なにわコラリアーズ第19回演奏会感想 最終回


第3ステージ
今年の委嘱初演曲は松本望さんへのもの。
「かなしみと怒りへの祈り 〜男声合唱とピアノのための〜」と題された
典礼文「Agnus Dei」と八木重吉の詩、5作品が使われている。
今回のピアニストは松本さんご自身。


この委嘱作品、自分は非常に価値あるものとして聴いた。
薄れかけた記憶と乏しい能力で
全く及ばずながらどんな曲だったか記してみよう。



まず2群に分かれたメンバーの間で
重層的な音が呼び交わされる。


片方の合唱群のノイズのような音からひとつの旋律が浮かび上がり、
それは離れた合唱群へ受け渡され、「こだま」となって響き合う。


やがて収束していく合唱と対照的に
激しく叩きつけるようなピアノの音が入る。
2つの合唱群は動き出し、集まり、一体となった合唱はピアノと共に歌う。


その響きは集団を構成するひとりひとりの個人。
個が集まり、塊となって訴える祈りと叫びを感じさせる。


最後はステージいっぱいに拡がり、
音を浮遊させるような響きで会場を満たした。



自分も過去にいろいろと初演曲を聴いているが
ここまで「もう一度聴きたい!体験したい!」と思ったのは初めてだ。
それは響きの位相をさまざまに変えるこの曲の面白さが
この会場でしか味わえないものだったというものもあるし、
いわゆる現代音楽の合唱としてのさまざまな技法が
非常にセンス良くまとめられていたというのもある。


しかし、何よりも
合唱という集団のために、個が消されてしまうのではなく
あくまでも個の集まりとしての合唱。
さらに合唱の作品が「今、まさに、同時代の音楽」として聴こえたことに
興奮を抑えきれなかった。
なにコラの前の週に広島でサカナクションのライブを聴いたのだが、
その時感じた「今、まさに、同時代の音楽」という想いと共通していたのだ。



松本望さんは演奏後の言葉で


「自分は何に向かって祈るということは無いが
 祈りたいという気持ちは人の中にあるもの。
 それは言葉では説明できないものである」


「合唱曲を作曲し始めて今年で10年になり
 自分の作風を壊す挑戦」


「完成形では無く、書き直して組曲として完成させたい」




…と語られていた。
またメンバーの立ち位置が変わるのは
SMAPの曲を編曲してなにコラに演奏してもらった時の
位置取りをヒントにしたのだとか。



合唱演奏の可能性を感じさせる凄い作品を聴いた!という思い。
やはりこの曲の真価はライブでこそ伝わると思うので、
未聴の方は是非ともライブで聴いて欲しい。
そういうわけで再演をお願いしたいが、
組曲として改訂後にコンクール自由曲として
お江戸コラリアーずあたりが歌ってくれないかなあ…。
(もちろん、なにコラがコンクール復帰してくれても… 笑)





最終ステージの「ア・ラ・カ・ル・ト!」は暗闇の中
W.R.Wagner歌劇「タンホイザー」より巡礼の合唱から始まった。
曲の盛り上がりと共に照明が増していくニクい演出。
一転して荒ぶるパーカッションが楽しいHarambee。
ほか、ワクワク、うっとり、神秘的な気持ちにさせる全8曲。
言語もドイツ語、スウェーデン語、フィンランド語、エストニア語、
ラトビア語、英語と相変わらず!
(…まァ2曲ほど減らして密度を濃くしたほうがいいんじゃ・・・
 と思わないでもなかったが)


このステージ最後に演奏された
「What Shall We Do With the Drunken Sailor」は名演。
酔っ払いの声、シラフの時の声のメリハリが楽しく、
声の演技力に笑わされ、実に楽しませてもらった。



アンコールの前に伊東さんが自分は雨男だと告白し、
「1日2回公演のような、
 こんな気合いの入った日は絶対雨が降ると思って
 この曲を選んだのに・・・たいへん良いお天気で(笑)」


松本望さんの委嘱作品とも重なる詩人:八木重吉の詩による
多田武彦の名曲「雨」。
この演奏が昼・夜の部の中で一番印象深かったかもしれない。


ノーブル・テナー:K林K太さんの
会場の隅々にまでしみわたるような、
優しく、うるおいのある歌唱は
聴く人々の胸を静かに濡らしているようだった…。



 あのおとのようにそっと世のためにはたらいてゐよう
 雨があがるようにしづかに死んでゆこう






「他の合唱団が歌わない曲を歌う!」とばかりに
どこから見つけてきたんだ?と思わせる曲を演奏してきたなにコラが
ある時から「ただたけだけ」コンサートを開くまでに多田武彦作品へ傾倒し、
また今回のように「青いメッセージ」、
昨年より前には「ことばあそびうたII」「縄文」など、
一昔、二昔前の大学グリーや一般男声合唱団が盛んに演奏してきた名曲を
こうして演奏会で取り上げるようになった。


それには時代の流れと共にレパートリーが変わったことから、
かつての名曲を再評価しようという狙いもあると思うが、
縮小化しつつある一般・大学男声合唱界に今一度
男声合唱の魅力というものを伝えようという気持ちなのかも知れない。
なにコラの演奏を聴けばわかるが、
それは決してノスタルジーからではないのは歴然。


もちろん昨年の千原英喜先生、今年の松本望さんへの委嘱作品や
今回のア・ラ・カ・ル・トステージの幾つかの曲のように
「男声合唱の新しいレパートリーを!」という願いのこもった選曲も健在だ。


温故知新と進取の精神。
一見対照的な考えのようだが、その根本は通じているはず。
なにコラのその2本の支柱が、更なる隆盛をもたらすことを心から願う。
・・・それにしてもバス・バリトンがあと2倍はいてもいいよね!
大阪近辺の男声合唱命のみなさま、是非なにコラへどうぞ〜!!






(おわり)