総社にある合唱団こぶさんのコンサート、名称「こぶこん'26」に行ってきました。
今回で19回目となる演奏会。
これが前回聴いたときより進化していたのはもちろん、市民合唱団の在り方として大変学びになる演奏会だったので、どんなものだったか記していこうと思います。

3月8日(日)開演14時 総社市民会館1階席は649席(車イス席6席を含む)、2階席が353席。
2階席は見ることができませんでしたが1階席はほぼ満席(註・大山先生によると来場者数は《800人》だそうです。凄い!)。
市民会館は1973年に完工された歴史ある建造物、ホール内もアシンメトリーな構造が昭和のモダン建築を思わせます。
この日の会場係は高校生たちで、気持ちの良い挨拶をしてもらいました。
指揮者・大山敬子先生が主宰されているSKYM合唱塾(総社・清音・山手・真備の地域)関係の高校生でしょうか。
部活の地域展開が進んでいく中で、若い合唱人を育てるものとして重要な意味を持っている活動だと思います。
「合唱団こぶのファン」と語る総社市長・片岡聡一氏の挨拶から始まり。
緞帳が上がり「オープニング」と題した松下耕「俵積み唄」というジャズの香り漂う、ノリ良い民謡素材の曲からスタート。
この日の合唱団こぶさんは女声30名、男声16名の計46名。
他のホールで聴くこぶさんとは明らかに違う、鳴りの良さと伸びやかな音の広がり。
なるほど、この総社市民会館がこぶさんの「ホームグラウンド」なのだな、と実感します。
続いて第1ステージは「コンクール報告演奏」として、昨年の佐賀全国大会でも披露した萩原英彦「秋の午後」と瑞慶覧尚子「約束」を。
コンクールの課題曲と自由曲。
どちらも邦人の日本語作品で、いわゆる「合唱好き」に向けた真面目なレパートリー。
言葉を大切にした演奏、というよりさらに一歩踏み込んで「伝える」ことに意識的というのが第一印象でした。
この「伝える」という言葉は、演奏会の最後まで何度も思い返すことになりました。
第2ステージでは、空気がガラリと変わります。
おそらくプロアナウンサーと思われるベテランの女性(註・大山先生によるとアナウンサーは合唱塾でもお世話になっている中学校時代の教え子で、アマチュアの方だそうです)を司会に、岡山市生まれの新進作曲家・徳田旭昭先生と会話し、曲紹介や意図するところを観客にわかりやすく説明します。
このステージは徳田先生の作品と編曲を集めたもので、あいみょん「愛の花」の合唱編曲、語りと歌を交互に展開するソプラノ歌曲、動きや演出を伴う現代曲、そして「さとうきび畑」の編曲と、内容は実に幅広く。
さらに第3ステージでは女声による「おかあさんといっしょメドレー」。
子どもでも知っている歌が続き、会場の空気もぐっと柔らかくなり。
ある曲で、私の前の席に座っていた小さな女の子は、興奮を抑えきれない様子でステージを指さしていました。
合唱演奏会であまり見かけない光景ですが、この日の会場にはそれがよく似合っていたと思います。
途中、団員さんに先導され、就学前のお子さんが5人ほど登場し、合唱に合わせてダンス!
・・・いやぁ、年食うとこういうの弱いんですよねぇ(と、まぶたを押さえる)

もちろんそれだけでは終わりません。
プログラムに「お・た・の・し・み♡」と記されていた部分。
今度は男声合唱、大阪からの客演指揮者:高嶋昌二先生が軽妙な司会で笑いを取り。
ギャグソング「息子よ」「五段活用」と続け、客席を笑いの渦に。
高嶋先生が御歳70歳になられることに驚きます(会場からも「えっ」という声が)。
定番ギャグソング「五段活用」も、時代に合わせてアップデートしていて感心しました。
「ミャクミャクの〜五段活用〜♪」
さらにギター、ドラムもセッティング。
間をつなぐ高嶋先生の司会の妙技も素晴らしかったのですが、徳田先生がさりげなくピアノで奏でていたユーミンの「春よ、来い」のセンスにも唸りました。
そしてポップスのOfficial髭男dism「Universe」やユーミン「ひこうき雲」では、多くの人が静かに聴き入り。
こういうポップスステージで「悩むだろうなぁ……」と毎回思うのは選曲。
世代を超え、広く人気のヒット曲が生まれにくくなった現代で、「何を選ぶか?」は本当に難しい。
さらに時間の流れが速い現代では、ヒットしてから「合唱で歌おう!」とするも、ちゃんとした編曲から練習を経て披露したら、致命的に旬を過ぎてしまいます。
そういう面で2021年の「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争」主題歌である「Universe」や「ひこうき雲(1973年)」、更に言うならユーミン繋がりで「春よ、来い(1994年)」は良い選択だなぁ、と。
最後の第4ステージ「フィナーレ」では再び真面目な邦人合唱曲、きちんと「合唱作品」で締めくくられます。
高嶋先生が指揮をする三宅悠太「帰郷」。
続いて大山敬子先生がマイクを取り、一昨年の全国大会でも共演したチェリストの柳橋泰志氏が急逝されたことを告げて。
柳橋氏との思い出と、今から演奏する曲が追悼の意を込めたものということを、切々と語られる大山先生。
混声三部、チェロとピアノのための「にじ」。
誕生への祝福と、死を古い秩序に帰ることと捉えた「帰郷」と「にじ」を組み合わせたことに意味を感じずにはいられませんでした。
チェリストはおらず、ステージ中央にチェロだけを置き、「天国の柳橋さんと共演します」と。
「にじが にじが そらにかかって
きみの きみの きぶんもはれて
きっと あしたは いいてんき」
明るい曲調の中に込められた深い思い・・・。
大きな拍手の中、緞帳が下がり、こぶこんは終了しました。

