大学職場一般部門改編の衝撃|気になる変更点と今後の考察

 

2027年度から大学職場一般部門の編成区分が大きく変わります。

気になる点をまとめてみます。

 

 

1)"純粋"な大学部門へ

 

注目は「大学生による合唱団、インターカレッジ参加可」!

つまり《ユース合唱団は大学部門ではなく、職場一般部門へ》という大改革ですね。

これは平成9年から10年間あった「大学A・B部門」の復活と言っても良いのでは。(当時、大学A部門は8人以上32人以下、B部門は33人以上)

 

少人数の団体でも参加しやすくなることから大学合唱団の増加が期待できますし、「大学生による合唱団」という原点に立ち返ることで、合唱連盟は「初心者の最後の砦」である大学合唱を守ろうとしているようにも感じられます。

 

 

2)同声合唱部門の廃止

 

ただでさえ衰退傾向が激しい《男声合唱》に拍車がかかるのでは?ということ。

女声合唱もAグループ(6~18名)以外では不利になりそう。

しかし、この部門については「演奏スタイルも発声も大きく異なる女声と男声を、《同声》という同じ土俵で評価して良いのか?」という意見も以前からありました。

そう考えると、職場一般部門に組み込まれるのも仕方がないのかもしれません。残念ですが。

 

 

 

3)室内合唱部門の廃止

 

こちらも過去の「一般A・B部門」が復活したと言っても良いかと。

当時は一般A(32名まで)から室内合唱(24名まで)へ移行する際、「人数を減らして室内合唱を指向するか?それとも人数を増やすか?」という混乱があったと記憶しています。

室内合唱(24名以下)へ出場していた団体は、Aグループ(6~18名)かBグループ(16~40名)のどちらで出場するのか?

さらに「16~18名の団体はA・Bどちらを選ぶのか」も悩ましいところですね。

個人的には「室内合唱」という名称は変更すべし!と訴えてきたので、この名称変更は歓迎します!(リンク先記事最後【室内合唱部門を振り返って】)

 

 

4)混声合唱の部は?

 

昨年の佐賀全国大会、混声合唱部門は全16団体。

Cグループに該当しない《36名未満》の団体は3団体でした。

ただ、Bグループの《40名以内》まで広げると7団体になります。

こちらの部門も「Bグループに出場するか? Cグループに出場するか?」で悩ましいことになりそう。

 

 

 

5)全国大会のスケジュールは?

 

大学AB、職場一般ABCと1部門増え、計5部門になったため、全国大会2日間の振り分けはどうなるのでしょうか?

過去に倣うなら、大学A・Bとも「大学グループ」としてひとつにまとめるのでしょうか?

 

《一日目》

午前:大学AB

午後:職場一般A

 

《二日目》

午前:職場一般B

午後:職場一般C

 

……になるのかも?

 

 

《発表後のネットの反応を見た雑感》

 

○ユース団体排除? それとも大学合唱保護?

やはり「ユース団体は職場一般部門へ」の衝撃は大きかったようです。

ユース団体の社会人団員は、コンクール時期だけ活動を休むのはどうか……と一瞬考えたのですが、コンクール期間は長く、現実的ではなさそう。

コンクール活動を中心にしていたユース団体にとっては、活動意義そのものを問われることになりそうです。

「大学生による合唱団」ということで、「みんなで放送大学に入ったら?」なんてネタっぽい投稿もありました(笑)。

 

大学部門の団体名は、単独の大学名や大学公認でなくても良いのでしょうか。

大学ABを実施していた2003年の大学部門には、「合唱団々」という団名の、複数大学による合同合唱団もありましたね。

 

「合唱初心者の最後の砦」と書いたのは、ユース団体と比較すると、大学合唱団の方が初心者を迎え入れ、育てやすい環境やシステムを持っていると考えているからです。

優れたユース団体がいくつも生まれ、存在感を増していたのは喜ばしいことでした。

しかしその反面、大学合唱団の存在感が相対的に薄れてしまったのも事実でしょう。

今回の改革で大学合唱団員が急激に増えるとは思いません。

しかし、コンクールに参加している大学合唱団にとっては、大きなモチベーション向上の機会になるのではないでしょうか。

また、「6~25名」規模の大学合唱団が全国大会を目指しやすくなることも、歓迎すべき変化だと思います。

 

