2012年に読んだ小説ベスト7(第4位まで)


2012年に発行された、ではなく
あくまでも「読んだ小説」で上位7作を挙げてみました。




第7位
原田マハ「楽園のカンヴァス」

倉敷:大原美術館の一介の監視員に過ぎない早川織絵。
アンリ・ルソーの大作「夢」を貸し出す窓口として、
ニューヨーク近代美術館のチーフ・キュレーターが
何故か織絵を指名する。
そこにはルソー幻の大作を巡る17年前のドラマがあった!

冒頭の舞台が倉敷の大原美術館ということもあり興味深く読み始めた。
アンリ・ルソーの幻の大作の真贋を追求するミステリーなのだが、
同時に「日曜画家」「税官吏ルソー」とも揶揄される画家、
ルソーの芸術家としての真贋を見極めるミステリーとしても読める。


浅い美術好きの自分でも、
熱く語られるルソーの魅力と物語に強く惹き込まれる内容。
さらに底にあるテーマとして
「たとえ客観的評価が低いとしても、
 己のすべてを賭ける情熱があればいいじゃないか!」があり、
そんな言説には否定的な私も結末近くには燃えるものを感じた!





第6位
山田宗樹「百年法」。

百年法 上

百年法 上

原爆が6発落とされたもうひとつの日本。
敗戦後、日本共和国に不老技術「HAVI」が導入され、
見た目は20歳代の人々が世にあふれる。
そして百年後に死ななければならない
「生存制限法」の施行が迫る西暦2048年。
国民の選択は…。

非常にストーリーテリングが巧みで一気読みの面白さ。
「作家の読書道」でも
著者はそれを意識されているようだ。
時が移り、視点が変わっていくのも飽きさせない。


パラレルワールド「もうひとつの日本」の近未来
というSF設定だが、
現実世界の日本でも差し迫った、
意識せざるをえない問題として痛烈。
それは超高齢化社会への社会的、個人的な問題であったり。
原発とエネルギー問題であったり。
政治小説としてもなかなか考えさせられる内容でした。





第5位
小田雅久仁「本にだって雄と雌があります」

本にだって雄と雌があります

本にだって雄と雌があります

少年が覗いた祖父の書庫には大いなる秘密があった…。
「増大派に告ぐ」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した
小田雅久仁、待望の第2作。
今作は大阪弁で語られる4代にわたるマジックリアリズム

とても良い読後感。
前作の「増大派に告ぐ」も好きだったがあれは読む人を選びそう。
しかし「本にだって〜」は全ての本好きに勧めたい傑作ファンタジー。
中学生の時に読んだエンデの
はてしない物語」を思い出した、と書いたら褒めすぎか。


村上春樹小澤征爾氏との対談本に
「長く残る作家には良い文体のリズムがある」旨の言があったが、
この本にも駄洒落と法螺話をまとめる
軽妙な大阪弁がそのリズムを生みだしている。
小田氏は大学は大阪だが出身は仙台?
ごく幼い頃に関西へ越したのか、耳が素晴らしく良いのかな?


大阪弁の笑いの中にところどころぐっと来る箇所が。
祖母:ミキのこんな言葉とか。
「ひろぼん、こっからここまではもう読んでもたで……。
 本はおもろいなあ。あのまま本が読まれへんかったら、
 世界は半分だけやったわ。
 ああ、あの世に行くまでにどんだけ読めることやら」


それにしてもiPhone持ってると、本に全く集中できない。
昨年11月の富山旅行でもとうとう一冊も読めなかった。
今までの旅行では行き帰りで2冊は読めたものだったが・・・。
うん。本を読もう。もっと。 


「きっとあのころは今よりももっと世界は広く、
 色鮮やかで驚きに満ち、そして私は幸福だったのだ」



(「本にだって雄と雌があります」より引用)



第4位
いしいしんじ「ある一日」

ある一日

ある一日


このブログでも紹介しましたね。
http://d.hatena.ne.jp/bungo618/20120804/1344078875



あの日、自転車を走らせた早朝の空気は今でも憶えています。




第3位からの小説はまた次回に。