振り返ると、この演奏会は本当に色々な示唆に富んでいます。
1)選曲の幅広さ
コンクール曲である邦人合唱曲からポップス、童謡、ギャグ曲まで、普通の合唱演奏会ではなかなか見ない並び。
また合唱だけでは無く、声楽曲、ピアノにギターとドラムを伴った作品と、合唱と同時に広く音楽の魅力を伝えるよう。
2)短い時間で区切り集中させる
「おかあさんといっしょメドレー」を除き、ほぼ2曲、10分未満を1単位とし、間を司会や指揮者のお話で繋いでいました。
スマホの登場で、長い時間集中することが難しくなった現代人。
ドラマや映画、音楽そのものも「短い時間で飽きられてしまう」事態に対抗するため変わろうとしていますが、合唱含むコンサートはなかなか変化が難しい。
「邦人作品の組曲全曲」にこだわらず、多くの人が集中できる短い時間で割り切ることの長所。
3)言葉で「伝える」こと
前述のようにプロフェッショナルな司会、さらに2人の指揮者、作曲家が適切な長さと話術で、端的に楽曲の紹介、この作品を演奏する意味を伝えておられました。
それは指揮者のお二人が元・教員ということも関係しているのかもしれません。
これら3点があるからこそ、総社市民を中心とした幅広い世代、合唱に興味が無い人たちにも合唱の魅力を伝え、楽しめる演奏会になっていたと言えるでしょう。
「合唱やろうぜ」は全日本合唱連盟が強く勧めるキャッチコピーですが、なかなか新規の「歌い手」を増やすのは難しい。
特に学校を卒業した成人ならなおさら。
しかし、こぶこんのような演奏会なら、たまたま訪れた合唱に興味が無かった人にも「お、合唱って意外と良いもんなんだな!」と思ってもらえるのでは。
それもまた重要で大切な「合唱やろうぜ」ですよね。
市民に支えられた、市民のための合唱団ということで、13年前に聴いた《大分市民合唱団ウイステリア・コール》の演奏会感想リンクも置いておきます。
こちらも合唱に限らず、幅広い音楽の魅力を伝える選曲。
そしてポピュラーステージに代表される「笑いと涙、もうひとつの大事なこと」はこぶさんにも共通すると感じました。
今回のこぶさんも、大分市民ウイステリアさんも、市民の声を大事にして、細かいところまで気を配り、何度も試行錯誤した積み重ねの集大成だということを改めて実感します。
https://bungo618.hatenablog.com/entry/20130627/1372290324
https://bungo618.hatenablog.com/entry/20130629/1372492413
《まとめとして》
自分も含めて。
合唱を取り上げるとき、言うならば高級フレンチみたいな合唱を話題にしがち、取り上げがち。
でも、必ずしも格調が高く無くても、言うならば地元で愛される洋食屋のような合唱演奏会も、とても重要で、大切にすべきだということ。
それは格調高い合唱や、市民に愛される合唱のどちらかを貶めるということでは無く。
格調高い合唱も、その音楽を本当に観客へ「伝えよう」とするなら、選曲や司会、時間配分など、まだまだこぶさんの演奏会から学べることはあるんじゃないか?
そんな風に思った次第です。
・・・でも、こぶさん演奏会の魅力が広く知られてしまうと、来年は自分が入れなくなる可能性もありますが。
まぁその時は市民会館近くの美味しい洋食を食べて帰ろうかな!

(こぶこん’26感想 終)