 

○同声合唱部門廃止がもたらすもの

「同声合唱部門の廃止により、男声合唱衰退に拍車がかかるかもしれない」と書きましたが、同時に女声合唱にとっても厳しい変化になりそうです。

ただ、Aグループ(6~18名)については、女声ならではの3パート構成や声質の同質性が有利に働く可能性もあります。

さらに、人数の多い少年少女合唱団もCグループで存在感を増していくのではないでしょうか。

 

 

○《大会の華》はどのグループへ?

全日本合唱コンクール全国大会で最も注目を集めるのは、やはり混声合唱の部でしょう。

“大怪獣バトル”と揶揄されることもあるこの部門は、その時代の合唱界を映し出す鏡でもあります。

一方で32名以下の一般A部門が、先進的な選曲や優れた演奏によって《大会の華》と見なされていた時代もあったと、個人的には感じています。

 

昨年の混声合唱部門では、第1位のVOCE ARMONICAさんが団員数40名、長年金賞を受賞してきたCombinir di Coristaさんは41名でした。

両団体とも新制度では、Bグループに出場していても全く不思議ではない団員数です。

新たな《大会の華》は、やはり大編成が集うCグループになるのでしょうか。

それとも、実力団体がひしめくことになりそうなBグループになるのでしょうか。

 

東西四連配信感想

 

 

6月27日、京都コンサートホールでの東西四大学合唱演奏会(通称:東西四連)の配信を視聴しました。

アーカイブは7月3日(金曜日)23時まで視聴可能だそう。

 



慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団(53人)

新実徳英「ことばあそびうたII」

佐藤正浩先生の指揮で。

大ヒットしたこの曲を久しぶりに聴きます。

ナンセンスなことばあそびの詩を、超絶難易度の技術と感情のメリハリで聞かせるギャップが楽しい。

ワグネルは非常に練られた発声でさらにその効果が増し。

「うとてとこ」「たそがれ」では前田勝則先生のピアノの抒情も優れ、良いステージ!

 

 

関西学院グリークラブ(40名)は更に古い名曲、清水脩「アイヌのウポポ」を手堅く。

広瀬康夫先生の指揮で。

単純な曲調ながらリズムや現地の生活が匂うような雰囲気で聴かせます。

アイヌの土俗性や高音域にもう一踏み込み欲しい気もしましたが、良い曲を良い曲と感じさせる誠実な演奏。

団員数が増えていて嬉しい。

 

 

早稲田大学グリークラブ(42名)

「ハレー彗星独白」鈴木輝昭男声作品で一番人気の曲だと思いますが、今まで自分にはピンと来なかったんですよね。

しかし今回は非常に面白く聴けました!

ワセグリの、時に暴発しそうなエネルギーを、昨年のブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した若き俊英:米田覚士氏が上手く道筋を付けた印象。

最終曲の繊細な指揮と相まって、弱声のサウンド造りは現地で聴きたかった!

米田氏へのオファーは優勝前だったはずなので、白羽の矢を立てたワセグリ運営の慧眼には唸らされます。

こういう20代のオーケストラ指揮者に、客演を依頼しがっぷり噛み合った真剣勝負を目指すアマチュア合唱団って、自分が知る限りワセグリだけ。

難しいでしょうが、他の団体も追随して欲しいですね。

 

 

同志社グリークラブ(49名)

伊東恵司さんの指揮でヴェリヨ・トルミスの2作品。

「Kokko lenti koillisest(北東から鷲が舞った)」 「Raua needmine (鉄への呪い)」、いずれもリフレインが多い作品ですが、緻密なサウンドとテンションの計算で、特に「鉄への呪い」は呪術性まで感じられて。

先日、同曲の混声版も聴いて良いなと思ったのですが、こういう演出があるなら(なにコラさんのコンクール演奏を思い出しましたねw)統一感の説得力でやはり男声版に一票!

