて、課題曲は相変わらずのG1。ジョスカンの作品に取り組むことはパレストリーナを演奏するのとは違う難しさがありますね。様々なアプローチがあると思いますが、伊東さんの考えるVINEとしての演奏、楽しみにしていてください。

自由曲は今年も3曲。まずは
「Riant du ciel et des planètes(空と惑星たちを笑う)」(曲:F.Poulenc「Figure humaine」より)

20世紀最高峰の作品である人間の顔を!24人で…笑
第二次世界大戦下に書かれ、ピカソに献呈された作品の5曲目にあたるこの曲は、かしこぶってる人や権力者を皮肉る内容を極めて速いテンポで演奏します。小品ですが、プーランクの魅力が詰まった作品です。

2曲目は
「There Will Come Soft Rains(やさしく雨は降り始め)」(曲:Ēriks Ešenvalds)

ラトビアの人気作曲家の作品。VINEでバルセロナの世界シンポジウムに参加した際、あるセミナーで本人指揮による自作自演を聴講したことを思い出します。JCAユースに来日できなかったことは残念でした。
こちらは、第一次世界大戦後に書かれた詩。破壊行為によって人類がいなくなった大地にふりそそぐ優しい雨を、儚くも美しい音で描きます。

そして最後は
「Sing a song of sixpence(6ペンスの歌を歌おうよ)」(編曲:John Rutter)

マザーグースを原曲とする作品で、軽快で可愛らしい!そろそろ動き回りたいなぁ、と思いますが、まだ難しいので、こっそり動きます笑
振り落とされないよう頑張るので、疾走感のある演奏を楽しんでいただけたらと思います!

ぜひ、応援してください!

 

 

藤森さん、ありがとうございました。
Vineさんの課題曲がG1なのは定番で、他の団体とちょっと違う味付けをされるのが面白いですね。
……とか書きながら昨年のシュッツは本当に真正面からの熱い演奏で、それも実に良かったのですが。

最初に書いたようにVineさんのプログラミングは絶妙。
今年もプーランクの「人間の顔」とは意外でしたが、エリュアールの詩は戦争を行う政治家たちを皮肉り。
2曲目の「There Will Come Soft Rains(やさしく雨は降り始め)」は詩の「And not one will know of the war, not one Will care at last when it is done.(戦さを知るもの、ひとりとてなく、そのいつ終るとも、知る者ついになし)」は優しい雨に濡れる動植物の姿と戦争後の荒廃を対比させるようで、2曲の流れが現在の世界情勢から考えられた、とてもメッセージ性を感じさせる選曲だと思いました。
最後の「Sing a song of sixpence(6ペンスの歌を歌おうよ)」が明るく軽快で救われますね。

「振り落とされないよう頑張るので、疾走感のある演奏を楽しんでいただけたらと思います!」

コンクールを忘れさせると評判のVineさんのステージ。
みなさん、これはライブです!大きな拍手で出迎えましょう!!

 

 


室内合唱部門、最後は初出場の混声合唱団です。

 

 

10.千葉県・関東支部代表

AF合唱団
(混声20名・初出場


初出場おめでとうございます!

YouTubeでAF合唱団さんの演奏を聴かせていただいたのですが、若い団体の印象なのに良く練られた歌唱と叙情性、1曲全体を見通した構成力に惹かれ。
三善先生の「かどで」も良かったですが、「Deus, qui illuminas」(Dominguez)は良い曲を良い演奏で知ることが出来た!と嬉しくなりました。

 

団名の意味は?どのような経緯で創団されたのか。
指揮者の石橋遼太郎先生からメッセージをいただきました。

 

 

2019年に私と同世代の友人によって設立され、団員が一緒に歌いたいお友達を呼んでくる形で規模を広げています。
団名は「Artistic and Fantastic」の頭文字から取っており、芸術的な素晴らしい音楽を生み出そうという思いなどから名付けました。

 

「Artistic and Fantastic」!
なるほど、いったいAFとは……と疑問に思っていたのでお答えいただき良かったです。

うーん、Fantastic!
(団員さんのお話によると、同世代でとても仲が良い団とのこと)

 


AF合唱団さんの演奏曲は

●課題曲G1
Gaude virgo, mater Christi
Josquin des Prez 曲

●自由曲
混声合唱曲集「優しき歌」より
1.爽やかな五月に
2.さびしき野辺
詩:立原道造 
曲:小林秀雄

課題曲にジョスカンを選ばれる意欲の高さ。
そして自由曲に不朽の名作「優しき歌」を選ばれたことに少し驚きました。
石橋先生は1994年生まれ。
若い方が1967年に出版されたこの曲を選ばれたのはどんな理由があるのでしょう?

 

課題曲にはG1を選曲しました。
選曲理由としては特に「音楽が自然的にもつ旋律の運動を美しく歌うトレーニングになる」点が大きいです。
ルネサンス期の音楽には現代音楽のような強弱や表現記号などが楽譜に書かれていないからこそ、音楽が根源的に持つ「形」を合唱団が自発的に考えながら探る経験ができると思い、選曲しました。

自由曲には小林秀雄「優しき歌」より2曲を選びました。
この曲集の終曲「また昼に」は私が高校2年の頃、Nコンの自由曲として取り組んだことがある曲で、恩師である当時の合唱部の顧問(国語教師)の指導で、詩の表現に強いこだわりを持って演奏したことが良い思い出でした(恩師が若かった頃、古本屋で立原道造のこの詩集を手に取り、涙を流したというエピソードは今でも印象に残っています)。
それから10年以上が経ち、現在指揮者になって改めてこの作品をもう一度作り上げたいと思い、この度選曲しました。
弦楽器のコンチェルトの様な、いわば「声のオーケストラ」とも言えるこの曲集は、室内合唱部門の人数で取り組むにはとても重厚な曲で、それなりの覚悟を持って選曲しましたが、表現にこだわりを重ね、なんとか全国大会という舞台で演奏ができることを嬉しく思っています。

ここまで述べた通り、AF合唱団は「言葉がもつエネルギーを自然な旋律の形に描くこと」を大切に音楽作りをしています。
全国大会は上位大会もなく、真の意味でプレッシャーなく自由に演奏ができる場ではないかと楽しみにしています。
自分達が美しいと思う音楽を信じて歌いますので、ぜひ聴いていただけますと幸いです。

北とぴあ合唱フェスティバル(荻久保先生の指揮で「しゅうりりえんえん」を演奏)の時に撮影とのこと。

 

石橋先生、ありがとうございました。
課題曲をまさに合唱団に与えられた「課題」に、成長の糧として取り組む姿勢は素晴らしいですね。
「優しき歌」は絶版になった楽譜を、都立八潮高校教諭の平松剛一先生が倉庫で6部だけ見つけ、1980年のNHK全国学校音楽コンクールでの名演から全国に広まったという話があります。
石橋先生も高校生の時に歌われたそうですが、若い方の琴線に触れる立原道造の詩と、小林秀雄先生の音楽の組み合わせから生まれた傑作。

全国大会は上位大会もなく、真の意味でプレッシャーなく自由に演奏ができる場ではないかと楽しみにしています。

こちらのお言葉も、勝ち負けだけでは無くこの演奏が良かった!と、観客が言い合うコンサートのようなコンクールになって欲しいという私の願いとも重なり、とても嬉しくなりました。

記念すべき初出場のステージ。
石橋先生とAF合唱団さんの、日本語の優れた扱いと若い感性で、この作品から新たな魅力を引き出していただけることと期待しております。

 


(同声合唱部門へ続きます)