G.U.Choir演奏会感想&Joint Concert 2018 -Ars novaを求めて-のお知らせ

 





今年の3月18日に聴いた京都のG.U.Choir5th演奏会の感想を。



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川西市みつなかホール、開演15時。

指揮はすべて山口雄人さん。
ピアニストは長尾優里奈さん。

第1ステージはĒriks Ešenvalds合唱作品集Vol.1
最初の「THE HEAVEN'S FLOCK」から奔流のような豊かな声がステージからあふれ出す。
ソプラノの旋律は背筋に電流が走り、移り変わるエセンヴァルズ特有のハーモニーとフレーズに魅了された。
指揮者の山口さんはエセンヴァルズが好き過ぎてラトヴィアまで行ったということもあり、ヤカンや水筒、バケツ、フライパンなどを使い、ラトヴィア民謡のリズム、女声の愛らしさが光った「SIX LITTLE DRUMMERS」、歌と踊りの祭典のテーマソング「MY SONG」はミュージカル風味?で、いわゆるエセンヴァルズのイメージとは違った、日本では初演の曲を聴けたのも嬉しかった。

第2ステージはG.U.チャレンジ!と題された、今年のコンクール演奏曲。
課題曲の「まぶしい朝」は、ややゆったりとしたテンポで、テナーの新鮮さ、バスとアルトの響き合い、語感の良さが印象に残る。
「Cloudburst」は多彩な楽器を団員さんが演奏したこともあり一体感ある演奏。
大自然のパノラマを音で充分楽しませてもらった。

第3ステージは「混声合唱組曲 島よ」
昭和45年度芸術祭参加作品、大中恩先生の往年の名曲。
さすがに大時代的な古さを感じないでもなかったが、言葉の扱いに繊細さと柔らかな響きが乗り、島の変化に自身を重ね「島よ…」と呼びかける音楽には強い説得力。

最後の第5ステージはG.U.アラカルト ~G.U.(自由)な世界を見たくて~
カホンを使い、鶏の鳴き声に唸らされた「KOKOUKO」、ケニア伝統音楽の「Wana Baraka」、ひそやかな和音の色変化が美しかった「LET MY LOVE BE HEARD」など、指揮者の山口さんがWorld Youth Choir(世界青少年合唱団)に参加された経験を活かした、歌以外のパフォーマンスもある、実に多彩な選曲で演奏会は締められた。


これだけの曲をすべて高い水準で、深く、熱い共感を持って演奏されたことに、素直に敬意を抱きました。
兵庫まで来た甲斐があった!



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G.U.さんの素晴らしいのはハーモニー感覚が抜群なところ。
しかもありがちな、ベターッと全部同じようにハモるんじゃなく、音楽の瞬間に最適な強さと色合いで和音が変化していく。
ハーモニーに対する旋律も浮かず、かつ埋没しない。
立ち現れ消えていく、変幻自在なその美しさを堪能しました。

あと、響きが下に落ちず明るい発声なのも好印象でした。
ベースですら胸に落ちなく、かつ豊かな響き。
言葉への感覚も繊細で、若さゆえの共感を持って歌われるから、プログラムの良さもあって、全5ステージ約3時間の演奏会でもそれほど疲れず最後まで聴けました。

ただ弱音の繊細さ、大音量の鳴りは良くても、中音域になると音楽の説得力がやや失われがちのような。
そして選曲の幅広さ、作品への深い共感があり気付きにくいけど、音楽の捉え方が少しパターン化している印象も。

しかしそんな印象も吹っ飛ぶ演奏がありました。
第4ステージ、森田花央里さんへの委嘱作品である「星の旅」の演奏。

1曲目「星の旅」のヴォカリーズから壮大な、厳しさと優しさを併せ持つ音楽。
トーンチャイムが効果的に響き世界を作り。
2曲目「どれだけ遠く」では合唱に対するピアノの役割。
最終曲「ひとり」では男声女声それぞれ長くユニゾンで歌われた後、ハーモニーの意味を考えさせられたり。
そもそも多人数で歌う意味は。
歌い手にとって詩のバックボーンは?などさまざまな問いが生まれてくる作品。

最終曲の「ひとり」で男声のあと女声で歌われる「 たとえ答えはどこにもないとしても 」から、まだ血の滲む傷に、音と言葉がそっと手を当てるような感覚に。
作曲者の森田さんは「彼らの未来が幸せになるような歌を書こうと思った」と書かれているが、その幸せは甘いものでは無く。
例えるなら望みがすべて失われ、多くの傷を負い、倒れ、顔をわずかに上げるも視界は曇天。
でも一角にかすかな青空があるよ。
それが幸せと呼べるかもしれないよ。
…そんな音がしました。



年を経て若さゆえの痛みから遠ざかったはずなのに、この作品であの時の痛みが甦る。
音楽的にも「今の合唱曲」への問いと答えが、作品と演奏によって示されたと感じさせた時間。
「星の旅」はG.U.の彼ら彼女たちにとって、永く寄り添う、大切な作品になったことを実感する演奏でした。


そしてこの作品が7月1日に京都で再演されます。

G.U.Choir、同志社混声合唱団こまくさ、神戸大学混声合唱団アポロンによる合同合唱。
指揮は山口雄人さん、ピアノは作曲者の森田花央里さん。


Joint Concert 2018 -Ars novaを求めて-

開催日:2018年7月1日(日)
時 間:14:15開場 / 15:00開演
場 所:長岡京記念文化会館
入場料:一般2000円・学生1000円

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http://guchoir.chobi.net/jc2018/



指揮の山口さんはハンガリーへの留学が決まったため、日本で彼の演奏が聴ける貴重な機会になるかもしれません。
大変残念ながら私は行けないのですが、きっと入魂の演奏が聴けるはず。



心の傷はそれぞれ孤立したものですが、どこか深いところで繋がっていて。
痛みを強く意識させながらも、同時に差し伸べられる手の温かさを感じるような。
そんな厳しく、とても優しい音楽。
「星の旅」、多くの人に聴いていただきたい作品です。