これも現地で聴きたかった!

 

 

合同演奏は信長貴富「帆を上げよ、高く」。

伊東恵司さんの指揮で。

詩はみなづきみのりさんなので、ある意味自作自演。

テキストの一部はピエロに触れていて、曲調も名曲「月光とピエロ」を思わせる瞬間がありました。

伊東さんの師、福永陽一郎氏が愛されていた曲ということもあったのでしょうか。

東西四連の次の日には、福永氏の生誕100周年記念式典があったそう。

 

アンコール2曲目の「響け、彼方へ」が、彼らの愛唱歌になったんだなぁと思わせました。

この曲も2022年のコロナ禍明け、3年ぶりの東西四連で委嘱された曲という事情を思えば感慨もひとしお。

 

男女平等、ジェンダーが盛んに論じられる現在だからこそ、「男性/男声ならではの良さ」を考えてしまいます。

荒々しさと繊細さ、一点へ注ごうとする膨大なエネルギー、シリアスな局面でもどこか哀しさを漂わせる・・・。

この日の単独ステージの選曲と演奏は、女声はもちろん、混声でも代えがたい、男声ならではの魅力が出ていたのでは。

男声合唱を取り巻く現状も厳しくなるばかりですが、こうして若い世代が男声合唱の豊かな遺産を受け継ぎ、優れた演奏で歌い継いでいることに希望を感じました。

 

繰り返しますがアーカイブは7月3日(金曜日)23時まで視聴可能。ぜひ!

(イープラス配信チケット販売は7月3日19時まで)

 

 

第75回 東西四大学合唱演奏会 感想

(とのとののブログ)

自分より年長男性、さらに大学男声に並々ならぬ愛が感じられる記事。

ワグネルのアンコール曲も記されていて有難かったです。

高田馬場:菊水 立さん閉店

 

 

なんとも残念なお知らせです。

 

【閉店のお知らせ】

お客様各位

当店は6月28日(日)をもちまして閉店することとなりました。

約18年のあいだのご愛顧に心より感謝申し上げます。

急なお知らせとなり大変申し訳ございません。

残り僅かな期間ではございますが、皆様のお越しを心待ちにしております。

菊水 立 店主 拝

 

 

なんと、菊水 立さん6月28日(日)で閉店とのこと。

急すぎる、急すぎるよ、立さん……。

 

店主の立さん自身も早稲田大学混声合唱団の卒団生であり、現在は男声合唱団お江戸コラリアーず団員でもある、生粋の合唱人です。

合唱団の枠を超えて、さまざまな人が集い、語らう場として、約18年間営まれてきました。

 

そういえば、9年前にはこんなブログ記事も書いていました。

改めて数えてみると、自分が通い始めてから14年になるんですね。

今年5月にも訪れ、立さんの誕生日をお祝いしたばかり。

 

思い出は尽きません。

残念ながら、自分が閉店までにもう一度立さんを訪れることは難しそうですが、多くの方が店の扉を開けてくれることを願っています。

 

飲めない方も、ぜひ「店主に一杯!」の気持ちで。

 

※来店前にXやInstagramで「今日は入れますか?」と確認すると安心かもしれません。

https://www.instagram.com/kikusui_ryu/

 

 

《追記》

 

6月21日の月曜日。

矢も楯もたまらず、開店直後18時の立さんにお邪魔し、長時間居座ってしまいました(すみません)。

 

紹興酒テイストの東鶴15年モノは絶品でした。

この日、そして自分が立さんに通った14年間で出会ったみなさんと、出会ったお酒に感謝しつつ、立さんの

 

「どこかでまた店をできたら」

 

という言葉を希望に、生きていくことにします。

みなさん、立さん、またね!



