観客賞スポットライト 混声合唱の部 その3

 

 

 

とことめの里(津市)
提供:三重フォトギャラリー


今日は2団体をご紹介します。
今回も凄い委嘱曲を持ってこられた団体とは?


6.東京都・東京支部代表

あい混声合唱団

https://twitter.com/ai_kon

(混声57名・3年ぶり・第67回から3回目の出場)


指揮者は室内合唱部門の「ゆめの缶詰」さん、同声合唱部門の「mokumé」さんと計3団体を振られる相澤直人先生。

3年前の感想は

 

課題曲G4、
言葉のニュアンスが素敵でした。
溶け込ませるテノールにうっとり。
全体に優しさがあふれていました。


委嘱曲の自由曲:土田豊貴作曲
「立ちつくす~混声合唱と2台のピアノのための~」は
凄いというか、凄まじいというか……。
ピアノと合唱が響き合う世界。
作品としての説得力があって。
団員さん全員からの
強い願いと祈りに圧倒されました。


大迫力の祈りに圧倒された…
最後に歌われた愛への祈りは、
本当に神に受け入れられたと思う

……と好評でした。

あい混さんの演奏曲は

●課題曲
G4 智慧の湖
高橋元吉 詩
根岸宏輔 曲

●自由曲
「混声合唱とピアノ連弾のためのアモール・ファティ」より「アモール・ファティ」
黒田三郎 詩
宮本正太郎 曲


今回も凄い委嘱作品を持ってこられたそうです。
団員さんからメッセージをいただきました。

 

京都の地で、〈立ちつくす~混声合唱と2台のピアノのための~〉を演奏した日から3年。再び全国大会出場の推薦をいただき、特別な曲を特別な場で演奏できることを嬉しく思います。
今年の自由曲〈『混声合唱とピアノ連弾のためのアモール・ファティ』より「アモール・ファティ」〉は、昨年の朝日作曲賞受賞者である宮本正太郎さんへの委嘱作品。
実は、あい混の団員でもある宮本さん。受賞直後、相澤先生から「来年のコンクール自由曲を」と声をかけられたといいます。器楽を専門としていた宮本さんに対し与えられた曲のイメージは、ラヴェルによる管弦楽曲『ラ・ヴァルス』。イメージにふさわしい詩『アモール・ファティ』と出会い、この作品は誕生しました。
「アモール・ファティ(運命愛)」とは、ニーチェの提唱した哲学用語。その意は、「運命のあるがままを受け入れたとき、そしてそれを愛したとき、人は本来の創造性を発揮できる」というもの。黒田三郎がこれに強い憤りを覚えて書いた詩が、本作品のテキストです。
作品の最大の特徴は、「オーケストラのような音を目指して書きたい」という作曲時の思い。実際、声部に器楽的な要素が多分に含まれており、歌と器楽とのバランスを保つために打楽器も取り入れられています。
静寂から始まる音楽は徐々に輪郭を見せ始め、エネルギーを持って前進。音の重なりや無声音による音像が混沌を表現し、憤りが頂点に達すると、はじめに歌で示された旋律がピアノで内的に再現されます。一度落ち着いたかと思われた中から新たな動機が提示され、感情の深さを思わせる大きなうねりとなって現れます。これまでの流れをまとめていくようなオアシスを経て、「アモール・ファティ」と力強く放たれるラストまで一気に駆け抜けます。
情感溢れる言葉の連続である詩、合唱でありオーケストラのようでもある作品、二人の素晴らしいピアニスト、合唱とピアノと打楽器とが混然一体となった空間……。たくさんの点に注目していただきながら、歌であり音響体である宮本作品の世界を肌で体験していただければと思います。

「アモール・ファティ」初演の演奏会後に撮影とのこと。
(c)Studio Symgraph

 

ありがとうございました。


課題曲F4の作曲家:宮本正太郎先生はあい混声合唱団さんの団員でもあるとか。
室内合唱部門のゆめの缶詰さん、同声合唱部門のmokuméさんも課題曲に宮本先生作曲のF4「定点観測」を選ばれたことから思いの深さと強い繋がりを感じます。
共演者もピアニストにVocal ensemble capellaの渡辺研一郎先生、さらに作曲家の松本望先生の連弾という豪華さ!

メッセージによると、詩はニーチェ「運命愛」に対する黒田三郎の憤りということ。
「運命愛」という言葉自体を理解するのも難しいのですが(黒田の詩はポリアンナ症候群への揶揄?と一瞬考えたのですが、おそらく違いますね)、宮本先生がこの詩を選ばれたのは、現代でともすれば冷笑的になり悪い方向へ進むのを受容してしまう多くの人々への警句でもあるのかな、と。
腹をたてまいがためにだけ / amor fatiとつぶやくことが / それが /僕の運命を台なしにしてしまったことを

「アモール・ファティ」、YouTubeで演奏会の初演を聴かせていただいたのですが、甘美な合唱の響きにハーモニックパイプ、レインスティックなど楽器の音が重なり、心を揺り動かす旋律と印象的なピアノ連弾と、確固たる世界を創っておられました。
全国大会では楽譜に変更点があるらしく、ホールならではの音響現象、「歌であり音響体である宮本作品の世界」がとても楽しみです。

今大会で相澤直人先生はあい混さんを入れて3団体を指揮されます。
3団体ともレベルが高い東京都大会の代表で、これは本当に凄いこと。
「相澤旋風」と名付けられるほどの勢い、こういう「ノッてる」指揮者、団体の演奏は聴いていて活力を与えられることが多いんですよ。
新たな合唱音楽の提示、そして新時代の中心になるであろう相澤先生の音楽に大期待です!

