笑って、ブラボーして、少し苦い…福山で聴いた《コジ・ファン・トゥッテ》

 

3月22日、沖澤のどか氏指揮・京都市交響楽団「コジ・ファン・トゥッテ」福山公演に行ってきました。

久しぶりの福山リーデンホールで14時から開演。

京都公演は完売したとか。

なかなか聴ける機会の無いモーツァルトのオペラ。

東京混声合唱団の配信でも聴き、とても気にいった沖澤のどかさんの音楽を生で聴けること。

さらにソプラノ歌手:隠岐彩夏さんも生で聴ける貴重な機会。

声楽家さんたちの倉敷公演でも一際輝いていたバリトン歌手:大西宇宙さんをふたたび聴けること・・・これだけ揃っていたら行かない理由は無いですよね。

 

13時半から沖澤さんによるプレトーク。

愉快なオペラなので遠慮無く笑って欲しいとの後、良い演奏だったときはすかさず「ブラボー」も言って欲しい、ただ女性単数 は 「ブラバー(Brava)」、複数男性・男女混合 は「 ブラビー(Bravi)」、複数女性は「ブラベ(Brave)」と呼んで下さいねとお願い。

 

「ブラボーは最近《フライングブラボー》というのが問題になっていて。……それをするのはたいてい中年男性なんですけど、今回は気にせず言ってください!」

中年男性の自分、なんとなくうなだれてしまう。

(フライングブラボーはしたこと無いけど)

 

 

演奏会形式ということで前列に独唱陣6人が並び、後ろに京都市交響楽団が控える形。

 

生で聴くのを焦がれていた隠岐彩夏さんのクリスタル・ヴォイスは本当に素晴しく。

フィオルディリージの清楚、貞淑な魅力が表れるよう。

声の輝きと響きが世界レベルのグリエルモ役:大西宇宙さんも、存在感、その表現力は圧巻!

 

ドラベッラ役:山下裕賀さんの安定感、狂言回しの見事さが光ったドン・アルフォンソ役:宮本益光さん、多彩な表現で優れたコメディエンヌっぷりのデスピーナ役:鵜木絵里さん、それぞれがとても良かったです。

その中でも特に印象に残ったのがやはり大西宇宙さん。

いつか個人のリサイタルで多様な作品を聴いてみたい……。

 

音楽もしなやかで優美。

プレトークのおかげか、曲中にたくさんのブラボーや拍手、笑い声があったのだけど、沖澤マエストロはそれを受け止め、軽やかに音楽を動かします。

通常編成より少なめの、京都市交響楽団の小回りの利いた演奏のためもあったのでしょう。

弦の軽やかな反応、木管の透明な音色。

遙か遠くまで見通せるような澄み切った音楽は、東京混声でも感じた沖澤さんの魅力ですが、今回はその透明さからモーツァルトの恐ろしさも垣間見せてくれて興味深いものでした。

 

独唱陣のアンサンブル能力も高かった!

2重唱、3重唱、6重唱「オレがオレが」「ワタシがワタシが」ではなく、音程を揃え、完成形の響きをイメージした歌声。

それらに寄り添うコレペティトゥア:石野真穂氏の力も賞賛されるべき。

 

さらに面白かったのがイタリア語のオペラなのに、背後に映された字幕は桂米團治師匠による関西弁!

関西らしい「近松門左衛門」みたいな超訳もあって会場の笑いを誘い、このオペラの心地良い高揚に一役買っていました。

 

服毒自殺を治療する本来の演出では磁石を使う場面で、デスピーナが沖澤さんから奪った指揮棒を使っていたり。

別人に扮装するためのカツラがアフロだったり。

演奏会形式と言えども、演出は要所に捻りが効いていてとても楽しめました。

またこうしたオペラなら喜んで行きたいな!

 

坂井威文さんによる大阪音楽大学の学生オペラ「コジ・ファン・トゥッテ/恋人たちの学校」レビューもぜひどうぞ。

 

冲澤さんのプレトークに戻り。

題の「女はこのようなもの」は「《人間》はこのようなもの」がふさわしい、との指摘に同感。

ただ、現在流れているドラマなど、不倫ものに多い「相手の愛に押されてしまう」「ためらい揺れる自分」「自己の主人公化」は、女性側に好まれやすい印象もあって。

相対的に男性は、こうした感情の言語化や共有が弱いからでしょうか?

 

ラスト、女性2人の不実を経た男女4人への「結婚しちゃえば良いじゃん!…んなわけあるかー!」にも色々考えさせられました。

解釈が分かれる結末ですが、状況次第で愛は容易く失われるし、片方に負い目があると関係が長く続くこともあるのでしょうか?

いや、そもそも男の試し行動がアウトでは⁉️

恋愛の不安や試し行動、自己正当化といった心理は現代と全く変わりません。

このような苦さが残るからこそ18世紀の作品であっても、今も上演され続けているのかなぁ、なんて。

 

 

ブツブツ呟きながら、福山駅近くのバーへ入りハイボールを頼みます。

客は私一人。

若い女性バーテンダーさんもヒマそうにしているので、「コジ・ファン・トゥッテ」のあらすじを語り。

「そういうわけで、恋人に裏切られたと知った男性たちに『結婚しちゃえば良いじゃん』という結末なんだよ、どう思う?」

 

女性バーテンダーさん、グラスを拭きながらちょっと考えて

 

「・・・脚本家のひと、途中で飽きちゃったんじゃないですかね」

 

どうなんですか、ロレンツォ・ダ・ポンテさん!?

 

《コジ・ファン・トゥッテ》福山公演感想 終