ビバ!合唱から辿る《吉野弘》の世界

 

NHK-FM ビバ!合唱の聞き逃し配信。

5月31日の放送は

 

合唱で聴く詩人の世界(25)〜吉野弘の世界

(6月7日:日曜の朝まで配信)

 

 

「人生を語る」吉野弘氏の深さに感じ入ってしまう回です。

 

廣瀬量平先生「走る海」は歌ったことがあるのにすっかり忘れていて。

高嶋みどり先生「奈々子に」名田綾子先生「冬の陽ざしの」は曲を知れて良かった。

(おうたや、harmonia ensembleの上手さ!)

 

大久保混声合唱団さんが演奏された「心の四季」はやはり名曲だと思います。

「雪の日に」への吉野氏の言葉が響きました。

 

吉野弘氏の詩と言えば、思い出すのは「祝婚歌」ですが、合唱曲としては石若雅弥先生、千原英喜先生が作曲されているよう。

(「祝婚歌」という題でたくさんの詩人が作品を作っているので、同じ題の合唱曲でも吉野氏の詩とは限らない)

 

同じく吉野氏の詩で思い出すのは「夕焼け」。

こちらは信長貴富先生が「鉄道組曲」の5曲目として作曲されています。

 

あと忘れてならないのは「I was born」。

さすがにこの作品を合唱曲にするのは難しいだろうな。

 

 

さて、今回あらためて吉野弘氏について検索していたら、思わぬ収穫がありました。

長女である奈々子さん(!)が実父の弘氏と詩について語られているブログを見つけたのです。

詩の「奈々子に」についても、教科書に採用された時の驚き、「子どもに期待しない」という一節に悩み、そして自身が親になってからの視点の変化……と実に読ませます。

 

 

また、「祝婚歌」が生まれた時のエピソードも秀逸です。

 

1926年生まれの吉野氏、今年は生誕100周年にあたります。

2000年以降に吉野氏の詩へ作曲された合唱曲が発表され続けているのも、その言葉が時代を超えて生き続けている証でしょう。

人の心の奥底に長く留まる吉野氏の詩が、100周年の今年、あらためて多くの人に読まれることを望んでいます。

 

 

Tokyo Cantat「三善晃と声」 若い声が紡ぐもの

 

Tokyo Cantat「三善晃と声」に行ってきました。

今年で30年になるというTokyo Cantat、岡山から東京へはなかなか行けないので訪れたのは30年のうち数回ですが、それでも行ったときは何かしら大きなものを得た気がします。

 

5月3日 17時開演 すみだトリフォニーホール

すみだトリフォニーからスカイツリーを望む

 

~ミンナデイッショニ ハ・ナ・イ・チ・モ・ン・メ~ と副題が付くこの演奏会。

三善晃作品だけを集め、さらに比較的若手の指揮者&団体が中心に選ばれています。

 

実力団体、かつ将来を期待される若い指揮者と団体の充実したコンサート。

司会の松村努先生と各団体指揮者との会話では、運営から演奏曲の提案があった団体も多かったとのお話でした。

 

最初の女声合唱団ぱるらんど(41名)は素晴らしかった!

女声合唱のための組曲「月夜三唱(1965)」

息を多く交えた夢見る響きが別世界へ誘いますが、決して弛緩せず、表現の芯がぼやけない。

力感があり、音楽の向かう先がはっきり見える。

この詩は中原中也が愛息を失った悲しみが底にあるものの、演奏はそれを表に出さず、幼子へ絵本を読み聞かせるようにひたすらに優しく美しい。

それでも「月の光 そのニ」の最後には、抑えきれない想いが慟哭のように溢れ出て。

森の中では死んだ子が」からは込み上げるものが。

指揮者:石橋遼太郎先生は全日本合唱コンクールでも活躍されていますが、本当に注目の若手指揮者です。

その繊細で魅力的な音楽を支える岩本果子先生のピアニズムも見事でした。

 

 

続く実力団体scatola di voce(混声33名)

指揮:森田悠介先生 ピアノ:松元博志先生

「合唱組曲 五つの童画(1968)」は比較的遅いテンポの中、三善先生の意思を余す処無く伝えようとする演奏。

豊かなアルト、艶やかなソプラノが魅力的でした。

 

 

清水昭先生指揮合唱団ひぐらし(混声63名)

「黒人霊歌集 混声合唱のための(1976)」の演奏は「他の団体も是非やって欲しい!」と思わせます。

三善先生他作品のスキャットにも通じ、先生の機知、センスが充溢する実にカッコいい曲集。

年代も幅広いのに、ひぐらしのみなさんは頑張ってました!

