希望の匂いがする 女声合唱団monosso創立10周年記念演奏会感想

 

 

 私はもう悲しむまい

 アケビも藤も槻木も

 みんな忘れずに芽を吹き出した朝

 恵みの春だもの

 

新川和江「春」より

 

 

4月26日、優しい雨が降る午後の高松・レクザム小ホール。

約40名の女性たちが、力強く新川和江「春」の詩を訴える。

詩から受け取ったものが、まっすぐ声に乗り客席へ流れ込んでくる。

その瞬間、この演奏会の成功を確信した。

 

香川県高松の女声合唱団monosso。

讃岐弁で「とても」という意味を持つこの団体は、演奏前の指揮者:山本啓之さんの言葉によると

 

「2015年に愛媛と大阪の女性に新しい合唱団の指揮者を請われ、『高松で活動するなら良いよ!』と承諾したことから始まった」ということ。

 

その後、コンクールでの好成績や他団体とのジョイントコンサートを重ね、monossoにとって単独演奏会は今回が初めてとなる。

「創立10周年“記念”演奏会」と銘打たれているのも、そのためだろう。

 

 

第1ステージは、monossoの良きパートナーとしてピアノを弾かれている酒井信先生との4曲。

「春」をはじめとして、過去に演奏した信長貴富先生の作品を集めたステージだ。

つづく与謝野晶子のテキスト「明日」も、インドの詩人タゴールの「百年後」も、いずれも未来を信じ、前に進むことを肯定する曲ばかり。

その内容以上に印象的なのは、monosso団員の身体の使い方だ。

譜面を持つ人はわずかで、視線は常に前を向き、声は正面に強く押し出される。

 

女声合唱の一般的なイメージとしては、繊細、優美、嫋やかさ……などが思い浮かぶが、monossoの演奏は「一球入魂、フルスイング、フィニッシュブロー!」などの言葉がふさわしい。

マッチョで筋肉質、力のこもったフレーズを一切緩めず歌い切った後は 「仕上がってるね!」と声を掛けたくなる。

もちろん力任せでは無く、表情記号も自然に歌に落とし込み、何より歌詞カードが無いのはこのためか?と思うほど明晰な発語がその表現力を支えている。

どの曲も音楽の切り替わりが鮮やか、さらに作品自体のメッセージが力一杯伝わってくる演奏。

 

気に入ったのは大手拓次詩の「創造の草笛」。

 

オーボエ奏者:山口裕加氏が参加し、ピアノとともに、草笛に似たオーボエが合唱へさまざまな色を重ねていく。

声と溶け込み、時には楔を打つように、合唱をふくらませるオーボエの音色の素晴らしさ。

昨年の全国大会でも聴いた作品だが、コンクールという枠から出たためか、作品の持つ官能や時空の揺らぎがより顕わになったよう。

最後に合唱、ピアノ、オーボエの渾然一体となった美しい響きに陶然としていると、断ち切るように演奏は終わり、ホールに余韻だけが残った。

 

 

第2ステージ「女声合唱のためのサザンオールスターズセレクション」。

思い思いの夏リゾート仕様の衣装で、手を振りながら登場するmonosso団員たち。

このステージではパーカッションに永田和也氏が参加し、ポップス演奏に必須のビートと奥行きを加えていた。

前ステージと同じ信長先生の編曲なのだが、こういう女声合唱への編曲で思い出すのは、出雲の女声合唱団フィオーリの演奏でも聴いた「ユーミンメドレー」。

それと比較すると、ユーミンとは違い男性の桑田佳祐、さらに特有の歌い回しのクセ、比較的速いテンポを女声合唱に落とし込むことに難しさを感じてしまったのも事実。

 

ただ、「真夏の果実」では「伝える!」とばかりに強い想いに満ちたホモフォニックの箇所は胸に響き、「TSUNAMI」のアレンジの素晴らしさ、ミラーボールを思わせる変幻自在な照明の凝り方は唸るほど。

最後の「心を込めて花束を」はオーボエの山口氏も加わり、しっとりとこのステージを締めくくった。

 

 

第3ステージは三善晃「三つの抒情」、第4ステージは同じく三善先生「三つの夜想」。

1962年に作曲された、三善先生による女声合唱の初作品「抒情」と、その23年後に抒情を受け継ぐように発表された「夜想」。

どちらも燦然と輝く名曲だが、この2作品をひとつの演奏会に乗せる団体はほとんどない。

聴きながら(monossoの演奏で初めて抒情・夜想に触れる聴き手は幸せだな……)と思った。

 

音楽の輪郭は明確で力強く、曖昧さを排し、詩人の心がそのまま伝わる演奏。

指揮者と団員の思い入れの深さはうかがい知れるが、決して独りよがりに陥らず、作品を尊重し、音楽の自然な流れが生きている。

 

自分が特に気に入ったのは、やはり「三つの抒情」。

おまえのことでいっぱいだった

艶やかなメゾの「或る風に寄せて」の歌い出しから惹かれ。

酒井先生の鋭く押し寄せるようなピアノと荒ぶる合唱が効果的だった「北の海」。

万感の想いがこもった「ふるさとの夜に寄す」は熱を帯びながらも、音楽は不思議と緊張を強いない。

かと思えば「手を濡らした」からの霊感めいた曲想、そして「忘れよ ひとよ……!」と立原道造、monossoの全てを賭けて訴える歌の深さと強さ。

 

7年前に感想を書いた「ひなまつりジョイントコンサート 女声合唱作品見本市」。

この時もmonossoは単独ステージで「三つの抒情」を演奏したが、今回は遙かに声が持ち、各曲の表現に確かな手応えが感じられた印象。

 

立原道造、中原中也の男性詩人の「抒情」と、村松英子氏が若い時に書かれた「夜想」。

年代を超えて、同じ作曲家の女声合唱曲でも、これほど違いがあるのかと感じさせる2ステージ。

 

アンコールは同じく三善先生の「ラ・メール」。

会場の窓から覗く瀬戸内海を思い出させる、優しくも心に深く残る演奏だった。

 

 

◯香川県高松という決して合唱が盛んとは言えない地方都市。

◯学生合唱団を母体にしていないこと。

◯月1回だけの練習。

 

並べるとmonossoの条件は不利なものばかりだ。

それでも、2人の女性が指揮者に呼びかけたことから始まったこの団体は、香川のみならず四国全域、大阪や東京からも団員を集め、年代も高校生から社会人まで広げながら、10年かけて実力を蓄えてきた。

今回の単独演奏会は、その10年の積み重ねが確かに形となった場だった。

 

 

ラジオで偶然耳にした歌詞が頭に残っている。

あなたには希望の匂いがするという歌詞の古い歌。

最初に歌われた新川和江の詩のように、ものみな芽吹き、花の香りが満ちる春。

monossoこそ、地方でもこれほどの団体が成立しうる「希望」だ。

 

これまでの10年、そしてこれから。

monossoには希望の匂いがする。

 

(女声合唱団monosso創立10周年記念演奏会感想 終)