 

 


続いてこちらも委嘱作品を自由曲にされた団体です。


7.愛知県・中部支部代表

岡崎混声合唱団

https://twitter.com/okazakikonsei

 (混声64名・3年ぶりの出場・第57回大会以来15回目の出場
 岡崎高校コーラス部OB合唱団も含めると
 第49回大会以来17回目の出場)

母体は今年も全国大会へ出場された岡崎高校コーラス部という実力合唱団。
3年前の感想は

 

課題曲G2、
がっちりとした声で
シンフォニックな響きが
曲と合っていました。

自由曲:三善晃「五つの童画」より
「4.砂時計」「5.どんぐりのコマ」。
非常に安定した音運びでした。

OB合唱団ではあるけれど、
OB合唱団には無い、
響き、たたずまいがある団だと思って。

……と好評でした。

今回の岡崎混声さんの演奏曲は
●課題曲
G2 Es ist verrathen(「Spanisches Liederspiel」から)
Emanuel Geibel 詩 
Robert Schumann 曲

●自由曲
混声合唱のための「Anthology」より
(金丸桝一 詩)
3. 星のない夜(及川 均 詩)
5. 本を閉じてまた(木島 始 詩)
作曲:信長貴富

「Anthology」は岡崎混声合唱団・岡崎高校コーラス部さんの委嘱作品。
今回、この選曲に至ったのはある詩人の存在があったからとか?

団員のHBrさんからメッセージをいただいております。

 

皆さまこんにちは、岡崎混声合唱団です。
自由曲では、信長貴富先生に委嘱・2016年3月に初演した『Anthology』から3曲演奏します。

私たちは信長先生の作品を折に触れ取り上げており、今年2022年3月には演奏曲目全てを信長先生の作品で構成した定期演奏会を開催しました。このとき演奏した金丸桝一の詩による「そうそうと花は燃えよ」について、信長先生は「この世に生きて存在することの意味を、金丸は詩の中で問い続けている。問い続けること、喜びや悲しみをうたい続けることへの、 高らかな決意である」と記していらっしゃいます。金丸さんと信長先生お二人の壮絶な魂の込められた「そうそうと花は燃えよ」に取り組む中で、同じお二人による「序」で始まる『Anthology』を再演したいという思いが募りました。
「序」では金丸さんの随筆から採られた4行の詩から胸苦しく循環する想いに締め付けられ、続く「星のない夜」では「自分だけが生きていてよいのか」という自責の念に駆られます。この2曲は言葉にならない呻きや叫びがヴォカリーズや擬音語となり、激しい音のぶつかり合いを生みます。
そして3曲目は「本を閉じてまた」。言葉の持つ力を信じ、焼け野原に再び芽ぶく日が来ることを信じる詩人の静かな、しかし力強い祈りを歌います。終盤には鳥の声が登場します。(今回は演奏しませんが、)「本を閉じてまた」の前に置かれた「空に小鳥がいなくなった日」でいなくなってしまった鳥がまた出てきてほしいという願いを込めたと信長先生から伺いました。鳥の声に平和への祈りを託したいです。

初演当時と比べて作品の持つ意味がより一層重くなったように感じます。団員の入れ替わりもありましたが「訴う歌」を追求する姿勢は変わらずに演奏に臨みます。多くの方の心にお届けできればと願います。

今年3月の定期演奏会にて「そうそうと花は燃えよ」演奏時の写真ということ。

 

HBrさん、ありがとうございました。
金丸桝一の詩による「そうそうと花は燃えよ」は全国大会でも、女声版を島根の女声合唱団フィオーリさんが2019年に演奏されていますが、なるほど惹きつけられる詩で、同じ信長先生が作曲された作品を!と求められる気持ちに共感できます。

YouTubeで岡崎混声さんの「Anthology」全曲を聴かせてもらったのですが、最終曲「本を閉じてまた」の鳥の鳴き声、詩には無いのに?と思ったら、HBrさんが書かれるように前曲「空に小鳥がいなくなった日」を受けたものだったんですね。
消えた鳥たちの鳴き声が、最後にまた甦る。
戦争へ傾く日本を題材にした曲集の最後に、本を開くこと、学ぶこと、人間への信頼と希望が鳥の声になったようでとても感銘を受けました。

HBrさんによると信長先生の混声合唱組曲「春のために」の終曲「青年に」でも同じ調性でやはり鳥の声が登場するそうです。
先日聴いたラトヴィア放送合唱団演奏会の最後に演奏されたヴァスクス「私たちの母の名(Musu masu vardi)」でも終盤に美しく鳥の鳴き声が響き渡り、環境やモラル崩壊への危惧、悲しみを浄化するような印象を受けました。
晴れた日に公園や街路樹の下を歩くと、風に乗って鳥の鳴き声が聞こえてくることがあります。
銃声や爆撃がある世界ではきっと聞こえてこない音。

「訴う歌」を追求する姿勢は変わらずに演奏に臨みます。

岡崎混声さんの「訴う歌」が会場の人たち、さらに外の世界へ大きく広く届くものになりますように。

 

(次回に続きます)