 

 

女声合唱団るふらん(31名)は別格でした。

栗山文昭先生の指揮と斎木ユリ先生のピアノはとにかく自在。

三善先生の女声小品「空を走っているのは…(1985)」「爪紅(1983)」「かなしみについて(2004)」

テンポはどの曲も遅めだったと思いますが、決して間延びせず、フレーズを長く取り自然にふくらませて収める、それがとても心地良い。

無伴奏の「かなしみについて」も三声が最高のバランスで豊かに響きます。

感嘆と共に……これこそ「合唱」だよ!と頷いてしまいました。

最後の「麦藁帽子」も比較的遅いテンポですが、さりげない緊張とともに音楽の向かう先がはっきり見え、その世界に入れてもらう感覚が。

盛り上がっていき、一瞬の休符、クライマックスの「蝶よりも」には震えました。

あの自在さ、栗山先生に転がされる感覚。何であんなことが出来るんだ?と、魔法を目の当たりにした気分。聴いていた知人たちも絶賛!

 

 

唯一の男声合唱団WAKAGE NO ITARI(23名)

指揮:真下洋介先生 ピアノ:松元博志先生

「縄文土偶 男声合唱とピアノのための(1981)」

最初の「王子」は宗左近らしい夢幻的レトリックを立ち上げ、アタッカで続けた「ふるさと」は詩の通り「断ち切」り、烈しく強く。2曲の鮮烈な対比が際立ちます。

生演奏で2曲続けて聴くのは初めてでしたが、この組み合わせの必然性を演奏で腑に落とされました。

 

Coro Ponte(混声30名)

「やさしさは愛じゃない 混声合唱のための(1999)」

粗さはありましたが、それがむしろ剥き出しの魂として迫る演奏。アラーキーの写真集のように、生々しさが説得力を増していました。

吉田宏先生の共感させてしまう力は凄い。

「さびしいと思ってしまう」では胸を締め付けられ、「どきんどきん」の女声には確かなときめき。

 

 

 

単独団体では、女声の方が子音、言葉のニュアンスに長けている印象。

あと三善先生の音楽を十全に表現しようと、ややテンポを落とすのは良いけれど、それはまた別の課題を生んでいたような演奏が。

意外と引き算で、流したり引いたりした方が、全体では指揮者や団体の持ち味が生きたのでは?などと感じたりも。

 

 

最終ステージの交聲詩曲「波」は生演奏で最も印象が覆された作品。

公募で全国各地から集まったという約120名。

すみだ少年少女合唱団(51名)はパイプオルガンのバルコニーに並び。

藤井宏樹先生の指揮、須永真美先生、斎木ユリ先生の2台ピアノ。

「ずいずいずっころばし」を思わせる旋律を少年少女が繰り返し、そこに大人の合唱が絡んでいく。

純粋な声に忍び寄る社会の影……そんな解釈も有り得るでしょうか。

執拗なリフレインは次第に熱を帯び、ミニマル音楽的なうねりとなって広がり。

祈りというより呪術のような響き。

交聲詩 海」と対になる「波」がこの単純な形を取るのも興味深く。

最後は大合唱の迫真の響きに、ただただ圧倒されました。

 

副題の「~ミンナデイッショニ ハ・ナ・イ・チ・モ・ン・メ~」は若手指揮者・団体に三善作品を歌い継いでもらおうという意志と同時に、三善作品では欠かせない「死者と共に」という願いが入っている、そんな風にお聞きしました。

 

個人的には、三善晃という作曲家が「詩」に対峙し、どういう作品を生み出したのか、その創作の過程へ改めて意識を向けさせられる演奏会でした。

三善先生の「作曲」は単純に詩句へ付曲するのとは違い。

詩人の世界を三善宇宙に取り込み、また新たな星として生み出すような・・・。

 

「五つの童画」での高田敏子氏との紆余曲折を経た協働は目にしたことがありますし、宗左近氏の「縄文土偶」や「海」などを経て今回の「波」の詩に至ったのも、とても面白く感じました。

谷川俊太郎氏の「やさしさは愛じゃない」も、男声は「やさしさは愛」と主張するのに、女声はひたすら「愛じゃない」と否定するのも、三善先生らしい感覚が表れているようにも思えたり。

 

《総括》

 

地方では参加団体や観客への思惑もあり、Tokyo Cantatのような企画はなかなか難しいと思います。

30年という年月と信頼を積み重ねてきたブランドの確かさと、東京という土地の層の厚さ・広さがあってこそでしょう。

地方民としてはこの1日だけでしたが、他の企画演奏会はどれも興味を惹かれるものばかりでした。

31年目へ踏み出すいま、これからもTokyo Cantatには魅力的な企画を続けてほしいと願っています。

 



さて、演奏会を聴き終えた後、「三善晃は詩をどう読んでいたのか」をさらに知りたくなった人には、この配信はかなり面白いと思います。

 

 

◆【動画受講】Tokyo Cantat 30周年記念特別セミナー「三善晃の合唱世界」 

毎年GW期間に開催され、広い視野と先進的な取り組みにより日本の合唱界を牽引してきた「Tokyo Cantat」30周年記念特別セミナー。「三善晃を語る」2つのセミナーはファン必聴!

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コーラス・カンパニーの、この動画配信はオススメ!

セミナー2の藤井宏樹先生司会で信長貴富先生、寺嶋陸也先生が語られる動画を購入しました。

三善先生の思い出や詩の扱い方、作品に対する率直な意見などもあり、唸るやら笑ってしまうやら。

信長先生の「三善先生の後を追ってもできないので、先生のやっていない別の道に行くしか無い。そうするとものすごく自分がつまらない人間のような気がして落ち込む……」というご発言に(なんて正直な!)と思ったり。

合唱団OMP(現・響)へ三善先生が八村義夫作品のレッスンをされたときのお話なども大変興味深かったです。

 

 

動画視聴期間 2026年7月31日(金)※販売は7月15日(水)まで

料金500円。「交聲詩 海」などTokyo Cantatで演奏された作品への言及が多いですが、Cantatを聴いていなくても楽しめると思います。

(ただ、世の多くの動画のように、ご発言の字幕も欲しかったな……)

 

Tokyo Cantatに興味がある方はもちろん、三善作品にさらに深く触れてみたい方にはとても良い動画配信だと思いました。

 

 

希望の匂いがする 女声合唱団monosso創立10周年記念演奏会感想

 

 

 私はもう悲しむまい

 アケビも藤も槻木も

 みんな忘れずに芽を吹き出した朝

 恵みの春だもの

 

新川和江「春」より

 

 

4月26日、優しい雨が降る午後の高松・レクザム小ホール。

約40名の女性たちが、力強く新川和江「春」の詩を訴える。

詩から受け取ったものが、まっすぐ声に乗り客席へ流れ込んでくる。

その瞬間、この演奏会の成功を確信した。

 

香川県高松の女声合唱団monosso。

讃岐弁で「とても」という意味を持つこの団体は、演奏前の指揮者:山本啓之さんの言葉によると

 

「2015年に愛媛と大阪の女性に新しい合唱団の指揮者を請われ、『高松で活動するなら良いよ!』と承諾したことから始まった」ということ。

 

その後、コンクールでの好成績や他団体とのジョイントコンサートを重ね、monossoにとって単独演奏会は今回が初めてとなる。

「創立10周年“記念”演奏会」と銘打たれているのも、そのためだろう。

 

 

第1ステージは、monossoの良きパートナーとしてピアノを弾かれている酒井信先生との4曲。

「春」をはじめとして、過去に演奏した信長貴富先生の作品を集めたステージだ。

つづく与謝野晶子のテキスト「明日」も、インドの詩人タゴールの「百年後」も、いずれも未来を信じ、前に進むことを肯定する曲ばかり。

その内容以上に印象的なのは、monosso団員の身体の使い方だ。

譜面を持つ人はわずかで、視線は常に前を向き、声は正面に強く押し出される。

 

女声合唱の一般的なイメージとしては、繊細、優美、嫋やかさ……などが思い浮かぶが、monossoの演奏は「一球入魂、フルスイング、フィニッシュブロー!」などの言葉がふさわしい。

マッチョで筋肉質、力のこもったフレーズを一切緩めず歌い切った後は 「仕上がってるね!」と声を掛けたくなる。

もちろん力任せでは無く、表情記号も自然に歌に落とし込み、何より歌詞カードが無いのはこのためか?と思うほど明晰な発語がその表現力を支えている。

どの曲も音楽の切り替わりが鮮やか、さらに作品自体のメッセージが力一杯伝わってくる演奏。

 

気に入ったのは大手拓次詩の「創造の草笛」。

 

オーボエ奏者:山口裕加氏が参加し、ピアノとともに、草笛に似たオーボエが合唱へさまざまな色を重ねていく。

声と溶け込み、時には楔を打つように、合唱をふくらませるオーボエの音色の素晴らしさ。

昨年の全国大会でも聴いた作品だが、コンクールという枠から出たためか、作品の持つ官能や時空の揺らぎがより顕わになったよう。

最後に合唱、ピアノ、オーボエの渾然一体となった美しい響きに陶然としていると、断ち切るように演奏は終わり、ホールに余韻だけが残った。

 

 

第2ステージ「女声合唱のためのサザンオールスターズセレクション」。

思い思いの夏リゾート仕様の衣装で、手を振りながら登場するmonosso団員たち。

このステージではパーカッションに永田和也氏が参加し、ポップス演奏に必須のビートと奥行きを加えていた。

前ステージと同じ信長先生の編曲なのだが、こういう女声合唱への編曲で思い出すのは、出雲の女声合唱団フィオーリの演奏でも聴いた「ユーミンメドレー」。

それと比較すると、ユーミンとは違い男性の桑田佳祐、さらに特有の歌い回しのクセ、比較的速いテンポを女声合唱に落とし込むことに難しさを感じてしまったのも事実。

 

ただ、「真夏の果実」では「伝える!」とばかりに強い想いに満ちたホモフォニックの箇所は胸に響き、「TSUNAMI」のアレンジの素晴らしさ、ミラーボールを思わせる変幻自在な照明の凝り方は唸るほど。

最後の「心を込めて花束を」はオーボエの山口氏も加わり、しっとりとこのステージを締めくくった。

 

 

第3ステージは三善晃「三つの抒情」、第4ステージは同じく三善先生「三つの夜想」。

1962年に作曲された、三善先生による女声合唱の初作品「抒情」と、その23年後に抒情を受け継ぐように発表された「夜想」。

どちらも燦然と輝く名曲だが、この2作品をひとつの演奏会に乗せる団体はほとんどない。

聴きながら(monossoの演奏で初めて抒情・夜想に触れる聴き手は幸せだな……)と思った。

 

音楽の輪郭は明確で力強く、曖昧さを排し、詩人の心がそのまま伝わる演奏。

指揮者と団員の思い入れの深さはうかがい知れるが、決して独りよがりに陥らず、作品を尊重し、音楽の自然な流れが生きている。

 

自分が特に気に入ったのは、やはり「三つの抒情」。

おまえのことでいっぱいだった

艶やかなメゾの「或る風に寄せて」の歌い出しから惹かれ。

酒井先生の鋭く押し寄せるようなピアノと荒ぶる合唱が効果的だった「北の海」。

万感の想いがこもった「ふるさとの夜に寄す」は熱を帯びながらも、音楽は不思議と緊張を強いない。

かと思えば「手を濡らした」からの霊感めいた曲想、そして「忘れよ ひとよ……!」と立原道造、monossoの全てを賭けて訴える歌の深さと強さ。

 

7年前に感想を書いた「ひなまつりジョイントコンサート 女声合唱作品見本市」。

この時もmonossoは単独ステージで「三つの抒情」を演奏したが、今回は遙かに声が持ち、各曲の表現に確かな手応えが感じられた印象。

 

立原道造、中原中也の男性詩人の「抒情」と、村松英子氏が若い時に書かれた「夜想」。

年代を超えて、同じ作曲家の女声合唱曲でも、これほど違いがあるのかと感じさせる2ステージ。

 

アンコールは同じく三善先生の「ラ・メール」。

会場の窓から覗く瀬戸内海を思い出させる、優しくも心に深く残る演奏だった。

 

 

◯香川県高松という決して合唱が盛んとは言えない地方都市。

◯学生合唱団を母体にしていないこと。

◯月1回だけの練習。

 

並べるとmonossoの条件は不利なものばかりだ。

それでも、2人の女性が指揮者に呼びかけたことから始まったこの団体は、香川のみならず四国全域、大阪や東京からも団員を集め、年代も高校生から社会人まで広げながら、10年かけて実力を蓄えてきた。

今回の単独演奏会は、その10年の積み重ねが確かに形となった場だった。

 

 

ラジオで偶然耳にした歌詞が頭に残っている。

あなたには希望の匂いがするという歌詞の古い歌。

最初に歌われた新川和江の詩のように、ものみな芽吹き、花の香りが満ちる春。

monossoこそ、地方でもこれほどの団体が成立しうる「希望」だ。

 

これまでの10年、そしてこれから。

monossoには希望の匂いがする。

 

(女声合唱団monosso創立10周年記念演奏会感想 終)

 

福岡遠征決定:ハーモニー春号で動きたくなった!

 

ハーモニー誌春号が届きました。

会報ハーモニーのページ

 

今回まず目を引いたのは、フィリピン・マドリガル・シンガーズの来日公演。

中国地方での開催が無いのは残念ですが、7月23日(木)の福岡公演には足を運ぼうと思っています。

 

一方で、ヴォクターヴの倉敷公演があるのはありがたいところ。

 

誌面の特集としては、やはり課題曲解説「名曲シリーズNo.54へのアプローチ」が軸でしょうか。

聴く側にとっても曲を見つめ直すきっかけになる、興味深い内容でした。

 

そのほか印象に残った記事をいくつか。

 

○社会学者・橋本健二氏と坂元勇仁氏による「格差拡大は芸術文化の危機」

→合唱に限らない、文化全体の基盤の話として考えさせられる内容。

最低賃金引き上げは物価上昇と雇用削減に繋がるのでは……と思いつつ、所得が低い層には効果が大きいですね。

 

○「合唱やろうぜ、大学生:早稲田大学女声合唱団」

→信長貴富先生のインタビューで、ゼロから立ち上げ、そこから約60人まで団員を増やした経緯の証言が興味深い。

 

○松本直美氏の様式感連載

→「グリー」という言葉の意味など。良い連載!

 

○野村維男氏「体験的合唱団マネージメント」

→お金のことを大事に(会計について)。ダブルチェックの話は、実務的にかなり重要。

 

○今こそ歌い継ぎたい名曲・吉田宏先生「ヨハネ受難曲」

→そういや生でヨハネは未体験。吉田先生の熱い文に聴き直したくなりました。

 

○「合唱界のニューウェイブ3」

→石橋遼太郎氏、原田敬大(はらだ・けいた)氏、湯田佳寿美氏、下薗大樹(しもぞの・たいき)氏、今井祐之(いまい・ゆうと)氏、森岡希望(もりおか・のぞむ)氏、縄裕次郎氏、新見準平氏と今回は8人。面白い企画ですが、第三者視点での紹介もあるとより立体的になりそう。

 

……といった具合に、今回も読みどころの多い一冊でした。

そんなわけで、読もう、ハーモニー!